聖路加国際病院

St Luke's International Hospital

整形外科

整形外科のお知らせ

  • 読み込み中

膝前十字靭帯損傷の診断と治療

膝前十字靭帯(ACL: anterior cruciate ligament)は膝関節の安定性のためにとても重要な靭帯であり、これが損傷すると「膝が抜ける」、「膝がはずれる」、「膝がずれる」などといった不安感により、日常生活やスポーツに支障をきたします。新鮮前十字靭帯損傷は一部を除き、ギプス固定では治癒しないこと、さらに放置した場合、半月板損傷や関節軟骨の変性・損傷をきたす可能性があり、痛みやひっかかり感が出てくることもあります。日常生活においても不安感を生じる方やスポーツ選手などの活動性の高い方には手術的治療がすすめられます。

Patient Useful Info Links (English)

Anterior Cruciate Ligament (ACL) Injuries(膝前十字靭帯損傷)
https://orthoinfo.aaos.org/en/diseases--conditions/anterior-cruciate-ligament-acl-injuries/
https://www.nhs.uk/conditions/knee-ligament-surgery/

症状

膝前十字靭帯損傷は、スポーツ活動中に発生することが多く、ジャンプからの着地、急停止、急な方向転換(カッティング動作)などによって発生します。
⇒膝関節を横からみた模式図(オレンジ:前十字靱帯(ACL)、紫:後十字靱帯(PCL))

ACLが断裂する(B)と前方不安定性が生じ、膝くずれなどの症状が出やすくなる。

  • 怪我をした瞬間には、何かブチッと切れたような音や、膝が突然はずれたといった感覚を生じたりします。
  • しばらくすると(数時間~数日)、関節内に徐々に血がたまり、膝全体が腫れて痛みを伴うようになります。損傷による出血が少ない場合には、半月板損傷軟骨損傷、他の靱帯損傷が合併していなければ、多少の腫れは伴いますが強い痛みを感じることはほとんどありません。
  • 怪我をしてしばらくすると、膝の腫れも次第におさまり痛みも軽減しますが、膝をひねったり、急に止まろうとしたりする時に、膝くずれなどの不安感(膝が抜ける、膝がはずれる)を感じるようになります。
  • 半月板関節軟骨の損傷を合併していると痛みやひっかかり感を伴うことがあり、断裂した半月板がロッキング(断裂した半月板が関節に挟まる)している場合には膝がまっすぐに伸ばせないなどの症状も伴います。

診断


膝のMRI画像(矢状断:膝中央を横から見た画像) 膝前十字靭帯(ACL)は断裂しており(中央)、関節内に血種(白く見える部位)が貯まっている。

膝前十字靭帯損傷の診断は、(1)医師の診察による不安定性テスト(ラックマンテスト、前方引き出しテスト、ピボットシフトテスト)と(2)MRI(エム・アール・アイ:核磁気共鳴画像)検査などにより行われます。
・怪我をして間もない時期には、痛みや腫れにより充分な身体所見がとれず、診察を受けても明らかに診断されない場合があります。
・MRI検査は膝前十字靭帯損傷の診断に有用で、靭帯だけでなく、半月板、骨、軟骨などの他の組織も同時に評価することができます。

手術治療(靭帯再建術)

膝前十字靭帯損傷では、損傷した靭帯を縫合しても安定した成功率を得ることが難しく、安定した膝関節機能の再獲得には自家腱(自分の腱)移植による靭帯再建術が必要となります。入退院の流れ

手術方法


関節鏡でみた健常な膝前十字靭帯(ACL)

手術は、関節鏡(内視鏡)を用いて行います。


断裂した膝前十字靭帯(ACL)

膝前十字靱帯(ACL)再建術直後の関節鏡画像
(解剖学的再建術:AMB前内側線維束、PLB後外側線維束)

  • 膝関節内に関節鏡(内視鏡)と手術器械を入れるための2~3ヶの小さな切開(0.5~1cm)と、腱採取と骨孔(腱を関節内に移植して骨に固定するための骨内トンネル)を作成するための約3cmの切開を用いて行います。
  • 関節鏡(内視鏡)で、靱帯、半月板、軟骨、滑膜などの関節内構成体を十分に観察し、断裂した膝前十字靭帯の状態を注意深く観察します。膝前十字靱帯の太さ(サイズ)や骨への付着部には個人差があるため、断裂した部位とともに本来の解剖学的付着部を慎重に確認します。
  • 特殊な専用ガイドを利用し靱帯本来の解剖学的付着部の適切な位置に骨孔を作成します。
  • 靭帯再建用に採取した腱を骨孔を通して関節内に移植し金属製固定具(ボタン、スクリュー、ステープルなど)で骨に固定します。
  • 靱帯再建用の移植腱は、採取しても術後に機能障害を生じない腱を使用します。膝屈筋腱、骨付膝蓋腱、骨付大腿四頭筋腱などが主に使用されています。当院では、再手術や複合靭帯損傷などの特別な場合を除き、膝屈筋腱を移植材料として使用しています。
  • 手術に要する時間は、1~1.5時間です。靭帯再建術以外に半月板軟骨の追加処置が必要な場合にはさらに時間がかかります。

手術に伴う危険・合併症と予防策

膝前十字靭帯再建術は国内外で広く行われている手術であり、ほとんどの方が問題なく日常生活に戻り競技復帰を果たしています。しかし外科手術には稀であっても予期せぬ合併症などが生じる可能性もあります。

  • 感染:膝前十字靱帯再建術の術後感染は稀ですが、感染に対する予防策として抗生物質(化膿止め)の予防投与を行っています。
  • 肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症):膝前十字靱帯再建術にかぎらず、他の下肢手術や脊椎の手術、骨折した時などに起こりやすいといわれています。肺塞栓症の頻度は高くはありませんが、当科ではリスクを減らすため、「早期離床と積極的な運動」「理学的予防法(間欠的空気圧迫法など)」を行っています。
  • 出血:術後の出血が関節内に貯留することを防ぐために、「ドレーン」という管を関節内に留置しておきます。ドレーンからの出血は通常100~200ml程度であり、この程度の出血であれば輸血の必要はありません。
  • 駆血帯によるしびれ:手術操作を円滑に行う目的で、駆血帯で下肢への血流を一時的に遮断して手術を行っています。そのため、術後に患肢のしびれを自覚することがあります。駆血時間が長くなれば、よりしびれを強く自覚する傾向にありますが、ほとんどの場合、手術後数日以内に改善します。
  • 知覚鈍麻:膝前十字靱帯再建術では、腱採取と骨孔作成のために膝前面に約3cmの皮膚切開をしています。切開した皮膚周囲とその外側に知覚が鈍いところができることがあります。これは皮膚表面の極細い知覚神経の損傷によるものですがこれにより下肢の動きが損なわれることはありません。
  • 関節拘縮:ほとんどの方が術後1年でほぼ正常な関節可動域を獲得できますが、術前の関節損傷の程度やリハビリテーションの進行具合により軽度の伸展制限や屈曲制限が残存することが稀にあります。
  • 再断裂:当科のリハビリテーションメニューは再建靭帯の治癒過程を十分に考慮して作成されており、通常のリハビリテーションメニュー内においては問題を生じることはほとんどありません。リハビリテーションのスケジュールを逸脱し、再建靭帯の強度を越える力が加わった場合には再断裂の危険性が高くなります。

術後のリハビリテーション

膝前十字靭帯再建術後のリハビリテーションはとても重要です。日常生活に不自由なく戻り、元のレベルの競技に復帰するためには慎重かつ積極的なリハビリテーションへの参加が必要です(実際のリハビリテーションスケジュールについては下記参照)。

術後5週目以降のリハビリ動画はこちらをご覧ください。

  • 術後リハビリテーションは、入院リハビリと外来リハビリに分けて行います。
  • 当院での入院期間は4~7日間であるため、入院中には松葉杖による歩行訓練、装具装用下での筋力増強訓練を開始します。
  • 外来リハビリではリハビリテーションの種類と強度を段階的に上げていきます。装具がとれるまでの術後2ヵ月の間に筋力の増強をはかりながら十分な関節可動域と歩行能力を獲得します。
  • 装具がとれてからは(術後3ヵ月以降)、スポーツ復帰に向けたトレーニングを自宅や職場でも積極的に行います。
  • スポーツ復帰に向け、段階的にトレーニングをすすめ、術後6ヵ月でダッシュ、ジャンプを含むフィジカルトレーニングを開始し、術後8~12ヶ月で競技復帰をめざします。
  • 医師の診察は、術後2ヵ月の間は、1~2週毎に、術後3ヵ月以降は1ヵ月毎に行います。必要に応じて、MRI検査による評価を行います。

トップへ