聖路加国際病院

St Luke's International Hospital

広報誌St. Luke’s Vol.47 特集

聖路加国際病院広報誌 セントルークス 2022.7 VOL. 47

特集不妊治療から出産、子どもの生育まで、切れ目なく支えます

2022年4月から人工授精や体外受精などの不妊治療も保険が適用されるようになりました。
これを機に、不妊治療を始めることを考えていらっしゃる方もいるかもしれません。
聖路加では、総合病院の良さをいかして、婦人科や内科の病気をお持ちの方でも安心して不妊治療が受けられ、また、妊娠後も安心して出産や子育てを行えるよう、医師、看護師、助産師、臨床心理士などの多職種で親と子を支える環境を整えています。

小児科部長・こども医療支援室 小澤 美和

小児科部長・こども医療支援室

小澤 美和

子どもが育つ環境で大事なのは、やっばり親です。養育者がどういう距離感、視点で子どもをみているのかが大切なので、乳幼児健診では親の“子どもをみる視点”を育てることを大切にしています。

生殖医療センター長・女性総合診療部医長 塩田 恭子

生殖医療センター長・女性総合診療部医長

塩田 恭子

婦人科の病気のほか、高血圧や糖尿病、膠原病など、内科の病気を抱えている方も、一貫して診られるので安心して治療を続けていただけるのではないかなと思います。

聖路加の不妊治療

不妊治療は、タイミング法や排卵誘発法、人工授精などの「一般不妊治療」と、体外受精や顕微受精などの「ART(生殖補助医療)治療」の大きく2つに分かれます。
聖路加では、それらを全般的に行った上で、総合病院ならではの特徴があると、生殖医療センター長の塩田恭子医師は言います。

「当院の場合、麻酔科もあれば手術室もあります。そのため、例えば子宮内膜症や卵巣嚢腫といった婦人科の病気が見つかったときに、先に婦人科の手術をしてから不妊治療に移る、あるいは、先に採卵をしてから手術を行い、その後、胚移植を行うなど、手術と不妊治療を組み合わせながらその方にとってベストな対応を行えることが特徴です」

生殖医療センター長・女性総合診療部医長 塩田 恭子
塩田医師

2022年4月から、不妊治療の保険適用の範囲が広がりました。新たに適用対象となったのが、妊娠しやすい時期に精子を子宮内に注入する「人工授精」、採取した精子と卵子を受精させて、その受精卵を子宮に戻す「体外受精」、体外受精の方法の一つで、精子を直接卵子に注入する「顕微授精」などです。
保険適用の拡大によって多くの方が不妊治療を受けやすくなった一方で、保険診療に入らなかった検査や治療を受けると、すべての費用が自己負担になります。

聖路加の場合、「一般不妊治療にしても、ART治療にしても、すでにエビデンスが確立されている、スタンダードな不妊治療を行っています。今回の保険適用では、エビデンスのあるものは基本的にすべて保険が適用されるようになりました。そのため、当院でもともと行っていた治療はほぼそのまま保険診療に移行しています」と、塩田医師は説明します。

左から前列 塩田恭子(医師) 小澤美和(医師) 佐竹留美子(小児総合医療センター・看護師)
後列 込山恵子(女性総合診療部・外来助産師) 中村希(不妊症看護認定看護師)
松永裕子(臨床心理士) 小幡智子(臨床心理士)

納得のいくゴールに向けて、寄り添う

不妊治療にかかる期間は、人によってさまざまです。
聖路加での不妊治療の場合、体外受精を受ける方の平均年齢は39歳前後で、1回あたりの妊娠率は約35%、最終的な生児獲得率は約24%(2021年実績)。「この数字は、おそらくどの医療機関でもあまり変わらないと思います」と、塩田医師。

約4人にー人の方が体外受精の末に出産というゴールにたどり着いている一方で、なかなか思いどおりに治療が進まない方もいます。また、仕事との両立が難しい方、ゴ—ルが見えずに辛くなってしまう方も。不安や悩みを抱えながら治療を受ける方が多いため、聖路加では、不妊看護認定看護師が週2回「生殖カウンセリング外来」を行い、患者さんの悩みに寄り添っています。

「不妊治療を始める時には『検査はどんなものがあるのか』『費用はどのぐらいかかるのか』などわからないことが多いと思いますので、治療が始まる前にカウンセリング外来を利用される方もいらっしゃいます。仕事との両立に悩んでいる方には『会社にどんなふうに伝えたらいいか』といったお話をさせていただくこともあります。
また、1年以内にうまくいく方もいれば、何年も通っている方もいて、やめ時がわからなくなって辛くなる方もいらっしゃるので、治療を始める前の問診の段階で、大まかな年数や回数、『何歳まで』といったやめ時について、ご夫婦のお考えを伺っています」(中村希・不妊症看護認定看護師)

不妊症看護認定看護師 中村希
中村看護師

一対一での生殖カウンセリング外来のほか、不妊治療を受けるにあたって知っておいてほしい知識を医師が伝える「不妊クラス」「ARTクラス」も月1回行っています。

「不妊治療では、ご本人にその場で選択いただかないといけない場面が多々あります。例えば、採取した卵子のうちどれを受精、移植するか、どれを凍結するかなども、その―つ。その日のうちに決めていただかなければいけないのです」(塩田医師)

だからこそ、本人が納得のいく選択をできるようなサポートを大切にしています。

不妊治療を受けるには

不妊治療は、タイミング法や排卵誘発法、人工授精などの「一般不妊治療」と、体外受精や顕微受精などの「ART(生殖補助医療)治療」の大きく2つに分かれます。
聖路加では、それらを全般的に行った上で、総合病院ならではの特徴があると、生殖医療センター長の塩田恭子医師は言います。

「当院の場合、麻酔科もあれば手術室もあります。そのため、例えば子宮内膜症や卵巣嚢腫といった婦人科の病気が見つかったときに、先に婦人科の手術をしてから不妊治療に移る、あるいは、先に採卵をしてから手術を行い、その後、胚移植を行うなど、手術と不妊治療を組み合わせながらその方にとってベストな対応を行えることが特徴です」

2022年4月から、不妊治療の保険適用の範囲が広がりました。新たに適用対象となったのが、妊娠しやすい時期に精子を子宮内に注入する「人工授精」、採取した精子と卵子を受精させて、その受精卵を子宮に戻す「体外受精」、体外受精の方法の一つで、精子を直接卵子に注入する「顕微授精」などです。
保険適用の拡大によって多くの方が不妊治療を受けやすくなった一方で、保険診療に入らなかった検査や治療を受けると、すべての費用が自己負担になります。

聖路加の場合、「一般不妊治療にしても、ART治療にしても、すでにエビデンスが確立されている、スタンダードな不妊治療を行っています。今回の保険適用では、エビデンスのあるものは基本的にすべて保険が適用されるようになりました。そのため、当院でもともと行っていた治療はほぼそのまま保険診療に移行しています」と、塩田医師は説明します。

「不妊クラス」「ARTクラス」で配布するパンフレット
「不妊クラス」「ARTクラス」で配布するパンフレット

子どもの健康支援

不妊治療のゴールは妊娠・出産ですが、そのゴールに達したら、今度は子どもと生きる新たな人生が始まります。その間を切れ目なくフォローできるところも、聖路加ならではの特徴です。

例えば、女性総合診療部外来を担当する込山恵子助産師は、「妊娠という第一段階のゴールにたどり着いたところから助産師として経過をしっかりと見て、お子さんが生まれたら小児科にお願いします。不妊治療専門の医療機関では妊娠8週ぐらいで卒業となることが多いですが、聖路加では妊娠後も一貫して診られる良さがあるのかなと思っています」と語ります。

助産師 込山恵子
込山助産師

そして、当院の小児科では、今改めて「健診業務」にカを入れています。その理由について、小児科部長の小澤美和医師は次のように説明します。

「東京都の保健所が乳幼児健診を始めたのが1935年なのですが、聖路加の小児科ではその前から、子どもたちの育ちを診る活動を行っていました。もともと『病気をみるだけでなく、人をみる』というキリスト教の精神で始まった病院であり、なかでも世の中で弱い子どもをすごく大事にしていたのだと思います」

「そうした歴史があることに加えて、このコロナ禍でマスクと手洗いとソージャルディスタンスが徹底されたことで子どもたちの間で流行る感染症が一気に減りました。その分、私たちの時間にもゆとりが出たので、原点に返り、子どもたちが健やかに成長できるよう、今改めて行政や教育機関とも連携しながら健診事業と養育支援に力を入れていこうと考えました」

1927年、聖路加国際病院のWell Baby Clinic(乳幼児健康相談所)の様子
1927年、聖路加国際病院のWell Baby Clinic(乳幼児健康相談所)の様子

3歳までは体の発達を 3歳からは社会性を

聖路加では、院内にあるウェルベビークリニックで、主治医制による継続的な健診を行っています。乳幼児健診は3歳までが一般的で、聖路加でもこれまでは3歳までを基本としていましたが、今後は必要に応じて就学前まで継続的に診られる体制を整えます。というのは、社会性が身につき始めるのが3歳前後だからです。

「言葉が出るか、体をうまく使えているかなど、体が健康に発達しているかどうかは3歳までの健診で十分でしょう。ただ、言葉を有効に使えているか、人とうまく付き合えるかといった社会性の部分は3歳から見えてくるところが大きい。デジタル社会になって人とコミュニケーションを取る機会が減ってきていた中でコロナ禍が拍車をかけ、社会性が育ちにくくなっています。だからこそ、4、5歳までは継続的に診ていきたいのです」(小澤医師)


小児科部長・こども医療支援室 小澤 美和
小澤医師

ウェルベビークリニックを担当する佐竹留美子看護師も、「1歳を過ぎたあたりから、親御さんの思い通りにはならないことが増えてくると思います。おそらく不妊治療中には思ってもいなかったようなことが起こってきます。熱心な親御さんほど、教育的な関わりをしてしまうのですが、子どもにとっては遊びがすべてです。子どもたちが遊びながら社会性を獲得していけるよう、親御さんたちのサポートをしています」と、話します。


看護師 佐竹 留美子
佐竹看護師

また、3歳以降のお子さんに対しては、「子どもの強さと困難さアンケート」という質問票を活用し、その子の得意・不得意を見極めながら、より良い関わり方をアドバイスできるよう準備を進めています。

さらに、小さく生まれたり早く生まれたなどでNICU(新生児集中治療室)に入院したお子さんに対しては臨床心理士も関わり、1歳半、3歳、5歳などの節目節目に発達検査を行っています。

「お子さんのことを心配されているからこそ、つい強く叱ってしまう方もいらっしゃいます。でも、みなさん一生懸命に子育てをされているので、なるべく否定はせず、寄り添いながら、『どうしたらもっと楽に、うまく関われるか』という視点をプラスできるよう心がけています」(小幡智子臨床心理士)

臨床心理士 小幡智子
小幡臨床心理士

「子ども心療内科外来」がスタート

これまであった児童精神科は、この7月より「子ども心療内科外来」という小児科内の専門外来となり、発達障害などを中心とした診療から、情緒の問題を抱える子どもや摂食障害を含めた心身症の子どもの診療を中心とした専門外来となりました。心理社会的な問題(ストレス)が元になって体に不調が出るのが心身症で、それが食行動の異常として表れるのが摂食障害です。

「心身症のお子さんは増えていて、なかでも摂食障害は多いのです。こうした病気の治療には入院が必要なこともありますし、命にかかわることもあります。実は自殺と摂食障害は思春期の死因の中では上位なのです。こうした背景があるので、今後、子ども心療内科外来では心身症の診療に力を入れていこうと考えています」(小澤医師)

不妊治療から成育まで切れ目のないサポートを

最後に、聖路加で大切にしていることの―つである「切れ目のないサポート」についてお伝えします。

不妊治療中に、診察室での様子や検査や処置を行う際の会話のなかで気になる患者さんがいたら、中村看護師の生殖カウンセリング外来につなげたり、医学的な説明が必要な時には医師につなげたりと、必要なサポートにつなげることを大切にしています。
また、不妊治療を受ける方は高齢出産の方も多いため、「『出産も心配だから』と、妊娠後も一貫して診てもらいたいという理由で当院を選ばれる方もいらっしゃいます」と、塩田医師は言います。

実際、不妊治療を行う生殖医療センター、産婦人科、小児科と診療科を越えた連携を大切にしていて、例えば、産後の養育環境の調整が必要なご家族は、妊娠中から、産婦人科と小児科で毎月ミーティングを行い、情報共有を行っています。

「気になることがあれば妊娠前後からの様子を共有できているので、乳幼児健診でもゼロからではない関わりができます」と、小澤医師。

なかには二人目、三人目の妊娠を希望して再び不妊外来にいらっしゃる患者さんもいます。その場合も、「出産後のことを小児科から情報共有してもらっているので、スムーズな関わりができています」と、込山助産師は言います。

そして、早産などで赤ちゃんがNICUに入院することになった場合には、臨床心理土が週に1回お母さんのもとを訪ね、心理的サポートを行います。NICUで回診を行っている松永祐子臨床心理士は、「長い不妊治療の末の出産が思いがけない形になって落ち込んでいらっしゃる方も少なくありません。でも、NICUにいる間にお子さんはどんどん大きくなりますので、その育ちのほうに目を向けられるよう、お母様の話を伺い、お子さんの育ちを一緒に喜び、見守っています」と話します。さらにNICUで関わった同じ臨床心理士が、また乳幼児健診などで発達検査を対応することもあります。

このように不妊治療の段階から妊娠・出産後まで、切れ目なく見守っていける体制を整えています。


臨床心理士 松永祐子
松永臨床心理士

がん患者さんの妊娠を守る相談・治療も

切れ目のないサポートという点では、院内だけではなく、他の医療機関との連携も大切にしています。その一つが、「妊娠とがんホットライン」です。これは、がん患者さんの妊娠や出産の悩みについて適切な情報を提供するとともに、その方にとって最適な方法を提案するためのホットライン(電話相談)です。患者さんやご家族からの相談はもちろん、近隣の医療機関からも相談を受け付けています。

妊娠とがん ホットライン
妊娠とがんホットライン

そして、ホットラインを受けたら、毎週木曜に設けている「がん患者さんのためのリプロダクション外来(リプロ外来)」で、さらに話を伺います。

「がんの治療で卵巣機能が低下する、男性の場合は精巣機能が低下することもあります。でも、その前に卵子や精子を取っておくことで妊孕性を温存できることもあります。当院でがん治療を受けられる患者さんだけではなく、近隣の病院にかかっている患者さんの場合にも、ジームレスに連携を取りながら妊孕性温存のための相談外来や治療を行っています」(塩田医師)

もちろん、全員にとってその選択が必要なわけではありません。ただ、妊孕性を温存するかしないかの選択は、目の前にあるがん治療の前にすぐに決めなければいけないものです。

「リプロ外来では、ご本人の気持ちを整理しながら話を伺い、その方にとってより良い選択をできるよう、意思決定のお手伝いをしています」と、中村看護師。

不妊治療にしても、がん治療前後での妊孕性温存の治療にしても、ご本人、ご家族が「どう生きたいのか」が大事です。そのために最善の選択ができるよう、サポートを行っています。

臨床心理士 小幡智子
左から
込山助産師 中村看護師 塩田医師

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