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【経皮的椎体形成術】をご希望の方へ
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経皮的椎体形成術
2009 ASNR ( 北米神経放射線学会)報告
2009ASNR(北米神経放射線学会)が5月16日から21日までカナダのバンクーバーで開催され、聖路加から沼口、渡邉、小林、石山が参加した。
当院での延べ850人(椎体の数は約2500)の経皮的椎体形成術の経験のうちで仙骨部の骨セメント治療(Percutaneous Sacroplasty )について小林が口演発表した。仙骨部への転移性癌と骨粗しょう症による骨折に対する多くの経験(33症例)について本治療の安全性、技術的な工夫や合併症の回避などについて述べた。会場からセメントの量が少なくても効果があるのではないかという質問があったが、小林は術前のMRとCTで骨折部位の場所と骨破壊の程度を正確に判定してセメント量を決め、十分な量のセメントを注入することの重要さを強調した。
石山は椎体形成術の際の術前診断とくにMRで認められる椎弓根の異常について発表した。これまで椎弓根の異常は悪性腫瘍という概念があったが、我々の研究で骨粗しょう症の圧迫骨折でも椎弓根に異常はあることが多く、転移性腫瘍との鑑別が重要であることを指摘した。また骨粗しょう症による圧迫骨折のうちで約30%に椎弓根の骨折を合併していることを報告した。座長からMR診断で造影剤を使用するのは必要かと質問があったが、石山は病態の正確な把握に造影剤が重要であることを強調した。
経皮的椎体形成術-骨セメントを使った圧迫骨折の治療
背景
高齢化に伴い日本人の1千万以上の人が骨粗鬆症の持ち主だと言われています。骨粗鬆症により手足や大腿骨の骨折の他に、椎体(背骨)の変形つまり亀背、側弯、身長の短縮や椎体の圧迫骨折が起こります。
圧迫骨折は体幹部の屈曲時に動きの大きい下位胸椎から上記腰椎に頻発します。圧迫骨折を有する患者さんの多くは無症状ですが、約30% - 40%の方は激痛で苦しみ、長期に亘る臥床と鎮痛剤投与を余儀なくされます。また、痛み自体が緩和しても、歩行困難,起立困難、ADL(activity of daily life) やQOL(quality of life)の低下に悩まされている方も少なくありません。手術的に折れた骨を金属で支える治療法もありますが、一般的には施行されていない。そこで考案された方法が経皮的椎体形成術(Percutaneous vertebroplasty)です。この治療は全身麻酔による大きな手術でなく、局所麻酔で皮膚から椎体に針を刺し、骨セメントを注入することにより、椎体を内部から固定するする方法です。骨セメントは通常polymethylmethacrylate(PMMA)を用いますが、骨に吸収される hydroxyapatiteを使用することもあります。近年欧米で広く施行されているが、本邦においても昨今注目を浴び、すでに多数の施設で施行されている。
治療適応
骨粗鬆症による圧迫骨折で痛みを伴うもの、椎体の腫瘍(癌の転移など)による痛みを伴うものが適応となります。古い圧迫骨折による亀背や側弯があっても、痛みがないものや、症状のないものは治療の適応となりません。
局所の圧痛や叩打痛があれば適応であるが、圧痛がなく、歩行時、起立時に痛みがあり、画像診断で治癒していない圧迫骨折がある場合は治療の適応としている。術前の画像診断は造影MRIが重要で、治癒していない骨折を 適確に診断することができます。
手技
血管撮影装置を使ったX線透視下に施行する方法とCTを用いる方法があります。また血管撮影装置とCT装置の合体したCT-アンギオ装置を使う施設もあります。当施設ではbi-planeの血管撮影装置を使っている。
1.患者はX線透視装置(血管撮影用)のテーブルに腹臥位になって頂きます。皮膚に局所麻酔をして、X線透視下に、約3mm大の生検針を骨折している椎体前方に挿入します。手で針を回しながら挿入するか、ハンマーを使用します。1回の治療は通4椎体までとしている。
2. 粉末状の骨セメントpolymethylmethacrylate(PMMA)約30gに、滅菌バリウム粉末10-12gを混ぜ液体 monomer(methylmethacrylate)を加えてペースト状にして、注射器にて椎体内にゆっくり注入します。注入時には骨セメント注入時に静脈などの椎体以外のスペースに漏れないよう最大限の注意が払われます。セメントの量は骨折の程度で異なりますが、通常は1椎体当たり 2-7 mlです。骨セメントは室温では数分で固まり始めるのですばやく注入されます。重合時間を延長するため、セメントの入った注射器を氷塊で冷却しながら使用しています。
3. 骨セメントは現在国内で商品化されているものはCranioplastic (Johnson & Johnson社)、Simplex P ( Striker社) , Osteobond( Zimmer 社)。重合時間に多少の差がある。
効果
これまでの報告では著明な痛みの軽減は1ヶ月以内に患者の80%-90%以上に認められる。我々は聖路加国際病院で270例以上を経験し、同様の治療効果を得ています。比較的急性期、亜急性期(2ヶ月以内)の骨折で、骨折が2椎体以内の場合、また椎体内に空洞形成があり、偽関節状になっている場合に治療効果が大きいようです。術後治療部位上下の椎体に骨折を起すことが約15%-20%あり、再治療が必要なこともあります。椎体のがん転移に対しても 80%以上の患者に除痛効果があります。
除痛の原因
骨セメントによる「椎体の安定」に起因していると考えられています。他の理由として骨セメントの重合熱(40℃-70℃)による神経への影響、monomer液の神経毒性などが挙げられます。治療後セメント周囲のがん細胞が死滅していた症例もあり、抗がん性が重合熱によるものか、monomer によるものか、骨セメントによるのかは、今後の研究により解明されると期待されています。
合併症
比較的稀であるが、骨セメントによる神経や脊髄の圧迫による症状の悪化、骨髄炎、セメントの静脈への流出による肺梗塞や、ショック死の報告があります。当院ではいまだ大きな合併症の経験はありません。
問題点と今後の発展
術前の適応判定基準にあいまいな点があり、将来の課題である。骨セメントは理想的には、骨に吸収され、しかも十分な強度を有する生体材料が望ましく、今後の発展が期待されています。
- 椎体形成術のための穿刺針 一式
- 針は椎弓根を通過して椎体の前方に留置
患者は腹臥位(はらばい)で治療を受ける。

↓
皮膚と骨膜を局所麻酔後、X線透視下に穿刺針をハンマーを使って注意深く挿入する。

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正面と側面のX線透視で椎体内部に針を挿入する。

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骨セメントの粉を2個の容器に分けて、必要な量を使用。手前の紙袋は滅菌したバリウム粉末(セメントがX線透視下に良く見えるように混ぜる)。

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骨セメント粉末を液状にするための溶媒を注入しているところ。

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骨液状になった骨セメント

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X線透視下に液状の骨セメントを椎体内に注入器で注入しているところ。

83歳女性
注入前
骨粗鬆症による第12胸椎の圧迫骨折(矢印で示した部分。正常の骨は白いが圧迫骨折を起こし治癒していない椎体は黒く見える)。
注入後
骨セメント注入後数時間で痛みが激減。1週間で歩行可能。CT画像にて白い部分が骨セメント

注入前

注入後
82歳女性 歩行困難と背部痛
手術前
MRIにて第12胸椎と第1腰椎の圧迫骨折が見られる。
椎体の黒い部分が折れて治癒していないところ。この部分で背中が曲がっている(亀背)。
第2腰椎の上もつぶれているが、これは古いもので、折れたままで固まっている。
手術後
第12胸椎と第1腰椎に骨セメント注入後のCT検査。白い部分がセメント。術前見られた亀背が改善している。

手術前

手術後
53歳女性
胸椎への乳がん転移のため激痛で動けない。
注入前
背骨のMR検査
第11胸椎の骨転移がある。
注入後
骨セメントを椎体内に注入後のCT検査
痛みは顕著に改善し、患者は4日後に起立可能になった。

注入前

注入後
75歳男性
肝臓ガンの仙骨への転移による激痛でベッド生活
注入前
MR画像で仙骨に大きな転移巣(矢印で囲んだ部分)
注入後
仙骨に骨セメント注入後のCT
数日後腰痛が軽減し1ヵ月後起立可能になった。

注入前

注入後