聖路加国際病院

St Luke's International Hospital

泌尿器科

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骨盤臓器脱

骨盤臓器脱ってどんな病気?

骨盤内の臓器が腟から飛び出してくる病気です

骨盤底筋は年齢・出産・肥満・便秘などで緩んできます

筋肉がゆるむと支えられていた臓器が徐々にさがってきます

びっくり骨盤臓器脱の歴史~昔はこんな治し方をしてました~

紀元前2000年頃 エジプト人が子宮脱の記載
紀元前460~377年

ヒポクラテスが臓器脱患者の腟へザクロを入れる
または椅子に逆さに縛って激しく揺する治療を導入

西暦1050年

トロトゥラが布の切れ端をボール状にして腟に入れる

西暦1559年 キャスパー・ストロマイヤがワックスでコーティングしたペッサリーを考案
西暦1603年 カストロが「赤く焼けた鉄をおしつけた子宮はびっくりして腟のなかに引っ込むだろう」と報告
西暦1663年 ヘンドリック・ヴァン・ローンホイゼがコルクでできたペッサリーを考案
西暦1675年 ボルカマーが子宮を縛って腐らせる治療を発表
西暦1860年

ヒュー・レノックス・ホッジが環長方形のリングペッサリーを考案

1970年頃 開腹手術での仙骨固定術開始
1990年頃 腹腔鏡下手術での仙骨固定術開始
2004年 フランスにて経腟メッシュ手術開始
2005年 日本にて経腟メッシュ手術開始
2011年 経腟メッシュ手術が保険適応となる
2012年 米国にて経腟メッシュ手術の合併症について警告
海外でのキット製品による経腟メッシュ手術は減少
2014年 腹腔鏡下仙骨固定術が保険適応となる
2019年 欧米での経腟メッシュ手術終了
日本での経腟メッシュ手術は国産メッシュ(ORIHIME)のみが使用可能となり、事前の手術登録が義務化
2020年~ ロボット手術による仙骨固定術が保険適応となる

(永田一郎先生:臨産婦63巻5号2009年5月 古山将康先生:日産婦誌63巻12号より抜粋)

骨盤臓器脱の分類 出てくる臓器で名前がちがいます

骨盤臓器脱は下がる臓器によって呼び方が異なります。ただし原因は同じ筋肉の緩みです。

① 膀胱瘤(Cystocele)

腟の外に丸くて柔らかいピンポン玉のようなものが触ることが多いです。
トイレが近くて治らない、お小水をするときに出にくいといった症状が特徴的です。また何度も膀胱炎を繰り返す方は要注意です。

② 子宮脱(Uterine Prolapse)

腟の外に少し硬く丸いものを触れることが多いです。時に下着とすれての出血を起こすことがあります。

③ 直腸瘤

腟の後ろのほうに丸くて柔らかいピンポン玉のようなものが触ることが多いです。
時に便秘や下痢といった排便の症状を起こすことがあります。

③ 腟脱症

子宮は手術でとったはずなので腟から何か出てくる方は要注意です。子宮筋腫や子宮内膜症で手術をされてから10年以上を経過して下がってくることが多いです。手術をしたはずなのにツルっとしたピンポン玉が触れるのが特徴です。

手術をしない臓器脱の治療

リングペッサリー

(フジメディカルより提供)

腟にリングをいれて下がらないようにします。リングを長期間入れると出血や痛み、違和感の原因となりますので、なるべくご自分で毎日交換していただく方法をお教えいたします。ただしご自分で交換が難しい場合には2~3ヶ月ごとに外来にて交換いたします。
リングペッサリーも多くの種類がありますので、自分にあったリングを選ぶことが必要です。
特にMilexペッサリーは出し入れに痛みが少なく、様々な種類を提供しております。

当院ではリングペッサリーの自己着脱をお勧めしております。
日本ではリングペッサリーは病院で交換することが多いのですが、海外では毎日取り外す方法が一般的です。朝入れて寝る前に外すことで腟を清潔に保ち、リングも長持ちさせることができます。難しいと思われるかもしれませんが、当院では女性泌尿器科専門医によるフィッティングを行った後に、泌尿器科専門看護師が親切丁寧にご説明いたしますので、ほとんどの方が自己脱着できるようになります。

リングペッサリー自己脱着の流れ
受診当日 女性泌尿器科専門医による問診

内診台で内診 リングペッサリーのフィッティング

専門看護師による説明、リングペッサリー注文
2週間後 リングペッサリー購入

専門看護師による自己着脱指導(方法や注意点について)
2か月後 専門医による内診 専門看護師のカウンセリング
6か月後 専門医による内診 以後定期受診

フェミクッション

腟からクッションをあてて臓器脱を抑える専用の下着です。
手術前または軽症の臓器脱の方でペッサリーを希望されない方には効果があります。

(女性医療研究所より提供)

メッシュを用いない手術方法

昔の骨盤臓器脱手術は子宮摘除術と腟壁形成術が主流でした。しかし子宮を摘出すると短期間の間に膀胱瘤や直腸瘤、小腸瘤出現することがあります。施設によって頻度は異なりますが、再発率が約3倍ともいわれており、重症の臓器脱の治療にはメッシュを使うことが多くなっております。
しかしメッシュを挿入することによる性交時の痛み・違和感や稀におこる腟壁からのメッシュ露出といったメッシュ特有の合併症が報告されております。当院では患者様の年齢、生活様式、希望に応じてメッシュを使用しない手術方法も行っております。

お腹を切らない経腟メッシュ手術(TVM手術)

2000年頃より開始されたポリプロピレンメッシュによって筋肉を補強する方法が経腟メッシュ(TVM)手術です。お腹を切らずに1時間程度で行うことが可能ですが、2012年頃より海外では性機能に対する合併症が問題となっております。そのため臓器脱治療に習熟した女性泌尿器科専門医が実施することが必要となります。聖路加国際病院では、臓器脱治療を専門とする医師が国産メッシュ(ポリテトラフルオロエチレンメッシュ)を使って執刀いたしますので安心して受けていただけます。特に高齢の方で臓器脱の治療を希望される方に適していると考えられます。

(上からみた図)

ロボット支援下仙骨固定術

経腟メッシュ手術はシンプルで再発率の低い術式ですが、性機能に関する合併症が多く報告されるようなってきたため海外では減少しています。それに代わって腹腔鏡下仙骨固定術が開始されました。腹腔内よりメッシュを挿入することによって、腟内に生ずる合併症を減らしながらメッシュによる補強を維持できるため欧米では約20年前から導入され標準治療となっております。(特に性機能の温存を希望される若年の方がよい適応と考えます)

以前は開腹手術として行われており、身体の負担が大きかったのですが、2014年からは腹腔鏡下仙骨固定術が保険適用となり、2020年からはロボット支援下仙骨固定術も保険にて行うことが可能となったため、より傷は小さく・低侵襲に行うことができます。

ロボット手術は3つの機器で行います。
飛行機のコックピットのような操作台です。

仙骨固定術の概要

① 最初に子宮を摘出します

② 子宮の出口(頚部)は残します

③ メッシュを膀胱・子宮頚部に固定して仙骨に固定します

(実際の縫合:イメージ)
指で操作すると体の中のアームが動きます。
人間の手よりも自由で繊細な操作が可能です。

治療のまとめ

当院では日本で行われている全ての手術方法が実施可能です。年齢や生活スタイルなどにあわせてご希望の治療方法から選んでいただくことができます。

従来の方法 経腟メッシュ手術 ロボット補助下仙骨固定術
長所 メッシュが不要
短い手術時間
お腹を切らない
再発率が低い
短い手術時間
子宮を取らない
お腹を切らない
再発率が低い
性交渉が可能
欠点 再発率が高い
性機能の低下
高い技術が必要
メッシュの露出
性機能の低下
手術時間が長い
膣壁へのメッシュ露出
手術時間 1~1.5時間 1~1.5時間 3~3.5時間
入院期間

5日間(原則)

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