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膝半月板損傷の診断と治療
半月板(はんげつばん)は膝関節の大腿骨と脛骨の間にある三日月に近い形(C型)をした軟骨に似た組織で、内側と外側にそれぞれあります。半月板には膝関節の滑らかな動きを助ける重要な役割(荷重の伝達分散、関節安定性の寄与、潤滑の補助)があります。半月板は周辺部の10-25%までしか血行がなく、それ以外の部位の損傷は自然に治癒しないため、多くの場合、手術が必要となります。
Patient Useful Info Links (English)
Meniscus Tears(膝半月板損傷)
https://orthoinfo.aaos.org/en/diseases--conditions/meniscus-tears/
https://www.nhs.uk/conditions/meniscus-tear/
膝関節には内側半月板と外側半月板があります。
半月板は関節包付着部周辺部の10-25%にしか血管がありません(内側半月板の断面-組織図:Arnoczky SP, Warren RF. Am J Sports Med 1982より)。
症状
半月板損傷は、スポーツ外傷でよくみられますが、高齢者ではささいな怪我や日常生活動作でも損傷(変性断裂)することがあります。円板状半月板損傷では怪我などの明らかな原因がないこともあります。
- 痛みを伴う、ひっかかり感や膝がまっすぐ伸びないなどの症状がしばしばみられます。
- 安静時に痛みがなく、階段昇降時や膝の屈伸時などの動作時のみに痛みやゴキッと音を伴うことがあります。
- 断裂した半月板が関節に挟まるといわゆる「ロッキング」という現象を生じ、膝の曲げ伸ばしが急にできなくなることがあります。
- 膝関節に水が溜まることもあります(関節水腫)。
診断
半月板損傷の診断は、(1)医師の診察(圧痛、マクマレーテスト、アプレ―テスト、過伸展テスト)と(2)MRI(エム・アール・アイ:核磁気共鳴画像)検査により行われます。
- 半月板はレントゲンやCTには映らないため、MRI検査は診断に必須です。
- 半月板の損傷形態はさまざまで、縦断裂、横断裂、水平断裂などがあり、また損傷部位により治癒過程が異なるため、MRI検査は治療方針を決定するためにも有用です。
- 小さな断裂や膝窩筋腱裂孔近傍部の外側半月板損傷はMRI検査でも診断が難しいことがあります。特殊な撮像法に加え、詳細な病歴(受傷機転)と理学所見(医師による診察)により診断します。
内側半月板断裂(水平断裂)のMRI画像
外側半月板断裂(バケツ柄断裂ロッキング)のMRI画像
半月板断裂の関節鏡画像
健常な外側半月板(A)と外側円板状半月板(B)のMRIと関節鏡画像
手術治療
手術は関節鏡下に行います。部分切除術または縫合術、あるいはこれら2つの手技を組み合わせて手術をします。小さな断裂や治癒しない部位の断裂ではその部分のみを切除します(部分切除術)。治癒する可能性のある部位は断裂部を縫合します(縫合術)。
半月板部分切除術
- 手術は、関節鏡(内視鏡)を用いて行います。
- 関節鏡(内視鏡)と手術器械を入れるための2~3ヶの小さな切開(0.5~1cm)のみで手術を行います。
- 切除用の特殊な器械(パンチ、シェーバー)で断裂部を切除します。
- 手術に要する時間は、20~40分です。半月板手術以外に軟骨の追加処置が必要な場合にはさらに時間がかかります。
関節鏡下半月板部分切除術
半月板縫合術
- 手術は、関節鏡(内視鏡)を用いて行います。
- 膝関節内に関節鏡(内視鏡)と手術器械を入れるための2~3ヶの小さな切開(0.5~1cm)から、半月板の損傷個所を確認し、損傷部位、損傷範囲、安定性を慎重に評価します。
- 特殊な器械を使用し断裂部を縫合します。可能な限り、小さな切開(0.5~1cm)のみで縫合できる方法(all-inside法)を選択しますが、断裂部位または縫合方法によっては追加の切開(2~3㎝)を利用して縫合します(inside-outまたはoutside-in法)。
- 断裂部位が複数に及ぶ場合や縫合できない断裂が存在する場合には部分切除術を併用する場合もあります。
- 手術に要する時間は、30分~1.5時間です。半月板手術以外に軟骨の追加処置が必要な場合にはさらに時間がかかります。
関節鏡下半月板縫合術
手術に伴う危険・合併症と予防策
半月板部分切除術は関節鏡手術の中で最も多く行われている手術です。また手術器械の進歩もあり最近では縫合術の適用も増えてきています。しかし外科手術には稀であっても予期せぬ合併症などが生じる可能性もあります。
- 感染:膝半月板手術の術後感染は稀ですが、感染に対する予防策として抗生物質(化膿止め)の予防投与を行っています。
- 肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症):膝半月板手術にかぎらず、他の下肢手術や脊椎の手術、骨折した時などに起こりやすいといわれています。肺塞栓症の頻度は高くはありませんが、当科ではリスクを減らすため、「早期離床と積極的な運動」「理学的予防法(間欠的空気圧迫法など)」を行っています。
- 出血:術後の出血が関節内に貯留することを防ぐために、「ドレーン」という管を関節内に留置しておきます。ドレーンからの出血は手術部位により異なりますが通常100ml以下であり、この程度の出血であれば輸血の必要はありません。
- 駆血帯によるしびれ:手術操作を円滑に行う目的で、駆血帯で下肢への血流を一時的に遮断して手術を行っています。そのため、術後に患肢のしびれを自覚することがあります。駆血時間が長くなれば、よりしびれを強く自覚する傾向にありますが、ほとんどの場合、手術後数日以内に改善します。
- 知覚鈍麻:半月板縫合術では、関節鏡のための小さな切開以外に縫合用の2~3cmの皮膚切開を追加することがあります。切開した皮膚周囲とその外側に知覚が鈍いところができることがあります。これは皮膚表面の極細い知覚神経の損傷によるものですがこれにより下肢の動きが損なわれることはありません。
- 再断裂:半月板切除部に再損傷を生じることは稀ですが、残存半月板や縫合半月板は損傷する危険性があります。半月板の血行は部位により乏しく縫合術をしても治癒には時間がかかるため、縫合部位に過度な力が加わった場合には再断裂の危険性が高くなります。
- 関節水腫:術前から血種や水腫による腫れのある方は術後にも関節水腫が遷延化することがあります。また手術時に関節軟骨に損傷や変性がある方では関節水腫が術後に残存あるいは発生することがあるため慎重なリハビリを要します。
術後のリハビリテーション
膝半月板手術後のリハビリテーションは、切除術か縫合術かにより大きく異なります。内側か外側か、切除または縫合部位・範囲によっても異なります。また軟骨損傷を伴っている場合には、訓練の開始時期は通常遅くなります。そのため、リハビリテーションのメニューは個別に評価し決定する必要があります。
- 当院での入院期間は1泊2日(入院当日手術)ですので外来でのリハビリテーションが中心となります。
- 半月板部分切除術後にはサポーターを含む装具などでの固定は不要で早期から可動域訓練を開始します。術後より荷重を許可していますが手術翌日は松葉杖の使用が勧められます。内側半月板部分切除術では競技復帰までに6~8週間、外側半月板部分切除術で3~4か月かかります。
- 半月板縫合術後には少なくとも2週間は膝装具(ニーブレス)で固定をします。術後はしばらく(2~3週間)免荷(体重をかけない)が必要なため松葉杖を使用します。競技復帰までの期間は縫合部位により異なり、4~6ヶ月かかります。