聖路加国際病院

St Luke's International Hospital

神経血管内治療科

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脳動脈瘤

脳動脈瘤とは

脳動脈瘤は、脳血管の壁が弱くなって、バルーン状に拡張したものです。形状によって、嚢状と紡錘状に分類されます。動脈瘤は長い間に自然に形成されるものがほとんどですが、外傷、感染症、または家族性に形成されるものもあります。日本では、動脈瘤の発生が比較的多く、人口の約7%に脳動脈瘤が形成されると考えられ、年間出血率も10万人あたり30人近くあると報告されています。

動脈瘤が未破裂の時は、症状がない場合がほとんどですが、大きな動脈瘤では、脳神経を圧迫して、視力や視野障害、顔面痛、眼球運動障害による複視を呈したり、脳を圧迫して麻痺や知覚障害を呈することもあります。稀に痙攣や、脳梗塞で発症する場合もあります。無症状の脳動脈瘤に対する治療は、治療せずに放置した場合の出血の危険性、動脈瘤の部位と大きさ、家族歴、患者さんの年齢と健康状態、治療のリスクなどを考慮して、総合的に判断する必要があります。

動脈瘤が破裂すると、脳を覆っている“くも膜”という膜の下に出血するので、“くも膜下出血”といわれます。脳内への出血を伴う場合もあります。脳動脈瘤を持っている人のくも膜下出血を起こす危険性は、年に1-2%と考えられていて、大きい動脈瘤ほど出血の危険性が高くなります。最大径7mm以上の脳動脈瘤は、それ以下のものよりも出血の危険性が高いというデータもあります。喫煙や高血圧、過度の飲酒もくも膜下出血の危険因子です。脳動脈瘤が破裂すると、約半数の人が死亡し、20-30%の人は生存するものの神経学的な合併症を残します。脳動脈瘤が破裂すると、重症の場合はそのまま意識がなくなってしまう場合もありますが、意識があると、激しい頭痛、嘔気嘔吐、項部硬直、光線過敏、視力視野障害などがおこります。痙攣が起こる場合もあります。大量のくも膜下出血が起こる1-2日前に、激しい頭痛とともに少量の出血が起こり、それがいったん軽快した後に上記のようなくも膜下出血の症状を呈することがあり、その場合、最初の頭痛は警告性の頭痛と呼ばれます。くも膜下出血の原因の約85%が脳動脈瘤により、5%が脳動静脈奇形、10%が原因不明といわれています。原因不明の場合は、再発の危険性が低く、出血程度も軽い場合が多いようです。動脈瘤によるくも膜下出血の場合は、出血直後24時間以内に再発率が高く、その後徐々に減少します。初回出血後半年以内の再出血率は約50%といわれています。

診断

くも膜下出血の診断は、コンピュータトモグラフィー(CT)によって行われます。診断がはっきりしない場合は、腰から脊髄液をとって出血の有無を確認する場合もあります。くも膜下出血が診断された場合には、脳動脈瘤が存在するかどうか調べる必要があります。その方法は、CTを使うCTアンギオ、核磁気共鳴(MR)を使うMRアンギオ、血管撮影装置を使うカテーテルアンギオがあります。治療を考えた場合は、動脈瘤と脳の血管の詳しい関係を調べる必要があり、最も詳細な検査のできるカテーテルアンギオが必要となります。MRアンギオは非侵襲性なので、脳ドックでよく行われます。カテーテルアンギオは、局所麻酔で行い、足の付け根からカテーテルと呼ばれる細いチューブを動脈の中にいれます。それをX線で見ながら血管の中を通して首の動脈に誘導し、そこから造影剤を注入し、頭のレントゲンを撮影します。最近ではコンピュータによって骨を消して血管だけ表示することが可能で、DSA(Digital Subtaction Angiography)と呼ばれます。コンピュータを用いて脳血管の3次元表示を行うことも可能です。この検査によって、動脈瘤の場所、形、大きさ、脳の血管との詳しい関係を分析して、治療方針を決定します。

治療方法

脳動脈瘤の治療は、出血あるいは再出血を予防するため、脳動脈瘤を閉塞させて瘤への血流を遮断します。その方法には、外科手術と血管内治療の2種類があり、どちらも全身麻酔で行われます(図1)。外科手術は、頭皮を切開し、頭がい骨の一部をあけて、顕微鏡下に、動脈瘤の頸部を動脈瘤用クリップで閉塞します。血管内治療は、カテーテルアンギオのときに使うよりもさらに細いチューブ(マイクロカテーテル)を、やはり足の付け根から血管内を脳動脈瘤の中まで誘導します。このマイクロカテーテルの中を通して、プラチナ製の脳動脈瘤用コイル(図2)を動脈瘤の中にいれ、動脈瘤を血管の中から閉塞させます。このコイルはワイヤーの先についていて、動脈瘤の中にうまく収まった場合に体外から切り離すことができます。コイルが大きすぎたり小さすぎたりした場合は、ワイヤーを引き戻すことにより、コイルを体外に取り出すことができます。この方法を繰り返して、なるべくたくさんのコイルを動脈瘤内にいれて、動脈瘤を閉塞させます。動脈瘤の入り口が大きい場合には、いれたコイルが脳血管内に出てこないように、補助的な道具を使う場合があります。一つは、瘤の中にコイルを入れる際に、動脈瘤の入り口のところで風船(バルーン)を膨らませて一時的に脳血管を閉塞させる方法で、もう一つは、筒状に巻いた金属製の網(ステント)を、瘤の入り口の部分の血管の中に永久に留置して、コイルが出てこないようにする方法です(図3)。

  • 動脈瘤の治療法

    図1:動脈瘤の治療法

  • 動脈瘤治療用コイルの例

    図2:動脈瘤治療用コイルの例

  • ステントを用いた動脈瘤血管内コイル塞栓術

    図3:ステントを用いた
    動脈瘤血管内コイル塞栓術

コイル治療の手順をビデオでお示しします。

イラスト画像とビデオ提供

テルモ株式会社
コッドマン(ジョンソン・エンド・ジョンソン)株式会社
日本ストライカー株式会社

コイルによる血管内治療は、外科手術よりも侵襲性の低い治療法ですが、欠点もあります。ひとつは、治療後に瘤内のコイルが、脳血管の血圧に持続的にさらされることで、これによってコイルが長い間につぶれて動脈瘤が一部開くことがあります。そのため、頭部X線撮影、CTアンギオ、MRアンギオ、カテーテルアンギオなどで定期的に経過観察をする必要があります。また、動脈瘤へ至るまでの血管に、動脈硬化などによる病変がある場合、動脈瘤の入り口が大きい場合、動脈瘤の形が複雑で脳血管が瘤から出ている場合などには、安全な治療が難しくなる場合があります。また、治療に伴う危険性も考慮する必要があります。重大なものは、瘤内でマイクロカテーテルやコイルを操作している際に動脈瘤の壁が破れてくも膜下出血や脳出血を起こす危険性と、治療中に血の塊ができて、脳血管が閉塞して脳梗塞が起こる危険性です。このようなことが起こると、脳の機能が障害されて、麻痺、感覚障害、言語障害、認知障害、視覚障害などが起こったり、重篤な場合には死に至る場合もあります。比較的軽度の危険性としては、血管の壁の一部に傷ができたり、足の付け根からの出血や感染、薬剤に対するアレルギーや麻酔による合併症などがありますが、これらによって永久的な障害を残すことは稀です。これらの危険性は、しっかりしたトレーニングを受けた専門医が、よく注意して行うことにより最小限に抑えられますが、残念ながらゼロにはできないのが現状です。

外科手術と血管内治療とどちらが優れているかに関しては、個々の症例によって異なるため一概には言えません。どちらでも治療可能な破裂脳動脈瘤に関しては、2002年にISAT(International Subarachnoid Aneurysm Trial)という国際的なランダム化臨床試験の結果が発表されました。それによりますと、血管内治療により、外科手術に較べて一年後の死亡と重大な合併症の危険性が絶対値で7.4%、相対値で23.5%減少したという結果が出ています。未破裂脳動脈瘤に関しては、他施設でのランダム化臨床試験がありませんが、後ろ向き研究では、血管内治療の方が外科手術よりも治療予後がよく、入院期間も短いという結果が出ています。

治療方法を選択する場合には、カテーテルアンギオによって動脈瘤の詳しい分析を行い、それをもとに外科手術の専門家と血管内治療の専門家がよく話し合って、個々の症例についてどちらの治療法が適しているかを考えます。場合によっては、動脈瘤が発生している動脈そのものを閉塞させた方がよい場合もあります。治療方針の検討結果を、患者さんやご家族にご説明して、了解がいただけた場合にその方針に従って治療が行われます。一般的な傾向としては、高齢者、重症のくも膜下出血、呼吸器、心臓など全身の合併疾患がある場合、脳の深部の動脈瘤には血管内治療がより好んで行われる傾向があります。脳動脈瘤に対する血管内治療は急速に進歩しており、新しい治療器具も次々と開発されていますので、今後この方法によって治療できる動脈瘤がさらに増え、治療成績も向上していくものと思われます。

  • 画像 術前 大きさ8mmの動脈瘤が認められます。

    (術前)大きさ8mmの
    動脈瘤が認められます。

  • 動脈瘤内に充填されたコイル

    動脈瘤内に充填されたコイル

  • (術後)コイルによって動脈瘤は見えなくなりました。

    (術後)コイルによって
    動脈瘤は見えなくなりました。

治療の概要

  • 基本的に3泊4日の入院で、入院2日目に治療を行います(状況によって長引くことがあります)
  • 全身麻酔で治療を行います
  • 治療数日前から治療後6ヶ月まで抗血小板剤の内服を行っていただきます。ステントを使用する場合はもう一種類血栓予防の薬を内服していただきます。
  • 治療後6ヶ月から1年の時点で経過観察の脳血管撮影を行います
  • 術前に患者さんご本人が十分に納得されるまで説明を行います

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