聖路加国際病院

St Luke's International Hospital

消化器・一般外科

膵疾患

膵疾患に対する手術

はじめに

膵臓は臍とみぞおちの間、上腹部にある臓器です(図1)。膵液と言われる炭水化物やタンパク質、脂肪を分解する消化酵素や、血糖値を下げるインスリンをはじめとした様々なホルモンを分泌する働きがあります。

膵臓は上腹部の中でも最も奥まった位置にあり、胃・十二指腸、肝臓、胆嚢、胆管、脾臓、横行結腸など様々な臓器と接しています(図2)。また複数の動脈や、門脈といった太い血管に取り巻かれています。

膵疾患に対する手術ではこういった臓器や血管を慎重に温存、あるいは合併切除しながら進めていきます。

当院では肝胆膵手術を受けられるすべての方に対し、下の図の様に術前CT画像を特殊な解析ソフトで立体構築した3D画像を作成しています(図3)。術前にこの3D画像を詳しく観察・検討することで、出血の少ない、正確な手術が可能となります。

特に背面図において、膵臓に背中側から回り込むように流入する血管がよくわかります。

膵臓は多彩な腫瘍が発生する臓器です。比較的数が多いものを挙げると以下のようになります。

  • 膵管癌(一般的に“膵癌”と呼ばれるものです)
  • 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMNと呼ばれることもあります)
  • 膵粘液性嚢胞腺腫
  • 膵漿液性嚢胞腺腫
  • 神経内分泌腫瘍

このようにさまざまな腫瘍がありますが、手術方法を選択するにあたって一番重要なことは「膵臓のどの位置に病変が生じたか」です。腫瘍が発生した位置に応じて、大きく2種類の手術方法があります。

① 膵頭部に生じた病変の場合

膵臓の頭側(十二指腸に近い位置)にできた腫瘍には「膵頭十二指腸切除術」という手術が行われます。当院ではその中でも胃の大部分を温存する「亜全胃温存膵頭十二指腸切除術」という最も一般的な方法で行っています。
膵頭十二指腸切除はお腹の手術の中で最も難易度の高い手術の一つです。複雑な内容になりますので、図を使ってご説明します(図4)。

膵頭部には肝臓と十二指腸をつなぐ胆管という管が通っており(胆嚢はこの胆管の途中につながっています)、また胃や十二指腸にも接しているため、これらの臓器を合わせて切除する必要があります。膵臓は、通常、門脈〜上腸間膜静脈の全面で切離します。また、癌の場合には、転移が疑われるリンパ節も一緒に切除します。

切除が終わった後は下の図のようになり、胃と空腸、胆管、膵臓の切離断端が残っています(図5)。

次に、再建と呼ばれる工程です。空腸の断端を持ち上げて、膵臓、胆管、胃の順番につなぎ合わせます。それぞれ膵空腸吻合、胆管空腸吻合、胃空腸吻合という名前で呼ばれます(図6)。この3ヶ所の吻合によって膵液や胆汁といった消化液、また胃から腸への食事の通り道を作ります。

これで手術は終了ですが、術後にお腹の中に溜まる腹水や、吻合部から滲み出た膵液または胆汁などを体外に出すための管(ドレーンと呼ばれます)を2本置いておきます。また膵臓の状態によっては、膵液を予防的に外に出すための管(膵管チューブと呼ばれます)が追加になる場合もあります。ドレーンについては早ければ術後2,3日目に抜去します。膵管チューブが必要になった場合には、通常、術後3〜4週間を目処に外来で抜去します。

手術時間は6〜8時間で、出血量は多くの場合200-300mL以内と少量ですので、輸血が必要になることもほとんどありません。手術後の入院期間は、術後の経過にもよりますが、7-10日です。

膵頭十二指腸切除術はこのように複雑な切除・再建の手技が必要となり、また悪性度が高い膵癌が対象となることも多いため、確実な根治切除と合併症のない再建を目指して、当院では開腹での手術を行っております。

通常、膵頭十二指腸切除術後の入院期間は3週間以上とされていますが、特に高齢者の方で、長期の入院は筋肉量や筋力が減少し(二次性サルコペニアと言います)、認知機能が低下する原因ともなる場合もあります。
そこで当院では、「患者さんが、術後、より早く元気になって、1日でも早く手術前の生活に復帰出来ることこそが”真の低侵襲手術“」との考えのもと、我々外科医だけでなく、麻酔科医や看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士らによる多職種連携チームで術後の早期回復に取り組んでいます。
具体的には、手術に向けて患者さんの状態を整えるリハビリや食事・栄養指導、手術の不安を解消する詳細な術前説明、体への負担が少ない麻酔管理と合併症や出血の少ない丁寧な手術、適切な疼痛コントロールによる術後早期の離床(ベッドから起き上がったり、歩いたりすること)と経口摂取の再開を実践し、日本で一番短いと言われる術後在院日数を実現しています。

② 膵尾側に生じた病変の場合

膵臓の尾側(脾臓に近い側)にできた腫瘍に対しては「膵体尾部切除術」という手術が行われます。
膵頭部と違って、膵臓の尾側には胃や十二指腸といった腸管は接していません。そのため、腸管の切除や吻合といった複雑な手技が必要になることはほとんどありませんが、腫瘍の悪性度や進行度に応じて、脾臓や副腎、横行結腸といった周囲の臓器を合併切除します。

まずは最も一般的な、脾臓合併切除を伴う膵体尾部切除術についてご説明します。膵臓を切離する位置は先の膵頭十二指腸切除術とほとんど同じです(図7)。

膵臓の尾側には脾臓があり、この脾臓に血液を送る脾動脈と脾臓からの血液が戻る脾静脈は膵臓に接しています。そのため、一般的にはこの脾動脈・脾静脈とともに、腫瘍を含む膵臓を切除します。

膵臓と脾動脈、脾静脈を切離した後、通常は上の図の①に沿って手術を進めます(図8)。
特に膵癌などで、癌が膵臓を越えて周囲に広がっているような場合、上の図の②に沿って左副腎も合併切除する場合があります(見やすくするために胃や十二指腸などは図から省いています)。

切除が終わった後は下の図のようになります(図9)。

膵体尾部切除術で、特に良性の腫瘍が対象となる場合には脾臓を温存する術式(脾臓温存膵体尾部切除術)も行っています(図10)。

この術式の場合、膵臓を切離した後、膵臓と脾動脈・脾静脈との間を剥離して膵臓だけを切除します。脾動脈・脾静脈と膵臓の間には何本もの細い血管が交通しています。これらを丁寧に処理して血管を温存することで、脾臓も温存することができます。
ちなみにこの脾臓ですが、ヒトの体では主に免疫を担当する臓器で、体の中に入ってくる細菌やウィルスを排除する役割を担っています。成人の場合は、脾臓がなくても極端に免疫力が落ちるわけではありませんが、ごくまれに重症の細菌感染症の原因となる場合があります。
そこで当院では、感染症内科と連携の上で、脾臓合併切除となる可能性のある手術を受けられる患者さんには、術前から術後までの計画的なワクチン接種を行っています。このワクチン接種により、脾臓摘出術後の重症感染症をほぼ回避することが可能になると考えられています。

膵体尾部切除術では膵臓の切離断端から膵液が漏れることが多いため、この部分にドレーンを留置します。膵頭十二指腸切除術と同様に、このドレーンも経過を見ながら術後3日目以降に抜去します。

手術時間は4-5時間で、出血量はこれも先述の膵頭十二指腸切除術と同様200-300mL以内で、輸血が必要となることもほとんどありません。術後の入院期間は7-10日間です。

膵体尾部切除術では症例に応じて腹腔鏡手術もおこなっています。良性や低悪性度の腫瘍、または脾動脈根部や上腸間膜動脈から離れた膵癌などが適応となります。開腹手術と腹腔鏡手術を比較したときの最も大きな差は「創の大きさ」です。例として膵体尾部切除術における開腹手術と腹腔鏡手術の創についてお示しします(図11)。

手術における創の大きさは、術後の痛みや退院・社会復帰までにかかる日数に影響すると言われています。そのため創が小さくてすむ腹腔鏡手術には一定のメリットがあります。その一方で腫瘍の位置や大きさ、悪性度といった点から腹腔鏡では確実な切除が難しいこともあります。
当院では、症例ごとに開腹手術と腹腔鏡手術のどちらが患者さんにとってより適切かを慎重に見極めて適用しています。そして開腹手術が必要となった場合でも麻酔科医や看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士らと連携の上で腹腔鏡手術と遜色のない疼痛コントロール、早期退院・社会復帰を実現しています。

膵頭十二指腸切除術と膵体尾部切除術以外にも、数は少ないですが、膵中央切除術や膵腫瘍核出術、膵全摘術などの術式があり症例に応じて適用しています。

実際の症例

膵癌

腫瘍の存在部位により、膵頭部(膵臓の十二指腸寄りの部分)の癌であれば、膵頭十二指腸切除術と言って、膵頭部、十二指腸、空腸の一部、総胆管、胆嚢をリンパ節とともに切除する術式を行います。門脈に浸潤がある場合には、門脈合併切除術も行っております。なお当科では、胃のほとんどを温存する亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を行っており、術後合併症はほとんどなく、最近は多くの患者さんが術後7〜14日で退院されています。膵体尾部(膵臓の十二指腸から離れた部分)の癌であれば、膵体尾部切除術と脾臓摘出術を行います。進行度や周囲臓器への浸潤の有無を評価し、開腹手術または腹腔鏡手術を行っております。

膵頭部癌(膵癌)

膵のう胞性腫瘍

腫瘍の存在部位により、亜全胃温存膵頭十二指腸切除術または膵体尾部切除術を行います。膵体尾部切除術の場合、当科では、通常の腹腔内アプローチに加え、後腹膜アプローチ先行の腹腔鏡下膵体尾部切除術も積極的に行っております。また、症例に応じて、脾臓を温存する脾動静脈温存腹腔鏡下膵体尾部切除術も行っています。

膵のう胞性腫瘍

担当スタッフ

海道 利実

膵頭部癌や膵体尾部癌、膵のう胞性腫瘍などの、多くの膵臓疾患の手術を行っています。
どうぞお気軽にご相談ください。

宮地 洋介

聖路加国際病院で受けられる膵臓外科治療の特徴

当院には外科医だけでなく、内科医も麻酔科医も一流の専門家が揃っています。患者さんにとって適切な医療を提供できるよう、専門家が個々の患者さんに寄り添って治療法を提案・実施しています。
また、看護師・栄養士・理学療法士・言語聴覚士・ソーシャルワーカーなどの専門家も、入院・手術の前から、入院中・退院後も一丸となって療養生活をサポートしています。

 

年齢・心臓病など他の病気のために「手術・治療が実施できない」と言われた方であっても、当院では可能な場合もあります。
まずはお気軽にご相談下さい。

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