聖路加国際病院

St Luke's International Hospital

最新のがん免疫療法

免疫・細胞治療科のご案内

近年の免疫治療や細胞治療の発展を踏まえ、がんワクチン療法、細胞免疫療法、遺伝子治療や免疫制御療法などの最先端の治療を皆様にお届けすることを目指して平成26年11月に設立された診療科です。
詳しくは当科ページをご覧ください。

診療・セカンドオピニオンの担当医

平家 勇司

多田 耕平

抗PD-1抗体ニボルマブ(オプジーボ)によるがん免疫治療

1.がんの免疫治療

もともと人間の体には、免疫力が備わっています。体の中の免疫細胞は、外から侵入してきた病原微生物(細菌やウィルス)を異物(非自己)として認識し、それを排除することができます。同じように、免疫細胞は、がん細胞も異物として認識し攻撃することができます。がん細胞の起源は自分の体の細胞(自己)ですが、遺伝子異常が積み重なってがん細胞になっているので、免疫細胞はがん細胞を異物(非自己)として認識できるのです。このような免疫力を利用して、がんを治療しようとする試みが長年なされてきました。近年、その成果がようやく実りつつあります。その1つが、抗PD-1抗体です。このページでは、抗PD-1抗体によるがん免疫療法について説明いたします。
なお、ここでは2016年7月の時点での情報をもとに記載しています。がん免疫療法の進歩は早く、日々情報は更新されています。最新の情報については、当院免疫・細胞治療科までお問い合わせください。

2.抗PD-1抗体とその類似薬の種類

抗PD-1抗体とその類似薬にはいくつか種類があります。現在のところ、次のようなお薬が使用、または開発されています。

抗PD-1抗体
抗PD-L1抗体(抗PD-1抗体の類似薬)
ニボルマブ(商品名オプジーボ)
アテゾリズマブ(商品名ティーセントリック)
ペンブロリズマブ(商品名キートルーダ)
アベルマブ(商品名 未)
 
デュルバルマブ(商品名 未)

*わが国では、ニボルマブ(商品名オプジーボ)のみが、悪性黒色腫(皮膚がんの1種)と非小細胞肺癌に対して承認され、公的保険が使用できるようになっています。

3.抗PD-1抗体はどのようにして治療効果を発揮するのか(薬の作用機序)

抗PD-1抗体は、免疫細胞の1種である「T細胞」の表面に発現しているPD-1というタンパク質に特異的に結合する抗体医薬です。
「1.がんの免疫治療」に記載しましたように、本来、患者さんの体内にあるT細胞は、がん細胞を認識し攻撃する力を持っています(下図 左)。しかし、がん細胞の表面にPD-L1と呼ばれるタンパク質が発現することがあり、このPD-L1がPD-1に結合すると、T細胞はがん細胞を攻撃できなくなることが分かっています(下図 中央)。そこで、PD-1に結合する薬(抗PD-1抗体)を投与し、PD-1とPD-L1の結合を阻害することで、T細胞が本来持っていたがんを攻撃する力を取り戻し、がん細胞への攻撃を再開させる治療法が開発されました(下図 右)。PD-L1に結合する薬(抗PD-L1抗体)でも同じような効果が得られます。

4.抗PD-1抗体の効果が確かめられているがんの種類

これまで、さまざまな種類のがんに対して抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体の効果が治験で確かめられています。治験の段階には3つのステップがあり、第1相、第2相、第3相と順に進められます。第1相では薬の安全性を、第2相では薬の有効性を、第3相ではこれまでの標準のお薬と比較して有効性がより優れているかを、それぞれ確認します。 抗PD-1抗体とその類似薬である抗PD-L1抗体は、現時点(2016年7月)で、次のようながんに対して効果が確かめられています。(カッコ内をクリックするとその根拠としている論文または学会発表の外部サイトに移動します。)

第3相試験で効果が優れていると確認されたがん (わが国で承認されているがん種を緑字で示しました)

第1-2相試験で安全性が確認され、有効性が示唆されているがん

5.副作用について

抗PD-1抗体の副作用は、程度の軽いものや採血検査をして初めてわかるような軽微な異常も含めると約80%のかたで出現します。出現頻度の多い(5%以上)副作用としては、次のようなものがあります。(薬剤添付文書より抜粋)

白血球減少
疲労感
白斑
リンパ球減少
倦怠感
皮膚のかゆみ
下痢
発熱
皮疹
吐き気
食欲減退
血中CK上昇

一方、程度の重い副作用(5段階のうちの3段階目より重いもの)の出現頻度は、従来の抗がん剤と比較して、有意に少ないと報告されています。しかしながら、抗PD-1抗体は、患者さん自身の免疫を活性化するという効果の裏返しで、過剰な免疫反応による副作用が出現することがあり、時に重篤化し生死にかかわるため十分な注意が必要です。副作用は全身のどの臓器にも出現する可能性があります。これまで知られている「重大な副作用」としては、次のようなものがあります。(カッコ内は出現する頻度。薬剤添付文書より抜粋。)

甲状腺障害(14.8%)
ブドウ膜炎(1%未満)
重症筋無力症/筋炎(頻度不明)
間質性肺疾患(5.3%)
末梢性神経障害(2.4%)
腎障害(頻度不明)
大腸炎(1.2%)
副腎機能不全(1.2%)
重度の皮膚障害(頻度不明)
重度の下痢(0.6%)
脳炎(頻度不明)
下垂体炎(頻度不明)
重篤な肝障害(2.9%)
肝炎(頻度不明)
静脈血栓塞栓症(0.6%)
劇症型を含む1型糖尿病(頻度不明)
心房細動などの不整脈や心臓障害(1~5%)
多発神経障害/ギラン・バレー症候群/脱髄などの神経障害(頻度不明)

このように、抗PD-1抗体による重篤な副作用の頻度は高くありませんが、いざ起こったときのためには、緊急に高度な医療を提供できる体制が必要です。また、副作用の治療のためには、がん治療の専門家に加えて、あらゆる臓器の専門家、自己免疫疾患を始めとする各種疾患の専門家の力が必要になります。

6.抗PD-1抗体の今後の展望

抗PD-1抗体は、これまでのがん治療の概念を変えるほど画期的な薬剤です。しかし、残念ながら、すべての患者さんに効果があるというわけではありません。そのため、どのような患者さんに特に効果が期待できるのか、効果を予測するような研究が行われています。また、抗PD-1抗体の治療効果や安全性を高めるための研究もさかんに行われています。