聖路加国際病院

St Luke's International Hospital

麻酔科

  • 2017年12月11日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2017年10月31日 7:00-8:00
    演題:手術痛のメカニズムと術後鎮痛
    演者:川真田樹人先生(信州大学医学部 麻酔蘇生学教室 教授)

    手術という侵襲に伴う急性の「痛み」が生じることはもちろん、損傷された様々な組織や神経、臓器の炎症に伴い多様な痛みが生じます。手術に関連して生じる様々な痛みのメカニズムと鎮痛手段について、この分野の第一任者である川真田先生にご講演ただきました。

    最初に痛みの伝導・経路についてお話していただきました。組織を損傷すると細胞が破壊され、ATPやヒスタミン、セロトニン、プロスタグランジンが出てきて末梢を刺激します。すると術前よりも術後の方が同部位に刺激を加えた場合の発生する活動電位が多くなる末梢性感作(Peripheral sensitization)が起こります。また脊髄後角ニューロンにおけるWind-up現象(電気刺激・機械刺激を繰り返すと静止膜電位が上がっていき、刺激がなくなってもしばらく興奮が持続する現象)により中枢神経(脊髄+脳)の過剰興奮である中枢性感作(Central sensitization)が起こることが、手術痛が増強する原因であると教えていただきました。また末梢神経終末には、47℃以上の熱刺激や15℃以下の冷刺激、pH 6以下、トウガラシやわさびの痛みなどを感知するセンサータンパクが、現在数十種類存在することが知られています。近年ではメスで切開する機械的痛覚に反応するセンサータンパクの研究も進んでおり、鎮痛の将来性もご提示いただきました。

    次に、手術痛の発生源についてお話いただきました。手術の深い傷による同時多発的な侵襲による痛みは、皮膚だけではなく、より深い組織や臓器などの関連痛の総計であり、川真田先生の研究室でもその点に関する研究を行なっております1)。また腫瘍や炎症性疾患などの病巣があると、神経・血管新生や免疫応答が起こり、神経分布が増加しており、そこに手術侵襲が加わるため、手術痛はより強くなるとのことです2)

    具体的な術後鎮痛として、末梢性感作を抑制する為によく使用されるNSAIDs、刺激を伝導する電位依存性Naチャネルを抑制する局所麻酔薬3)、中枢性感作を抑制するオピオイドやカルシトニン遺伝子関連ペプチドCGRP4)、NMDA受容体拮抗薬(ケタミン)7)、アセトアミノフェンについて最新の文献をもとに、多様性鎮痛(Multimodal analgesia)の重要性をお話いただきました。最後に大変興味深いお話として、川真田先生は現在Nav1.7の一塩基変異を原因とする無痛症の研究を進めておられ、将来の局所麻酔薬が開発される可能性を示していただきました。

    痛みなく手術を終えることは麻酔科医にとって永遠の課題であります。その分野で第一任者である川真田先生の大変貴重なお言葉でした。(風間)

    参考文献

    1) Ishida T, Kawamata M, et al. Spinal nociceptive transmission by mechanical stimulation of bone marrow. Mol Pain 2016.

    2) Mantyh WG, et al. Blockade of nerve sprouting and neuroma formation markedly attenuates the development of late stage cancer pain. Neurosicience 2010; 171: 588-98.

    3) Sun Y, et al. Perioperative systemic lidocaine for postoperative analgesia and recovery after abdominal surgery: a meta-analysis of randomized controlled trials. Dis Colon Rectum 2012; 55: 1183-94.

    4) Ishida K, Kawamata M, et al. Calcitonin gene-related peptide is involved in inflammatory pain but not in postoperative pain. Anesthesiology 2014; 12: 1068-79.

  • 2017年12月11日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2017年10月13日 7:00-8:00
    演題:Preoperative Risk Stratification for Urgent and/or Emergent Surgery by Transthoracic Echocardiography
    演者:Yuriy Bronshteyn先生(Assistant Professor of Anesthesiology Duke University School of Medicine)

    近年、侵襲が少ない超音波画像診断の発展が進み、必要な時に必要な場所で簡便に使用できるようになってきています。超音波は、身体所見だけでは捉えることが難しい情報も評価できるため、麻酔科領域でも術前診察など診療現場「Point-of-Care」での活用に期待が集まっています。今回はDuke大学より集中治療領域でご活躍されているYuriy Bronshteyn先生に経胸壁心エコーによる緊急手術前リスク評価についてお話しいただきました。

    最初に、患者を診察する上で身体所見は簡便で非侵襲的で有用でありますが、1年目の医大生が経胸壁心エコーを用いた場合と、循環器内科医が聴診器を用いた場合の正診率は前者の方が高く、Pre-operative Point-of-Care Ultrasound(POCUS)が有用であることを2症例の大動脈弁狭窄症患者の心雑音の聴診所見と心エコー所見を提示しお話していただきました。Yuriy先生曰く、「医師にとってのエコーは野球選手にとってのステロイド」だそうです。麻酔科医が経胸壁心エコーを術前診察に使用した場合も循環器内科専門医と97%で所見が一致し、平均所要時間は約3分であったとする報告1)もあります。また術前の経胸壁心エコーを行うことで、麻酔方法の変更(全身麻酔や局所麻酔)や侵襲的なモニターの有無、輸液負荷や血管作動薬の必要性、術後の帰室場所(一般病棟や集中治療室)、手術の中止等の麻酔管理が、特に緊急手術において変更されることが多く2) 3)、この変更は術後の死亡率を有意に低下させる可能性を示唆する報告4)も紹介していただきました。

    Yuriy先生は今後の方向性として、POCUSによる患者の転機を大規模無作為試験にて調査することの必要性、トロポニンやBNPなどの血液検査と共に経胸壁心エコーを用いることがより有用となる可能性を指摘されました。エコー診断を正確に行うためには訓練が必要ではありますが、良好な患者アウトカムが証明されつつあり、大変興味深い分野であると感じました。(風間)

    参考文献

    1) Andruszkiewicz P, et al. Reliability of focused cardiac ultrasound by novice sonographer in preoperative anaesthetic assessment: an observational study. Cardiovasc Ultrasound. 2015; 13: 45.

    2) Canty DJ, et al. Audit of anaesthetist-performed echocardiography on perioperative management decisions for non-cardiac surgery. Br J Anaesth. 2009; 103(3): 352-8.

    3) Cowie B. Three years experience of focused cardiovascular ultrasound in the peri-operative period. Anaesthesia. 2011; 66(4): 268-73.

    4) Canty DJ, et al. The impact on cardiac diagnosis and mortality of focused transthoracic echocardiography in hip fracture surgery patients with increased risk of cardiac disease: a retrospective cohort study. Anaesthesia. 2012; 67(11): 1202-9.

  • 2017年10月17日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2017年10月4日 7:00-8:00
    演題:麻酔・集中治療での脳機能障害リスク因子:加齢による予備能低下「フレイル」と人工呼吸の関与
    演者:Roland C.E. Francis 教授(ベルリン・シャリテ医科大学)

    今回は、ICUにおけるVentilator Induced Lung Injuryの研究でご高名な、ドイツ・ベルリン・シャリテ医科大学麻酔科Vice Chairのフランシス先生をお招きして、急激に進む高齢化の中で、手術に臨む高齢者の周術期リスクを評価するための新たな指標である “Frailty(フレイル)” の概念につきご解説いただきました。

    Frailtyとは、加齢に伴う高齢者の虚弱状態を指し、身体能力の衰えだけでなく、認知機能や栄養状態、日常生活の活動性の低下といった広範な要素を含んだ概念です。高齢化が進む近年、主に老年病内科領域から提唱されるようになりました。

    一般的に周術期領域では、年齢が上がるほどに術中・術後の合併症リスクや死亡率が上がると考えられています。これは、高齢になると身体機能の低下やホメオスタシスの不安定化のために、手術というストレスやその後の変化による影響を受けやすくなり、またそこからの回復も遅くなるためです。しかし実際の年齢と、身体機能上の年齢とは必ずしも一致しません。そのため、高齢者の術前には、年齢以外の指標も含めてFrailtyを総合的に評価する必要があります。しかしこれまでのFrailty評価は、麻酔科医や外科医の直観によるところが大きく、系統だった評価方法は確立されていませんでした。

    そこでフランシス先生のグループは、術前のFrailtyを定量的に評価する方法を考案され、シャリテ大学で実際に導入されました。具体的には術前外来の場で、栄養状態の評価やヘモグロビン値の測定に加えて、握力測定やTimed Up and Goテスト(椅子から立ち上がり、3m先の指標との間を往復して元の椅子に着席するまでの時間を測定する検査)を行い、患者を健常群・フレイル予備群・フレイル群に分けていらっしゃいます。これまで1500人以上の患者に対して評価が行われ、その結果、フレイル群では術後の合併症率が50%以上にものぼること(健常群と比較したオッズ比は2.1)、また術後せん妄の発生率も18.9%にのぼること(健常群と比較したオッズ比は4.0)がわかりました。興味深いことに、年齢それ自体は独立した危険因子ではなかったとのことです(合併症率・せん妄率ともに健常群と比べてオッズ比1.0)。

    それでは、フレイル群に該当する患者が手術を必要とする場合、合併症を減らすために何ができるのでしょうか?フランシス先生は、一般的には術後に行われる“リハビリ”を術前に行う、“Prehabilitation”が重要であると述べられていました。術前に身体的なリハビリを行なったり、栄養状態を最適化したり、あるいは他の合併症を最大限コントロールすることで、フレイル状態にある高齢者でも、術後の合併症やせん妄の発生率を減らせるとのことでした。

    麻酔科医が術中管理だけでなく術前から術後まで積極的に介入していくことで患者の予後を改善できること、また麻酔科・外科だけでなく老年病内科や理学療法など、専門分野を超えたコラボレーションが重要であることを再認識いたしました。

    参考文献

    Fried LP et al. Frailty in older adults: evidence for a phenotype. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001 Mar;56(3):M146-56.

    Massarweh NN et al. Impact of advancing age on abdominal surgical outcomes. Arch Surg. 2009 Dec;144(12):1108-14.

    Inouye KS et al. Geriatric syndromes: clinical, research, and policy implications of a core geriatric concept. J Am Geriatr Soc. 2007 May;55(5):780-91.

  • 2017年10月30日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2017年9月27日 7:00-8:00
    演題:周術期管理 現在・過去・未来
    演者:森松博史先生(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 麻酔・蘇生学分野 教授)

    日本で麻酔科が独立したスペシャリティとして確立されたのは50-60年前と医学史の中では比較的最近のことです。その後、麻酔科医の役割は手術中の麻酔だけに留まらず、より安全で質の高い周術期管理を行うために発展を続けています。今回は日本最大の麻酔科として知られる岡山大学麻酔科を率いる森松教授にお越し頂き、岡山大学で行なわれている周術期管理についてお話しいただきました。

    岡山大学では2008年9月に「組織横断的に業務を行い、手術を受ける患者様に対して、快適で安全・安心な手術と周術期環境を効率的に提供する」ことを目的として、周術期管理センター(PERiO:Perioperative management center)を立ち上げられました。外科医、麻酔科医、看護師、臨床工学技士、理学療法士、管理栄養士、薬剤師、歯科医が分業・協力し、手術を受ける患者を術前・術中・術後において集学的にサポートすることで入院期間の短縮や術後合併症を減少させることが可能となります。当初は呼吸器外科症例のみから開始し、現在では麻酔管理手術件数の4分の1もの症例を対象にしており、有意な結果が得られているとのことでした。

    また後半は森松先生の経歴をお話しいただきました。MelbourneのAustin Hospitalへ御留学された際のRinaldo Bellomo先生の「If you want to do something, you should have power. If you need to have power, you should take your position. 」という御言葉を受けて、数多くの論文を発表し、学位を取得し、現在のポジションまで進まれた御経験をお伝えいただき、とても励まされる力強い御言葉をいただきました。(風間)

  • 2017年10月30日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2017年8月21日 1部 7:00-8:00  2部18:00−19:00
    演題:(1部)Acute aortic dissection in pregnancy
    (2部)TEE evaluation of mitral regurgitation
    演者:Worasak Keeyapaj先生(Clinical assistant professor. Department of Anesthesiology, perioperative and pain medicine, Stanford University, School of Medicine. )

    アメリカで初のヒトでの心臓麻酔を成功させ、その後も優れた実績を持つスタンフォード大学にて、心臓麻酔を専門とされているWorasak Keeyapaj先生に、今回は妊娠中の急性大動脈解離の麻酔管理と経食道心エコーでの僧帽弁逆流(MR)の評価についてご講演いただきました。

    40歳未満の女性での急性大動脈解離は珍しいですが、マルファン症候群患者を代表する症例は報告されております。手術の際は、胎児の安全と共に、妊娠中の血行動態変化(全血液量増加、心拍出量増加、心拍数増加)やホルモン変化による大動脈組織への影響1)(中膜の平滑筋の肥厚、レチクリン分解、弾性繊維弛緩)が加わるため麻酔管理は複雑になります。妊娠中に心臓血管外科手術を行なった場合の胎児アウトカムは悪いため2)、妊娠30週以降であれば急性大動脈解離手術前に帝王切開を優先させることで母児共に良好な結果が得られたとする報告3)を提示していただき、Worasak先生も可能であれば帝王切開を優先すべきであるとご教授いただきました。また帝王切開の際の麻酔方法としては、全身麻酔が選択される場合が多いということでした。その理由は、脊髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔よりも早く確実で、正確な血行動態管理が可能であり、気管挿管後すぐに経食道心エコーを使用することができ、状態が不安定となった場合すぐに開胸できる点からということです。また薬剤の影響として、急性大動脈解離の内科的治療に使用されるβブロッカーは先天性心奇形や胎内発育遅延児(SGA)のリスクがあり、Ca拮抗薬も強力な子宮収縮抑制作用を有し帝王切開の際に弛緩出血のリスクとなります。全身麻酔薬にも催奇形性のリスクがある2)ため、できる限りリスクの少ないオピオイドベースの麻酔管理が必要であると教えていただきました。もし分娩前に急性大動脈解離手術を行う場合は、手術期が選択できるならば妊娠第2期に行い、人工心肺を使用する際は低体温は避けて、拍動流で2.5〜3.5 L/min/m2の高めの流量に設定し、Hb 9 mg/dL以上を行うことを推奨4)していただきました。

    第2部では経食道心エコーの基本原理からMR jetの評価ポイント、2D、3Dによる僧帽弁の解剖学的評価をご教授いただき、そこに照らし合わせて先生が経験された3例の重症MR症例の経食道心エコー動画を提示していただきました。  当院でも心臓手術は数多く行われており、MR評価はもちろんのこと、妊娠中の急性大動脈解離症例も行う可能性があります。その時に安全に麻酔管理をするためにも、今回、Worasak先生にとても貴重な講義をしていただきました。(風間)

    参考文献

    1) Stennett AK, et al. Increased vascular angiotensin type 2 receptor expression and NOS-mediated mechanisms of vascular relaxation in pregnant rats. Am J Physiol Heart Circ Physiol 2009 Mar; 296(3): H745-55.

    2) Chandrasekhar S, et al. Cardiac surgery in the parturient. Anesth Analg 2009 Mar; 108(3): 777-85.

    3) Masayuki S, et al. Surgery for acute type A aortic dissection in pregnant patients with Marfan syndrome. European Journal of Cardio-Thoracic Surgery 2005 Aug; 28(2): 280-85.

    4) Pomini F, et al. Cardiopulmonary bypass in pregnancy. Ann Thorac Surg 1996 Jan; 61(1): 259-68.

  • 2017年10月30日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2017年7月13日 7:00-8:00
    演題:ドゥシャンヌ型筋ジストロフィにおける2ヒット病因論とオートファジー異常:麻酔事故への関わりについて
    演者:安原進吾先生(Department of Anesthesiology, Critical Care and Pain Medicine, Shriners Hospital for Children, Massachusetts General Hospital, Harvard Medical School)

    ドゥシャンヌ型筋ジストロフィはX染色体短腕にあるジストロフィン遺伝子の変異に起因する難病で、筋細胞が障害されることによる呼吸や循環機能の減弱に加え、麻酔薬や筋弛緩薬に対する異常反応をきたすリスクがあります。今回、ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院シュライナー研究所においてドゥシャンヌ型筋ジストロフィの研究を続けておられる安原先生に筋ジストロフィ患者の麻酔管理についてお話し頂きました。

    ドゥシャンヌ型筋ジストロフィは前述したジストロフィン遺伝子変異によって、筋肉のコスタメア構造の根幹をなすジストロフィン分子が変異し、筋細胞が壊れやすくなります。なぜ壊れやすくなるのかに対していくつかの理論がありますが、安原先生はドゥシャンヌ型筋ジストロフィモデル動物であるmdxマウスにおける血流反応性の異常を発見し、筋肉が機能虚血に陥っていることを世界に先駆けて証明されました1)。この筋肉と血管の両者の相関を考える2ヒット病因論をわかりやすくご教授いただきました。またオートファジーがブロックされている筋ジストロフィ患者に対し、全ての麻酔薬はオートファジーを誘導する2)ため筋細胞に対して保護的に作用するかと思われますが、筋ジストロフィ患者における麻酔薬による医療事故3)が報告されており、患者状態が増悪した際の主症状を見逃さず、注意深く観察する必要があるとご説明いただきました。

    ドゥシャンヌ型筋ジストロフィ研究の第一線でご活躍されている安原先生の大変貴重なお言葉でした。(風間)


    参考文献

    1) Asai A, Yasuhara S, et al.Primary role of functional ischemia, quantitative for the two-hit mechanism, and phosphodiesterase-5 inhibitor therapy in mouse muscular dystrophy. PLos One. 2007 Aug 29; 2(8): e806.

    2) Kashiwagi A, Yasuhara S, et al. Anesthesia with disuse leads to autophagy up-regulation in the skeletal muscle. Anesthesiology. 2015; 122: 1075-1083.

    3) W.L.H.Smelt. Cardiac arrest during desflurane anaesthesia in a patient with duchenne’s muscular dystrophy. Acta Anaesthesiol Scand. 2005 Feb; 49(2): 267-9.

  • 2017年10月30日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2017年6月15日 7:00-8:00
    演題:シミュレーション2.0
    演者:Peter Weinstock先生(Director, Simulator Program, Boston Children’s Hospital. Anesthesia Chair in Pediatric Simulation. Senior Associate, Critical Medicine. )

    他のどの病院も断った難手術を要する患者様を紹介されるボストン小児病院で、その難手術を成功に導くためのシミュレータ教育に尽力しておられるPeter Weinstock先生にご講演いただきました。

    先生は「医療は本番前に練習をしない最後のハイステークス業界かもしれない」と危惧され、定期的に個別に対応した現実に近い環境でのリハーサルや準備を行うことでヘルスケアを最適化することを目的にシミュレーション活動を開始されました。シミュレーション2.0ではカリキュラムゾーンをゾーン0〜4に分け、純粋なテクニカルスキルからシナリオ、チームワーク、ライブビデオへと段階的にステップアップすることでバーチャルリアリティを実現し、臨床現場で使える技能に磨くことが可能であると教えていただきました。これにより14時間以上かかると予想されていた手術が4時間で成功したり、ICUに数週間入ると予想されていた患者様が翌日に抜管され、10日後には退院が可能となった症例も報告されています。リアリティを実現するためにSimulation Engineerの協力のもと、3Dプリンタなどの技術を活用して患者様の模型作成も行い、具体例として臨床のその場で練習できるウエラブルポートカテ(ポート部分を体表外ケースに封じた中心静脈カテーテル)や十二指腸腹部トレーナー、新生児beating heart心バイパストレーナー、手術可能な銃創トレーナー、新規ギプス抜去シミュレーショントレーニング1)、低侵襲神経外科手術のための新しいシミュレータを提示していただき、どれも精巧なものでした。

    SIM Pedsサービスは現在7カ国12病院で採用されており、診療の安全性や効率が向上、合併症の低減や業務時間の短縮も期待でき、またアメリカでは$1の投資に対して$7相当の利益を生み出せた実績の報告もあり、期待が高まっております。今後、日本への導入も待ち遠しくなるような、Peter Weinstock先生の貴重なお言葉でした。(風間)


    参考文献

    1) Jacob W. Brubacher, Peter Weinstock, et al. A Novel Cast Removal Training Simulation to Improve Patient Safety. Journal of Surgical Education 2015; 73(1): 7-11.

  • 2017年10月30日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2017年6月6日 7:00-8:00
    演題:研究アイデアから論文へのプロセス
    演者:田中健一先生(メリーランド大学麻酔科教授)

    血液凝固の最前線を駆ける田中健一先生に昨年に続きご講演いただきました。

    グランドラウンドでのご講演では田中健一先生自身が経験された「守」「破」「離」の流れで、臨床から論文へのプロセスをご説明していただきました。「守」では80/20 rule(19世紀イタリアでは80%の国土が20%の国民に保有された)にあるように1つの専門分野に特化しアウトプットを増大させることが重要であり、それに合わせた最適なメンターや施設探しが重要であると教えていただきました。メリーランド大学でも抗HLA特異的抗体陽性で血漿交換が必要となる両肺移植の患者様の凝固モニタリングをROTEM®や血液検査を用いて数値を記録することでcase report1)にし、そこから知識をつけて、全体像を見ることができるようにしてから総説2)を作成していくという指導を実践されていました。「破」では、当時、リコンビナント活性型第Ⅶ因子やフィブリノゲン製剤の術中使用や臨床ROTEM®デバイスの使用は珍しく、これらを組み合わせて論文3) にするなど、自分の専門分野において他者が手を出していない領域に挑戦することでimpact factorの高い雑誌への採択率も上がることをご教授いただきました。最後に「離」では一旦自分の分野から離れて自分を見つめ直すことで、新たな発見があると教えていただきました。その段階として先生は、人工心肺を導入すると残存ADP凝集率が30-40%低下します4) が、採取から5日経過した濃厚血小板液の残存ADP凝集率は10%程度しかなく、輸血後の血小板上昇のみでは血小板機能は確証されない5) ため、人工心肺導入前に自己血採取をして、人工心肺離脱後に投与することで輸血量を減らすことができる可能性をお話いただきました。

    出血、血液凝固、輸血は麻酔科医にとって重要なテーマですが、その分野において最前線を駆ける先生のご講演は大変勉強になりました。また研究内容・結果を論文としてスマートに読者に伝えるポイントもお話いただき、臨床から研究・論文の各分野において躍進を遂げる田中健一先生の貴重なお言葉でした。


    参考文献

    1) Williams B, Tanaka K, et al. Case report of severe antithrombin deficiency during extracorporeal membrane oxygenation and therapeutic plasma exchange for double lung transplantation. A A Case Rep 2017; 8: 11-13.

    2) Williams B, Tanaka K, et al. Practical use of thromboelastometry in the management of perioperative coagulopathy and bleeding. Transfus Med Rev 2017; 31: 11-25.

    3) Tanaka K, et al. Improved clot formation by combined administration of activated factor Ⅶ (NovoSeven®) and fibrinogen (Haemocomplettan®P). Anesth Analg 2008; 2008: 732-8.

    4) Mazzeffi M, Tanaka K, et al. Effect of cardiopulmonary bypass on platelet mitochondrial respiration and correlation with aggregation and bleeding: a pilot study. Perfusion 2016; 31: 508-15.

    5) Owens M, et al. Post-transfusion recovery of function of 5-day stored platelet concentrates. Br J Anaesth 1992; 80: 539-44.

  • 2017年10月30日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2017年6月5日 18:30-19:30
    演題:血液凝固セミナー(大出血後の人工心肺に必要なヘパリンの量とACT、術中出血傾向により大出血をきたした腹部大動脈人工血管置換術)
    演者:田中健一先生(メリーランド大学麻酔科教授)

    血液凝固の最前線を駆ける田中健一先生に昨年に続きご講演いただきました。

    血液凝固セミナーでは心臓血管外科吉野医師、麻酔科岡部医師よりそれぞれ1例ずつ症例提示がありました。まずは術中出血に対し人工心肺を導入する際のヘパリンの量とACTの値について田中健一先生を含め、多くの先生方と議論を交わしました。担癌患者などでは過凝固状態となりやすいこと、また現在の心臓手術では術中回収血を患者様に戻すことが可能であり、人工心肺導入時は場合により通常量以上のヘパリン投与によるメリットもあるという意見をいただきました。また腹部大動脈人工血管置換後の止血に難渋した症例では、持続する出血は線溶系亢進が原因と考えられ、濃厚血小板液やトラネキサム酸・アミノカプロン酸投与のタイミングについて病態生理学と薬物学に基づき、田中健一先生のアメリカでの臨床経験を踏まえたお話をいただき、白熱した議論が行われました。

    出血、血液凝固、輸血は麻酔科医にとって重要なテーマですが、その分野において最前線を駆ける先生のお話は大変勉強になりました。(風間)


    参考文献

    1) Williams B, Tanaka K, et al. Case report of severe antithrombin deficiency during extracorporeal membrane oxygenation and therapeutic plasma exchange for double lung transplantation. A A Case Rep 2017; 8: 11-13.

    2) Williams B, Tanaka K, et al. Practical use of thromboelastometry in the management of perioperative coagulopathy and bleeding. Transfus Med Rev 2017; 31: 11-25.

    3) Tanaka K, et al. Improved clot formation by combined administration of activated factor Ⅶ (NovoSeven®) and fibrinogen (Haemocomplettan®P). Anesth Analg 2008; 2008: 732-8.

    4) Mazzeffi M, Tanaka K, et al. Effect of cardiopulmonary bypass on platelet mitochondrial respiration and correlation with aggregation and bleeding: a pilot study. Perfusion 2016; 31: 508-15.

    5) Owens M, et al. Post-transfusion recovery of function of 5-day stored platelet concentrates. Br J Anaesth 1992; 80: 539-44.

  • 2017年8月15日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2017年7月29日 7:00-8:00
    演題:Recent major RCT improve patients outcome
    演者:Kurt Ruetzler 先生(クリーブランドクリニック麻酔科)

    米国のクリーブランドクリニックを拠点として、麻酔学における数々の臨床研究を発表してきた Outcome Research Consortium のメンバーでいらっしゃる Ruetzler 先生をお招きして、「大規模ランダム化比較試験 (RCT) で医療が変わる」というテーマでご講演いただきました。

    Outcomes Research Consortium1)は、クリーブランドクリニック麻酔科のSessler 教授が立ち上げた研究グループで、2015年で25周年を迎え、これまでに900以上の論文を発表してきました2)。代表的な研究として、周術期のアスピリン新規投与は周術期死亡率や心筋梗塞発生率を低下させないことを発見した POISE-2 trial3) や、術後のトロポニンT値が手術30日後の死亡率に関連していることを発表した VISION-2 trial4) などが有名です。

    様々な研究デザインの中で、RCT を用いたアウトカム研究こそが、エビデンスに基づく医療 (Evidence Based Medicine: EBM) を行うために最も有効であると言われており、麻酔科領域でも、RCT が研究のゴールドスタンダードとなっています。Ruetzler 先生は、これまでに発表されてきた多くの研究結果を引用しながら、perioperative physician(周術期医療の専門家)である麻酔科医が RCT の結果に基づいてEBMに基づく医療を積み重ねていくことで、患者さんの術後のアウトカムを改善することが出来ることをお示しくださいました。たとえば、術中の平均血圧が65-70を下回らないように血圧を管理することが周術期の心筋梗塞リスクを低減する5) といったデータは、日々の麻酔臨床にすぐに反映できる実践的なアドバイスであり、非常に参考になりました。

    またご講演後には手術室にも足をお運びいただき、当院レジデントへのベッドサイドティーチングを頂戴しました。また、臨床研究のデザイン方法や RCT の実際の進め方などに関して様々な質問にお答えいただき、大変有意義な時間となりました。 (協賛:3M株式会社)

    参考文献

    1)http://www.or.org/

    2) Rosenberg H. Outcomes Research Consortium's 25th Anniversary. Anesthesiology. 2015 Dec;123(6):1233-4.

    3) Devereaux et al. Aspirin in patients undergoing noncardiac surgery. N Engl J Med. 2014 Apr 17;370(16):1494-503.

    4) Devereaux et al. Association between postoperative troponin levels and 30-day mortality among patients undergoing noncardiac surgery. JAMA. 2012 Jun 6;307(21):2295-304.

    5) Salmasi V et al. Relationship between Intraoperative Hypotension, Defined by Either Reduction from Baseline or Absolute Thresholds, and Acute Kidney and Myocardial Injury after Noncardiac Surgery: A Retrospective Cohort Analysis. Anesthesiology. 2017 Jan;126(1):47-65.

  • 2017年5月22日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2017年5月22日 7:00-8:00
    演題:研究からSerendipity
    演者:垣花学教授 (琉球大学麻酔科)

    今回は虚血性脊髄障害に関する研究で世界的にご活躍の琉球大学麻酔科学教授 垣花学先生をお招きし、臨床医として、そして研究者として3つのテーマでお話しいただきました。

    1.麻酔管理は患者さんの予後に大きな影響を与えうる
    術中の低血圧が、心筋障害や腎障害1)、癌の術後転移のリスクファクターにもなりうるという海外の研究結果や、低侵襲の手術を完全静脈麻酔で管理すると吸入麻酔群と比べて術後感染症の発生率が上がったというご自身の研究結果などをご紹介いただき、麻酔科医の周術期管理によって long-term outcome(長期予後)を変えられるということを再認識しました。

    2.毒を以って毒を制す―生体内ガス分子の可能性
    「毒を以って毒を制す」と題して、生体内分子の一つである硫化水素(H2S)が虚血再灌流障害を抑制するメカニズムにつき御紹介いただきました。大動脈手術の重篤な合併症である対麻痺は、ステント術を用いた場合、術直後ではなく遅発性に出現することがほとんどであると言われています。垣花先生は、マウスの脊髄虚血のモデルで、大動脈遮断による脊髄虚血時間を通常よりも短くすることで、術直後ではなく遅発性の対麻痺が出現すること、また対麻痺が発生したマウスの脊髄細胞がアポトーシスを起こしていることを報告されました。更にH2Sに抗アポトーシス作用があることに着目され、大動脈手術後24時間のマウスに80ppmのH2Sを5時間吸入させ、術後72時間後の対麻痺発生率が7割減少することを発見されました。先生はその後の研究で、これはH2Sがアポトーシスに必要なカスパーゼ3の活性化を阻害するためだということも発見されました2)。この抗アポトーシス効果によって、H2Sはパーキンソン病の神経変性を抑制することも示されており3)、今後H2Sがこれらの難病の治療薬として応用されることが期待されています。

    3.研究から Serendipity
    何気ない発見から大きな研究結果を得られたご自身の経験を通して、臨床医にはSerendipity(何か重要なものを偶然発見する力)が重要であることにお気づきになった垣花先生。重篤な合併症が少なくなった現代の周術期医療では、「なぜ失敗したか?」を考える機会も減りつつありますが、研究活動は失敗の繰り返しであり、その過程でSerendipityが鍛えられる、それゆえ、臨床医が研究に従事することには大きな意義があると力強いメッセージをいただきました。

    参考文献

    1) Walsh et al. Relationship between intraoperative mean arterial pressure and clinical outcomes after noncardiac surgery: toward an empirical definition of hypotension. Anesthesiology. 2013;119:507-15.

    2) Kakinohana et al. Delayed paraplegia after spinal cord ischemic injury requires caspase-3 activation in mice. Stroke. 2011 Aug;42(8):2302-7.

    3) Kida et al. Inhaled hydrogen sulfide prevents neurodegeneration and movement disorder in a mouse model of Parkinson's disease. Antioxid Redox Signal. 2011 Jul 15;15(2):343-52.

  • 2017年3月31日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2017年3月31日 7:00-8:00
    演題:心臓血管麻酔 最近の話題-周術期におけるTEEの役割と活用法も含めて-
    演者:国沢卓之教授(旭川医科大学 麻酔・蘇生学講座)

    今回は、心臓血管麻酔に関する多くの著書を執筆され、若手の育成やTEE(経食道心エコー)教育の現場でも大変ご活躍されている国沢卓之教授をお迎えし、心臓麻酔に関する最新のトピックスにつきご紹介いただきました。
     心臓麻酔科医に求められる要件が変化しつつある中で、心臓手術や術後管理における近年の変化に対応していくためには、術中に麻酔薬の濃度を意識しながら投与することが重要になってきています。特に部分体外循環中には薬物動態をしっかりと考えながら静脈麻酔を調節しないと、術中覚醒などの有害事象につながりかねないとご指摘されました。効果部位濃度を考えながら麻酔をすると、覚醒下での心臓血管手術も可能になり、脳血管障害や肺の合併症がある患者さんに覚醒下でCABG(冠動脈バイパス手術)を行った症例1)や、頚神経叢ブロックを併用することにより覚醒下でCEA(頸動脈血栓内膜剥離術)を行った症例につきご紹介いただきました。

     後半は、麻酔科医がTEEを習得することの意義に関してお話しいただきました。かつてはTEEの使用は心臓血管手術に限定されていましたが、現在ではアメリカ麻酔科学会も全ての麻酔科医にTEEを教育するべきだと提唱しています。非心臓手術においても、たとえば説明のつかない低血圧や低酸素血症の原因検索のためにTEEが非常に有用であり、一般の麻酔科医にもぜひ基本的な断面2)を描出し評価できるようになって欲しいとおっしゃっていました。循環血漿量や心機能の評価、基本的な弁疾患の評価方法につき、実際のエコー画像を交えながらご紹介いただき、TEEの有用性につき参加者一同再確認いたしました。また最新の機種では、3D解析によって心室の分画ごとの収縮能を定量的に評価できたり、疾患のある弁の立体的なモデルを構築し術者に提示できるなど、TEEの所見が投薬の指標となるだけでなく手術の術式自体をも変えうる可能性があることをご教示いただきました。
     日本でもTEEの認定資格を取得する麻酔科医が増えてきていますが、資格の有無にかかわらず、TEEを用いて術者に必要な情報を提供できるようになること、ひいては患者さんにとって良い結果につながることを目標にしながらトレーニングをすることが重要であるとメッセージをいただきました。
    最後に、麻酔科医が研究に携わるべき理由や、個人レベルでの発信法は、Dr. Mortonの血統を感じる貴重なお言葉でありました。

    参考文献

    1) Kunisawa et al. Anesthetic management of awake coronary artery bypass grafting using dexmedetomidine--high-dose administration and pharmacokinetic simulation. Masui. 2006 Oct;55(10):1238-42.

    2)Reeves et al. Special article: basic perioperative transesophageal echocardiography examination: a consensus statement of the American Society of Echocardiography and the Society of Cardiovascular Anesthesiologists. Anesth Analg. 2013 Sep;117(3):543-58.

  • 2017年2月9日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2017年2月9日 7:00-8:00
    演題:Enhanced Recovery After Surgery (ERAS) について
    演者:Sergio D Bergese 教授(オハイオ州立大学麻酔科・脳神経外科)

    今回は脳神経外科手術の麻酔をご専門とされ、これまでに数々の臨床研究を指揮し、多くの論文を発表してこられたBergese教授を米国よりお招きし、術後の早期回復・早期退院を目指したERASの取り組みにつきご紹介いただきました。
     ご講演の後半では、先生のご専門分野である麻酔と脳との関連に関して、特に術後せん妄や術後認知機能障害(POCD)につきお話しいただきました。ベンゾジアゼピン系の薬や麻薬、抗コリン薬などを使用すると術後のせん妄につながりかねないとことや、術中に低血圧や過剰鎮静が起こるとPOCDのリスクが上がり、ひいては術後の死亡率も上がってくることなどを、数々の研究データを元に提示され、日々の麻酔管理が患者の予後に直接影響するということを一同再確認いたしました。これからの麻酔科医は、術後せん妄の原因となる薬剤の使用を極力避けるようにしなければならないとお話しいただきました。

     後半は、麻酔科医がTEEを習得することの意義に関してお話しいただきました。かつてはTEEの使用は心臓血管手術に限定されていましたが、現在ではアメリカ麻酔科学会も全ての麻酔科医にTEEを教育するべきだと提唱しています。非心臓手術においても、たとえば説明のつかない低血圧や低酸素血症の原因検索のためにTEEが非常に有用であり、一般の麻酔科医にもぜひ基本的な断面2)を描出し評価できるようになって欲しいとおっしゃっていました。循環血漿量や心機能の評価、基本的な弁疾患の評価方法につき、実際のエコー画像を交えながらご紹介いただき、TEEの有用性につき参加者一同再確認いたしました。また最新の機種では、3D解析によって心室の分画ごとの収縮能を定量的に評価できたり、疾患のある弁の立体的なモデルを構築し術者に提示できるなど、TEEの所見が投薬の指標となるだけでなく手術の術式自体をも変えうる可能性があることをご教示いただきました。
     また、同日午後には院内の各科によるERAS症例検討会にも参加して頂きました。一件目の症例は特に既往のない女性、膵尾部腫瘍に対して腹腔鏡下膵尾部切除術を施行予定でした。まず神経機能のERASという観点からは静脈麻酔より吸入麻酔が優れていると考えられていますが、若年女性患者等でPONVのリスクが高い場合にはどちらを優先すべきかとの質問がありました。先生は、PONVの予防もERASの一面であり、中等度リスク以上の患者には、吸入麻酔にこだわらずプロポフォールによる静脈麻酔を用いてもよいと思うとアドバイスされました。制吐剤に関しては、ご自身も著者の一人であるPONV対策ガイドラインのSAMBA Consensus Guidelines を引用され、ドロペリドールとデキサメタゾンは効果が等しく、どちらを選んでもよいこと、ただしデキサメタゾンの投与量に関しては、従来の4mgよりも8mgに増量した方が有効と考えられている、と補足されました。
    続いて、脳合併症のある男性にロボット支援下の前立腺全摘が予定されていた症例につきディスカッションが行われました。頭低位での長時間手術であり、脳血流の評価が重要になってくる麻酔管理については、「脳血流を圧力ではなくVolumeとして捉え、心拍出量から見つめ直すと良いのでは」というアドバイスをいただきました。そのためにも、筋弛緩をしっかり効かせることでレミフェンタニルを減量し、徐脈や低血圧を防いで血行動態の安定を図ると良いのではないかという実践的なアドバイスを頂戴しました。手術当日はご指導を生かしてレミフェンタニルを減量し、並行してフェニレフリンを減量することで、心拍数は正常範囲にとどまり、推定で心拍出量は20%増し、非常に安定した血行動態を維持することができました。
     麻酔の組み立て方から実際の術中管理まで、示唆に富んだアドバイスをたくさん頂戴し、大変有意義な時間となりました。

    参考文献

    ・Eskicioglu et al. Enhanced recovery after surgery (ERAS) programs for patients having colorectal surgery: a meta-analysis of randomized trials. J Gastrointest Surg. 2009 Dec;13(12):2321-9.

    ・Cannesson M, Kain Z. Enhanced recovery after surgery versus perioperative surgical home: is it all in the name? Anesth Analg. 2014 May;118(5):901-2.

    ・Chonchubhair et al. Postoperative cognitive dysfunction in the elderly. Lancet. 1998 Jun 20;351(9119):1888-9.

    ・Gan TJ et al. Consensus Guidelines for the Management of Postoperative Nausea and Vomiting. Anesth Analg. 2014 Jan;118(1):85-113.

  • 2017年2月28日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2016年11月14日 7:00-8:00
    演題:ミトコンドリアを標的とした細胞保護ストラテジーの最前線
    演者:市瀬史教授 (ハーバード大学麻酔科)

    麻酔の父William Thomas Green Mortonの名を冠す大変名誉あるハーバード大学初代日本人麻酔科教授でおられ、米国で心臓麻酔専門医として、またCPR後再還流障害の臓器保護を始めとする様々なご研究1)において大変ご活躍の市瀬教授に、ミトコンドリアをテーマに硫化水素による細胞保護についてお話し頂きました。
    硫化水素は、腐卵臭を伴う毒性の高いガスとしてのイメージがありますが、我々の体内でも生成され、ミトコンドリアにてATPを産生するのに重要な役割を担っております。虚血再還流障害の原因として、ミトコンドリアへのカルシウム流入によるATP産生抑制作用や活性酸素の増加による細胞障害などが挙げられます。今回は、硫化水素が抗炎症作用、抗アポトーシス作用、抗酸化作用により細胞保護をもたらすことや、マウスモデルでの脊髄神経保護作用2)、神経変性抑制作用3)を最近の未出版のご研究を交えてご教示頂き、低酸素下において硫化水素でミトコンドリア作用を制御することで、治療に応用できる可能性もご紹介いただきました。
    最後に、麻酔科医が研究に携わるべき理由や、個人レベルでの発信法は、Dr. Mortonの血統を感じる貴重なお言葉でありました。

    参考文献

    1) Minamishima S, Ichinose F, et al. Hydrogen sulfide improves survival after cardiac arrest and cardiopulmonary resuscitation via a nitric oxide synthase 3-dependent mechanism in mice. Circulation. 2009 Sep 8;120(10):888-96

    2) Kida K, Ichinose F, et al. Inhaled hydrogen sulfide prevents neurodegeneration and movement disorder in a mouse model of Parkinson's disease. Antioxid Redox Signal. 2011 Jul 15;15(2):343-52.

    3) Kakinohana M, Ichinose F, et al. Delayed paraplegia after spinal cord ischemic injury requires caspase-3 activation in mice. Stroke. 2011 Aug;42(8):2302-7.

  • 2017年2月28日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2016年10月28日 7:00-8:00
    演題:小児麻酔の半世紀 米国の臨床家・研究者としての経験より
    演者:本山悦朗 名誉教授 (ピッツバーグ大学麻酔科・小児科)

    小児麻酔の聖書 “Smith’s Anesthesia for Infants and Children” の著者で、Dr. Smithと共に小児麻酔の礎を築かれ、新生児呼吸生理学分野においては、胎児肺サーファクタント研究から呼吸促迫症候群への治療への応用、未熟肺の発達促進としてのステロイドの研究など歴史的に偉業を成されたピッツバーグ大学麻酔科・小児科本山悦朗名誉教授に貴重な講演を賜りました。 参加者は、当院職員(麻酔科、小児科、新生児科)にとどまらず、院外から千葉大学麻酔科学教室磯野史朗教授、成育医療研究センター麻酔科鈴木康之部長らがこぞって参加され、盛会となりました。 。
    大事なことは`Serendipity(思わぬものを偶然に発見する才能)’。 渡米のきっかけ、Dr. Smith との出会いのキーワードであり、半世紀(半生紀)を通じて良いメンターに恵まれ、ハングリー精神を持ち、コミュニケーションを行う中で、最も重要なことであったとのことでした。現在に至るまでの吸入麻酔薬の変遷、モニタリングの発展、研究中でのエピソードを、沢山の写真を交えてご教示頂き、本山教授のご講演は我々にとってserendipityを手に入れる大切な道標となりました。

    参考文献

    ORZALESI MM, MOTOYAMA EK, JACOBSON HN, et.al. THE DEVELOPMENT OF THE LUNGS OF LAMBS. Pediatrics. 1965 Mar;35:373-81.

  • 2016年12月6日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2016年10月7日 7:00-7:45
    演題:先天性心疾患の非心臓手術の周術期管理
    演者:結城公一 准教授(ハーバード大学麻酔科・ボストン小児病院)

    治療法の進歩により、かつては小児の病気と考えられていた先天性心疾患の長期生存が可能となり、我が国でも、成人先天性心疾患 adult congenital heart disease (ACHD)  は1997年には小児の患者数を超え、2007年には40万人、2015年には50万人と今後も増加が予想されています1)。先天性心疾患患者が非心臓手術を受ける際は、心不全・不整脈をはじめとした遠隔期合併症に対する綿密な術前評価・周術期管理が重要となります2)
    ボストン小児病院にて心臓麻酔のみならず先天性心疾患患者が非心臓手術を受ける際のコンサルト業務を兼任されている結城先生に、ハイリスクとなる病態や、症例検討としてFontan術後患者の緊急腹腔鏡下虫垂切除術を例に、合併症の評価, stress volume , unstress volume を考慮した循環管理法をご教示いただきました。ACHDの周術期チーム診療は周術期合併症を低下する上で特に重要で、今回も同疾患を専門とする循環器内科の水野医師・福田医師をはじめ心血管センターの医師に多数お越しいただきました。

    参考文献

    1) Shiina Y, Toyoda T, Kawasoe Y, et al. Prevalence of adult patients with congenital heart disease in Japan. Int J Cardiol 2011; 146: 13-16

    2) Faraoni D, Yuki K, et al. Post-Operative Outcomes in Children With and Without Congenital Heart Disease Undergoing Noncardiac Surgery. J Am Coll Cardiol. 2016 Feb 23;67(7):793-801

  • 2016年11月11日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2016年9月29日 7:00-7:45
    演題:産科病棟に麻酔科医を
    演者:角倉弘行 教授(順天堂大学麻酔科学・ペインクリニック講座(産科麻酔担当))

    無痛分娩の歴史を語る上で、Queen Victoria が1853年にクロロホルム麻酔により8番目の子供を産んだことは有名であり、その後諸外国で無痛分娩が普及しました。近年の無痛分娩率は米国60%(聖路加国際病院規模の病院では70%前後*1), フランス60%、イギリス20% ですが、日本は2.6%にとどまっているようです。
    米国において世界的にも産科麻酔管理に名高いBrigham and Women’s Hospital の Dr. William  Camann,MD の著書 `Easy Labor’ を日本語訳にて出版後、順天堂大学 においての無痛分娩に関する著書を出版*2)、24時間体制で麻酔科医を産科病棟に配し、無痛分娩をはじめとする周産期管理を行う体制を国内で築きあげられた角倉先生から、本邦の分娩の現状、周産期に麻酔管理が必要になる場合の安全管理などご教示、最後に産科麻酔チームは妊婦のみならず産科医・助産師・麻酔科医などを「 救う」 と提言いただきました。
    今回は、女性総合診療部から百枝幹雄部長をはじめとする多くの医師にご参加いただき、産科麻酔病棟での症例、研修などに関し多くのディスカッションが行われました。


    Dr. Willian Camann, MD のグランドラウンドは2017年9月に開催予定です。詳細は随時掲載いたします。皆様のご参加をお待ちしております。

    参考文献

    ※1) Obstetric Anesthesia Workforce Survey: A 30-Year Update(Anesth Analg 2016;122:1939–46)

    ※2) 順天堂式無痛分娩Q&A  角倉弘行他 (株)ヌンク出版

  • 2016年11月04日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2016年9月20日 7:00-7:45
    演題:周術期凝固管理入門
    演者:田中健一先生(メリーランド大学麻酔科教授)

    2016年9月16日〜18日まで開催された第22回日本心臓血管麻酔学会にて、田中健一教授が招請講演来日され、「最新の血液凝固のトピックス」をご講演されました。更に今回、聖路加国際病院麻酔科グランドラウンドにも演者として訪院され、「周術期凝固管理入門」と題して輸血療法に関する入門編を直接ご教示頂きました。田中先生は周術期の血液凝固において第一任者でおられ、先生の論文を基に世界中の医師が診療を行っております。
    心臓手術において血液凝固検査をもとに輸血製剤を投与することは、経験に基づく輸血療法に比べ、輸血量や術後出血量に差がある※1一方で、臨床現場では検査結果が迅速に得られないために、迅速な治療を優先する場合も少なくありません。近年、ベッドサイドでより迅速に出血原因の診断を可能にする検査機器が注目され、当院手術室にも導入予定です。全血弾性粘稠度検査の種類(TEG®やROTEM®)、をはじめとするトロンボエラストメトリーから得られる値から血液製剤を選択するプロトコール※2、ワーファリン拮抗をするためのPCC(Prothrombin Complex Concentrate)投与法※2についてご教示いただきました。当院でもこのご指導を基にしてトロンボラストメトリーの導入に努めて参ります。
    次回は、2017年4月10日に血液凝固セミナー(質疑応答式)、4月11日には「英文論文を書くためのポイント」と題して再度グランドラウンドにご登場頂くことが決定しております。皆様是非ご参加ください。

    参考文献

    1) Nuttall GA.et.al. Efficacy of a simple intraoperative transfusion algorithm for nonerythrocyte component utilization after cardiopulmonary bypass. Anesthesiology. 2001 May;94(5):773-81

    2)Williams B, McNeil J, Crabbe A, Tanaka KA. Practical Use of Thromboelastometry in the Management of Perioperative Coagulopathy and Bleeding. Transfus Med Rev. 2016 Aug 27.

  • 2016年9月15日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2016年8月26日 7:00-8:00
    演題:卒後医学教育システム 米国流に学ぶことはあるのか
    演者:酒井哲郎教授(ピッツバーグ大学 麻酔科)

    オリンピックの陸上リレーで銀メダルを獲得した日本選手の勇姿から学んだメッセージ「バトン受ける方も全力で走る、渡す方も全力で走る。そのパスワークは教育においても同じ」。先生から素晴らしいメッセージを賜りました。酒井先生はピッツバーグ大学麻酔科のレジデンシープログラムのAssociate Program Director を兼任され、同大学のリサーチ教育の重要性に着目し、構築されたプログラムは高く評価されております。今回はACGME(Accreditation Council for Graduate Medical Education)が評価する米国麻酔教育プログラムの紹介、ACGME-International(米国医学教育の国際認定制度)、日本の専門医制度についてご講演いただきました。レジデントのみならず指導医もモチベートする教育、web baseの迅速なフィードバックの具体例など、より良い教育システムをご教示下さいました。今回は当院各科医師だけでなく院外からも東京女子医科大学麻酔科教授、成育医療センター麻酔科部長をはじめ。近隣の大学病院、総合病院の麻酔科指導医、また北海道・手稲渓仁会病院から前期研修医、筑波大学医学部から学生もご参加頂きました。
    ご講演のあとの懇親会には、杏林大学医学部麻酔科教授も参加され、麻酔科の医学教育に関し熱いディスカッションが行われました。

    参考文献

    Sakai T, Emerick TD, Metro DG, Patel RM, Hirsch SC, Winger DG, Xu Y. Facilitation of resident scholarly activity: strategy and outcome analyses using historical resident cohorts and a rank-to-match population. Anesthesiology. 2014 Jan;120(1):111-9.

    Todd MM, Fleisher LA. Avoiding professional extinction. Anesthesiology. 2014 Jan;120(1):2-3

  • 2016年9月15日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2016年8月23日 7:00-8:00
    演題:痛みの遺伝学と「プレシジョン医療」
    演者:Dr. Ruth Landau M.D. ルース・ランダウ先生 (米国コロンビア大学麻酔科教授・産科麻酔学、スイスジュネーブ大学遺伝学客員教授)

     米国のオバマ大統領は「Precision Medicineの推進」に対して215百万ドル(約250億円)の資金を投じることを2015年1月20日に発表しました。プレシジョン医療とは、「遺伝子、環境、ライフスタイルに関する個人ごとの違いを考慮した予防や治療法を確立する」ことで、100万人以上の米国ボランティアのデータをもとにコホート研究が進められます。
     鎮痛薬コデインに関しては、肝代謝酵素CYP2D6の遺伝子や配列より、モルヒネへの代謝の違いが示唆されており、投与ガイドラインがアップデートされております。周産期の痛みを、遺伝子だけでなくその構成などからアプローチして鎮痛薬の効果を研究されているランダウ先生から、μオピオイドレセプター(OPRM1)遺伝子の118A/G型によって、分娩時のくも膜下フェンタニルの鎮痛効果に差があることや、帝王切開時のくも膜下モルヒネ投与後の術後痛や、モルヒネ投与量にも相違があることをお話いただきました。同じ手術に同じ麻酔をする(one-size-fits-all)のではなく, 術前に得られる情報とくに疼痛に関する遺伝型(genotype)や、麻酔時の疼痛評価(phenotype)から術後痛を予測し、患者ごとの疼痛管理計画を立てるアルゴリズムもご教示頂きました。
     今回は、当院の女性総合診療部はじめ、小児科・外科、緩和ケア科、内科、放射線科医師など多科にわたりご参加頂き、近隣病院・クリニックからも来院いただき、プレシジョン医療の現状や可能性など積極的な質疑応答がなされました。
     グランドラウンドの後には当院LDR(陣痛分娩リカバリー室)を当院女性総合診療部・山中美智子医長のご案内のもと見学会が催されました。

    参考文献

    Ruth Landau, M.D. et al. The Effect of OPRM1 and COMT Genotypes on the Analgesic Response to Intravenous Fentanyl Labor Analgesia. Anesth Analg 2013;116:386–91

    Alex T. Sia,M.D., Ruth Landau, M.D. et al. A118G single nucleotide polymorphism of human mu-opioid receptor gene influences pain perception and patient-controlled intravenous morphine consumption after intrathecal morphine for postcesarean analgesia. Anesthesiology. 2008 Sep;109(3):520-6

  • 2016年8月15日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2016年8月4日 7:00-8:00
    演題:心肺蘇生後の神経学的予後改善
    演者:木田康太郎先生 (東京慈恵会医科大学麻酔科講師)

     東京慈恵会医科大学麻酔科の臨床医としてご活躍の上、更に基礎研究でも大変ご高名な木田康太郎先生をお迎えし、ご講義いただきました。
     はじめに、AHA ガイドライン2015で心肺停止蘇生後の低体温療法に関し、温度管理や時間、治療後72時間以降の神経予後評価が詳細にアップデートされました。
     木田先生は、蘇生後の神経予後を改善すべく、低体温療法中の脳保護法として一酸化窒素の有用性を長年基礎研究され、数々の賞を国際学会で受賞されておられます。そこで今回は、数々の御研究のなかからノックアウトマウスを用いてNOS3 (nitric oxide synthase 3:一酸化窒素合成酵素3) が心肺停止蘇生後の低体温療法での生存率改善に必要であることや、一酸化窒素を併用することで生存率に有意差があること、脳血流に影響を及ぼさずに脳MRIのT2強調画像での病巣域が狭いことなど、当科専攻医S4の岡部宏文医師も従事している内容を含めてご紹介頂きました。
     当日は、当院救急部や、放射線科医師なども多数参加し、初期診療に続く集中治療、画像評価などの集学的診療が鍵となる心肺停止蘇生管理を担当する医師・医療チームにとって、一酸化窒素の生存率・脳保護に対する有用性を学ぶ大変貴重な機会となりました。
    Publications
    Kida K, Ichinose F. Preventing ischemic brain injury after sudden cardiac arrest using NO inhalation. Crit Care 18: 212, 2014.
    Kida K, Shirozu K, Yu B, Mandeville JB, Bloch KD, Ichinose F. Beneficial effects of nitric oxide on outcomes after cardiac arrest and cardiopulmonary resuscitation in hypothermia-treated mice. Anesthesiology 120: 880-9, 2014.
    *Kida K, *Minamishima S, Sips PY, Wang H, Tokuda K, Kosugi S, Mandeville JB, Buys ES, Brouckaert P, Liu PK, Bloch KD, Ichinose F. Inhaled nitric oxide improves long-term outcome after successful cardiopulmonary resuscitation in mice. Circulation 124: 1645-53, 2011. (*Authors contributed equally to the manuscript.)
    Books
    Kida K, Ichinose F. Preventing ischemic brain injury after sudden cardiac arrest using NO inhalation. Annual Update in Intensive Care and Emergency Medicine 2014. Kida K, Ichinose F. Hydrogen Sulfide and Neuroinflammation. Handb Exp Pharmacol 230: 181-9, 2015.

  • 2016年7月25日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2016年7月15日 7:00-8:00
    演題:ベッドサイドでの超音波入門
    演者:ジョン・デアンジェリス先生(マサチューセッツ州 ケンブリッジ病院)

    超音波ガイド下中心静脈カテーテル留置、神経ブロック、経食道心エコーでの心機能評価は、日本麻酔科学会教育ガイドラインに学習・基本手技項目として提示されており、専門医試験の出題基準にもなっています。今回は、救急医学アテンディングで超音波診断専門医の視点から、ベッドサイドでの超音波評価法、基本手技についてご講義頂きました。心肺蘇生時の心嚢液・心収縮評価法、血圧低下時の循環動態評価のトピックスとして頚動脈の流速測定の可能性や、静脈カテーテル留置法、気管挿管や気胸の評価を学びました。超音波で多臓器の詳細な評価法がある中で、気道・呼吸・循環評価は初期診療の中で迅速な診断・治療が必要であり、今回は当院循環器内科アテンディングや内科専攻医の先生方に多数ご参加頂きました。実際の超音波動画を提示頂く講義はベッドサイドエコーを病棟・外来で最も使用する若手医師にとって即実践できる有意義な内容でした。

  • 2016年6月27日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2016年6月16日 7:00-8:00
    演題:小児ICUでの気管挿管
    演者:Keiko Tarquinio, MD (エモリー大学 小児科・集中治療部助教授)
    「Keep Calm and Call Respiratory」誰もが緊迫する小児気管挿管ですが、講演のタイトルポスターが重要なTake home messageとなりました。小児集中治療室での気管挿管に関し、自施設が参加されている小児の多施設気道管理レジストリNational Emergency Airway Registry for Children (NEAR4KIDS) の分析データに基づき、小児領域の気道確保戦略であるVotex approach法の紹介、挿管デバイス選択、導入薬の使用法、処置前のスタッフ間での確認事項など実践に即した内容でご講演頂きました。小児気道確保アップデートを共有し、open discussion 形式で気管挿管医師認定法、ビデオ喉頭鏡使用時の教育法、気道管理困難症例など意見交換しました。今回は小児科や内科医師も多数ご参加頂き、講演後は当院の新生児室(NICU)で症例検討がなされ、Tarquinio先生のラウンドは各科スタッフの向学の機会となりました。
    参考文献:Tarquinio et al. Pediatr Crit Care Med. 2015 Mar;16(3):210-8. PMID: 25581629
    Current medication practice and tracheal intubation safety outcomes from a prospective multicenter observational cohort study.

  • 2016年6月7日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2016年5月31日 7:00-8:00
    演題:脳波モニタリングから脳の発達と加齢変化を考える
    演者:Patrick L. Purdon, PhDパトリック・パードン(ハーバード大学麻酔科准教授)
    日本麻酔科学会の提供する「安全な麻酔のためのモニター指針」で2014年7月の改訂から、「脳波モニターは必要に応じて装着すること」と提言されております。当院の手術室では脳波モニターを全手術室に設置し、適宜装着の上で麻酔管理をおこなっております。今回は脳波モニタリング開発者で研究の第一人者のハーバード大学麻酔科准教授パトリック・バートン先生から貴重なご講演の機会を賜りました。脳波を作り出す視床下部と大脳皮質との関係、鎮静度に応じた脳波の変化など基本的なことから、深鎮静と術後せん妄の関係、加齢による神経細胞の変化と脳波への出現の仕方などトピックスを伺い、脳波モニターを用い小児から高齢者まで麻酔中の麻酔深度を適切に評価する方法を学びました。

  • 2016年6月7日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2016年5月30日 7:00-8:00
    演題:手術中の肺保護換気
    演者:Matthias Eikermann MD, PhD (ハーバード大学麻酔科 准教授)
    肺保護換気とは急性肺障害・急性呼吸促迫症候群に対する呼吸管理法として集中治療領域で定着していますが、今回は手術中の肺保護換気についてご講演頂きました。麻酔科医は手術術式や術前呼吸状態をもとに、手術中は術侵襲に対する呼吸・循環動態の変化を監視して換気設定を細かく調整しております。術式の違いにおける終末呼気陽圧設定法や評価法、圧換気法・容量換気法でのアウトカムの相違、肺リクルートメント方法など実践に則した内容でした。講演後は各手術室とICUをまわられ、麻酔科専攻医と初期研修医に直接ご指導頂きました。アイカーマン先生の訪問は、当院麻酔科全体にとり大変有意義な経験となりました

  • 2016年6月7日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2016年5月19日 7:00-8:00
    演題:心血管疾患と緑内障における治療標的としてのNO-cGMP シグナリング
    演者:Emmanuel (Manu) Buys Ph.D.エマニュエル・バイス准教授(ハーバード大学 麻酔科)
    一酸化窒素(NO)は血管拡張作用を持つガスであり医療用として、またそれを体内で産生させる薬は内服薬・注射薬として一般的なものであります。今回は、NOが反応することで生成されるcGMP のシグナル伝達が血圧や緑内障におよぼす影響に関し、分子生物学者でおられるBuys先生からご講演頂きました。南極アザラシに関して、低温・高深度・高水圧下で長時間遠泳に耐えうる分子レベルでの生体機能もご研究中で、現地でのアザラシ動画を供覧させていだだき興味深い内容でした。国内の研究チーム医師(慈恵会医科大学麻酔科学教室 木田康太郎医師、北里大学呼吸器内科 畑石隆治医師)や当院の免疫・細胞治療科の平家勇司医師もご参加頂きディスカッションが行われ、講演後当院内の免疫・細胞治療科の総合研究室でミーティングが開かれました。

  • 2016年6月7日

    麻酔科グランドラウンド報告

    日時 : 2016年5月12日 7:00-8:00
    演題 : 肝移植における静脈バイパスおよび周術期モニタリングでの合併症
    演者 : 酒井哲郎教授(ピッツバーグ大学 麻酔科)
    移植医療を含め大血管を扱う手術には頚静脈アクセスが必要であり、手術室外でも輸液・薬液ルート、圧測定、栄養管理などそのカテーテル挿入は全診療科で必要な手技であるため、当院ではそれらを包括する中心静脈カテーテル挿入において認定医制度を設け安全管理に努めております。今回は、肝移植における静脈バイパスとしての中心静脈カテーテル挿入時における、血管の選択、穿刺方法、合併症、症例から学ぶ注意点など、心臓血管外科・移植外科のトレーニングを経て現在米国で腹部臓器移植手術を中心に臨床でご活躍されている酒井哲郎教授の貴重なご経験をもとに講演頂きました。カテーテル挿入を日常的に行う麻酔科医との細かな手技の確認や安全管理に関するディスカッションが行われました。

  • 2013年4月9日

    聖路加—MDアンダーソン シンポジウム「困難気道アップデート」

    2013年4月9日夜19時から、当院トイスラーホールで標記シンポジウムを開催した。「困難気道」とは、麻酔の導入に伴い、マスクによる換気や気管挿管による気道確保が難しい状況を指し、全麻酔症例の5%で、困難ではあるが麻酔科医の技能次第で可能となる症例が含まれるとされ、麻酔科医の臨床でもっともストレスの大きな要因の一つである。
    開口不可能な悪性腫瘍患者での臼歯後窩腔経由の挿管、日本麻酔科学会が提案している新たな困難気道アルゴリズム、非挿管患者で安定した使用が可能な新しいカプノメータ、そしてマルチビュースコープ、エアウエイスコープといった日本発の挿管困難症例対応機器の使用例などが、この領域の国際的なエキスパートである、米国MDアンダーソン病院麻酔科副部長のD. Truong教授および同院A. Truong医師、千葉大学麻酔科磯野史朗教授、同じく小児麻酔領域の世界的なエキスパートである当院周術期センターの宮坂勝之センター長および国立成育医療センター麻酔集中治療部鈴木康之部長の5名の演者により提示された。
    当院麻酔科片山正夫部長の進行で、夜10時にまで及ぶ熱心な討論が行われ、院内はもとより、首都圏の主要大学麻酔科教授も含め、80名近くにお集まりいただき、明日からの臨床に役立つとても実りの大きな機会となった。

  • 2012年9月25日

    麻酔科主催カンファランス 演題 成人化した先天性心疾患患者の手術・麻酔 Anesthesia for adults with congenital heart disease.

    演者:南カロライナ大学麻酔科 心臓血管麻酔担当 Francis McGowan 教授
    司会:片山正夫麻酔科部長 通訳:宮坂清之麻酔科医師
    小児期先天性心疾患の手術を受けた患者が成人になり、心臓に対する手術だけでなく、出産や心臓以外の手術のために麻酔科が関わる機会が、当院でも増えています。当院ような成人心疾患症例を主体とする施設が、こうした小児期に端発する複雑な病態を取り扱う上での問題点が取り上げられました。今や先天性心疾患を持と患者は小児より成人の方より多い時代です。今まで根治術と考えられて来た心臓病の術後患者も、日常運動能では劣っていたり、手術により修復とは呼べてもとても根治術とは呼べない状況が知られて来ています。既に当院でも臨床例があり、これから増えると考えられるファロー四徴症やフォンタン術後患者の病態を例に、麻酔科医師だけでなく、心臓血管外科医、循環器医、産科医、小児科医などにとっても大変有益な講演をしていただき、実際関連各科の方々、そして東京女子医大麻酔科など、近隣諸施設からの参加もありました。講演および質疑は全て通訳されて、活発な討論が行われました。

  • 2012年6月20日

    6月18日(月)朝7時30分から ハーバード大学麻酔科教授 Dr. Julian Goldman氏の "New development in health IT" (医療IT技術の最新の動向:ワイヤレス通信時代、最新IT技術をいかに医療にとりこむかの米国国家政策の一端)の講演会が開催され、同時通訳がつき、講演後も活発な議論が行われました。
    輸液ポンプやカプノメータなど、使われている多くの医療機器で、装置の不具合が取り沙汰されるが、実は使い方が問題であることが十分に認識されていません。また臨床現場では、患者に使われる各医療機器の持つ時計が一致していないなど、医療機器の相互接続にも注意が払われていません。マサチューセッツ総合病院の「未来の手術室」プロジェクトでは、患者の状態に合わせて個々の医療機器が適切な判断と対応を行う仕組みを作りあげることで、患者の安全に寄与するシステムを作りあげました。その他、医療に特化したワイヤレス電波域を既に確保した米国政府の考えなどが紹介されました。

  • 2012年5月18日

    5月18日(金)朝7時から当科主催による講演会「無痛分娩は生まれるこどもにこそ必要」 東京マザーズクリニック副院長 林玲子先生に行っていただきました。当科だけでなく、他科の医師、看護師、コメディカル、また他院の医師も出席され、朝早くからの講演にもかかわらず盛会に終わりました。

トップへ