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肩関節疾患に対する専門的治療
スポーツ障害、外傷と肩関節鏡手術
肩関節は腰、膝に続く愁訴の多い関節です。当科では2006年より肩関節疾患に対して関節鏡手術を開始し、肩関節疾患への診療を提供すべく積極的に取り組んでおります。
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腱板断裂の診断と治療
腱板は四つの筋肉(棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋)から構成されinner muscleと呼ばれる重要な関節の構造体です。肩関節を最も内側で関節を動的に支持する重要な機能を有しています。その腱板を断裂すると腱板断裂と呼ばれます。断裂の原因として
- 加齢:60歳を過ぎると徐々に生じてくる。
- 外傷:転倒や衝突により腕の強い捻転強制や打撲で生じる。
- スポーツ障害:テニスや野球、バレーボールやウエイトトレーニングなど肩を酷使することで生じる。
が、上げられます。
小さい断裂であれば疼痛を引き起こし、時間経過とともに大きな断裂になると筋力低下を自覚します。夜間に痛みを生じることが比較的多く、それが強ければ睡眠障害となり心身の健康を害すこともあります。一般的に"五十肩"としてのみ扱われ疼痛に対する対症療法しか施されない場合もあります。半年以上症状の改善が見られない場合は、一度専門医への受診が必要と考えます。
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診断
図1 左肩MRI 棘上筋腱の断裂を認める。
肩関節の可動痛(動かすと痛い)、引っかかり(impingement:動作の途中で引っかかる)が特徴的な症状です。症状が進行すれば筋力低下が生じ、目の高さに腕を挙上すると疼痛や脱力を自覚する場合もあります。適切な病歴の問診と診察が診断上非常に大切です。
画像診断ではMRIで診断が確定されます。最近は超音波検査を用いることで、外来で早々に診断ができるようになってきています。
治療 関節鏡下修復術
最近の研究から、腱板断裂が生じると、その病状や断裂の大きさが経時的に進行すると考えられています。進行すれば、手術治療はより困難となり、回復の可能性も相対的に下がります。よって、手術加療は患者さんの年齢や社会的背景、症状や腱板断裂の大きさを検討した上で、適応を判断致します。一般に75歳以下の健康で活動的な方は、手術治療を勧めております。一方で、手術治療を速やかに推奨できない方には、リハビリテーションや薬物療法で症状の緩和を図ります。
手術治療は内視鏡を用いて腱板断裂部の修復を行います。縫合糸と人工骨でできたアンカーを用います。入院期間は2泊3日で、手術翌日より歩行、シャワーや着替えが許容されます。
図2 右肩腱板断裂修復術(大断裂) 左:術前 右:術後
図3 右肩腱板断裂修復術(中断裂) 左:術前 右:術後
腱板断裂後変形性肩関節症
腱板断裂を放置すると、腱板は退縮して修復できなくなります。そして肩関節の変形が生じ、慢性的な疼痛と筋力低下が生じます。自分で腕を挙上できなくなってしまった患者さんは、以前は回復が不可能でしたが、近年リバース型人工関節の開発により、疼痛の緩和と挙上動作の回復が得られるようになってきました。当院でも適応を慎重に検討しながら手術を行っており、良好な改善が得られています。
図3 右肩腱板断裂後変形性関節症 左:術前X線像 中:術後 右:術後
手術に伴う危険、合併症と予防策
手術は常に合併症という避けられない出来事が生じ得ます。100%の回避は困難であるため、できる限りの予防や注意を払って治療を行い、生じた場合はできるだけ早く診断して治療に取りかかることが必要です。予期できない合併症が生じることがあるため全ての合併症を説明することはできませんが、主な症状は以下の通りです。
感染:手術はたとえ関節鏡を用いても、手術後感染が生じる場合があります。手術前後には予防的抗菌薬を用い、術後1週間はできる限り自宅安静として発汗や体力の喪失を避けるよう指導しています。しかし術後1週間程度から創部の発赤や疼痛の再燃、発熱が生じれば感染の可能性があり、抗菌薬治療、創部洗浄手術が治療のため必要になります。
神経損傷:手術中の操作により神経を牽引することでしびれや筋力低下が生じることがあります。ほとんどの場合一時的でありますが、慎重に経過を診て参ります。
術後出血:手術中の出血により創部の腫脹が著しくなり、疼痛を強く感じることがあります。安静期間をより長くとってもらい、二次的な感染が生じないよう慎重に拝見します。
静脈血栓症:比較的稀ですが、肩周囲を通過する大きな静脈のつまりにより腕から手への腫脹や疼痛が生じる可能性があります。
術後のリハビリテーション
術後は適切な安静期間による修復部位の治癒と、それに続く関節機能の改善を目的としたリハビリテーションが回復にとって大切です。術後約3週間は装具を用いて肩をできるだけ安静に保ち、創部や修復部の治癒を待ちます。
約3週間の安静期間の後に、術後2、3ヶ月は慎重に関節可動域訓練を行い、柔軟性の再獲得を図ります。3ヶ月を経過して関節可動域が回復したら、必要に応じて筋力トレーニングや日曜生活特性に応じた個別の運動機能改善を図ります。手術後4−6ヶ月で元の日常生活レベルの活動に戻ることが目標になりますが、その時期は手術の経過に応じて決定していきます。
医師の診断は2−4週間に1回の頻度です。リハビリテーションは週1回程度の通院で良いと考えますが、経過によっては2,3回行ってもらうこともあります。当院でもリハビリテーションを行えますが、遠方の方はお近くのリハビリテーション専門施設に紹介差し上げることもあります。