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硬膜動静脈瘻
硬膜動静脈瘻とは
脳は、3層の膜に覆われて頭がい骨の中にはいっています。この膜は内側から軟膜、くも膜、硬膜といいます。一番外側の硬膜は、文字通り硬くて厚い膜で、頭がい骨のすぐ内側にあり、固有の動脈と静脈を持っています。また、硬膜は2層構造になっていてその中には硬膜静脈洞という静脈血の流れる間隙があります。硬膜静脈洞は、脳の静脈が頭がい骨の外へ出るための通り道になっています。硬膜動静脈瘻は、硬膜の動脈と硬膜静脈洞との間にできる動静脈短絡のことがほとんどですが、稀には硬膜動脈と脳静脈や頭がい骨を貫通する静脈との間に動静脈短絡を形成する場合もあり、これらをすべて硬膜動静脈瘻と呼びます。硬膜動静脈瘻は稀には生まれつき存在していて子供に発症することもありますが、ほとんどは成人に発症し、それらは生またときは存在せず、生まれてから何かのきっかけで形成されます。硬膜動静脈瘻ができる原因は不明のことも多いですが、外傷、感染、手術などに関連して形成されるものもあります。日本では年間に人口10万人あたり0.3人が発症するという珍しい病気ですが、それでも欧米の倍ぐらいの発症率があります。
症状
硬膜動静脈瘻の症状は、その発生部位と動静脈短絡を通って流れる血液の量や方向によってきまります。いちばん軽微な症状は、拍動性の耳鳴りです。これは、動静脈短絡を通る血流による音で、心臓の鼓動に同期して波の音のように聞こえます。日本人に最も多い硬膜動静脈瘻は、海綿静脈洞部に発生し、頭蓋内の硬膜動静脈瘻の半数近くを占めます。海綿静脈洞は、眼の後ろにあって眼の静脈を還流しています。ここに硬膜動静脈瘻ができると動静脈短絡を通ってきた圧の高い動脈血が眼の静脈に逆流し、眼球が突出したり、眼球結膜が充血したり、眼球の運動が障害されて物が2重に見えたりします。ひどくなると失明する場合もあります。また、どこの病変でも静脈洞がつまったり狭くなったりしていると、そこにつながっている脳の静脈に動脈血が逆流して、脳の循環障害がおこります。症状としては、その脳静脈が還流している脳の機能障害で、場所によって麻痺や言語障害、痙攣などがおこり、ひどい場合には脳に出血する場合もあります。静脈に圧の高い動脈血が流れることによる脳の循環障害が広範に起こると脳全体の機能が障害されて、意識障害や痴呆症状などがでることもあります。脳の静脈圧が高い状態が続くと、眼の静脈還流が阻害されて、視力障害が出る場合もあります。
診断
脳硬膜動静脈瘻の存在は、CTアンギオやMRアンギオでほとんどの場合確認できます。脳の静脈圧があがっているかどうかは、MRIである程度わかります。脳の静脈に動静脈短絡の動脈血が流れているかどうかを確実に判定するには、脳血管撮影装置を用いたカテーテルアンギオが必要です。
治療
出血したり、症状のあるものは、治療する必要があります。ただし、症状がなかったり耳鳴りだけで患者さんにとってそれほど苦痛でない場合は、脳の静脈へ動静脈短絡の血液が逆流していなければ治療しない場合もあります。無症状でも、脳の静脈へ動静脈短絡の血液が逆流している場合は、将来脳出血が起こったり、神経症状が出現したりする可能性が高いので治療する必要があります。治療しない場合は、定期的にMRIをとって、動静脈瘻の拡大や脳静脈への逆流が起こっていないかどうかを確認する必要があります。そのような疑いがある場合はカテーテルアンギオが必要です。
治療法には、血管内治療、外科手術、放射線治療があります。最近では血管内治療が進歩したので、ほとんどの場合血管内治療が第一選択の治療法です。血管内治療は、足の付け根の動脈から細いチューブ(マイクロカテーテル)を、動静脈短絡の動脈に誘導して、そこから短絡部を閉塞する経動脈的塞栓術と、足の付け根の静脈からマイクロカテーテルを、動静脈短絡を起こしている部分の静脈洞に誘導して、その部分の静脈洞を閉塞させる経静脈的塞栓術の2種類があります。頸動脈的塞栓術に使われる塞栓物質は、接着性液体のNブチルシアノアクリレート(NBCA)、粉状の塞栓物質、コイルなどがあります。欧米では非接着性の液体のオニキスが多く使われていますが、日本ではこの病気に対しての使用はいまのところ認可されていません。頸静脈的塞栓術にはコイルがよく使われます。経動脈的塞栓術の利点は、静脈洞を温存できる可能性が高いことで、欠点は、多くの動脈が関与している場合にはこの方法だけで根治するのが難しいことです。合併症としては、脳梗塞、脳出血、脳神経麻痺による視力障害、眼球運動障害、顔面の運動知覚障害、嚥下、発声障害などの危険性があります。脳梗塞は硬膜の動脈と脳の動脈がつながっている部分があるためにおこり、脳神経麻痺は、硬膜の動脈がこれらの脳神経も栄養しているためにおこるので、血管解剖をよく分析することにより危険性を最小限にすることができます。脳出血は極めてまれな合併症ですが、動静脈短絡の静脈側が主に閉塞されたときに起こります。頸静脈的塞栓術の利点は、多くの動脈が関与している病変でも根治できる可能性が高いことで、静脈洞が詰まっていてもその部分を通ってマイクロカテーテルを病変まで誘導できる場合もあります。欠点は静脈洞を治療によって閉塞させてしまう可能性が高いことです。合併症としては、脳梗塞や脳神経麻痺の危険性は頸動脈的塞栓術よりも少なく、静脈損傷による出血は少し高くなります。どちらの方法も利点と欠点があるので、血管解剖をよく分析して治療方針を決める必要があります。時には両方併用する場合もあります。外科手術と放射線治療は、現在では、血管内治療だけで根治できないときに考慮される治療法です。