Quality Indicator(医療の質)

Quality Indicator 2020 医療の質を測り改善する
福井 次矢 監修 聖路加国際病院QI委員会
インターメディカ 2020年12月
聖路加国際病院の16年間にわたる診療の質指標(Quality Indicator: QI)の経年変化、その間に行われた改善の試み
我が国の医療の質の更なる向上を目指して
2016年度の厚労省の研究補助金で行われた「医療の質指標に関する国内外レビュー及びより効果的な取組に関する研究(研究代表者 福井次矢)」により、将来、全国の病院がQIを測定するようになった場合に利用できる指標の一式が提唱されました。
今後、この共通指標一式の有用性が検証されたなら、QIを用いた質改善サイクルの導入が一気に広まる素地があるように思われます。
医療の質の絶え間ない改善は、われわれ医療者にとって最大の使命であります。
ESQR(欧州質研究学会)よりベストプラクティス賞を受賞
当院が取り組んでまいりました「医療の質を表す指標の測定・公開と改善活動」が高く評価され、この度、2016年欧州ベストプラクティス賞を受賞しました。同賞は、Quality CultureならびにQuality Improvementを促進することを目的としたESQR(欧州質研究学会)が主催し、世界中の企業、組織の中で様々な分野における顕著な質改善運動の功績が認められた団体を表彰するものです。授賞式は、6月4日(土)にベルギーの首都ブルッセルにて開催され、75の企業、組織とともに当院が表彰されました。
プレスリリース
国際病院連盟賞最高位賞を受賞
当院が取り組んでまいりました「医療の質を表す指標の測定・公開と改善活動」が高く評価され、この度、国際病院連盟賞最高位賞を受賞しました。同賞は、国際病院連盟が主催し、世界中の病院の活動、取り組みで、顕著な功績が認められた病院を表彰するもので、今年が第1回目となります。授賞式は、2015年10月6日に米国シカゴで開催されました国際病院連盟主催の世界病院会議において執り行われました。
プレスリリース
聖路加国際病院がQIにこだわる理由
聖路加国際病院では2007年より他施設に先駆け、Quality Indicator(以下QI)の公表を行ってまいりました。QIとは、医療の質を評価する目安となる指標です。自分たちの提供している医療が本当に質の高いものであるかどうか、課題があればそれが改善されているかどうかなどを数値として示すことで、より質の高い(エビデンスに則した)医療の提供ができると考えています。
QIの測定・公開は医療者のパフォーマンス改善を目的に
わが国でも、多くの病院がQIを測定し、公開するようになってきました。聖路加国際病院のスタッフが関わっている日本病院会のQIプロジェクトもその一例です。このプロジェクトへの参加病院数は、初年度(2010年度)の30病院から2018年度は352病院まで増えました。
2018年は72のQIを測定、公開しました
2018年は以下の72指標の測定を行いました。聖路加国際病院は、この指標に基づき、業務改善、提供する医療の質の向上に努めております。
Quality Indicator 2018 [医療の質]を測り改善する-目次-
第1章 医療の質とEBM、Quality Indicator
第2章 Quality Indicator選定基準、質改善と患者安全のための方略
第3章 病院全体
- 1. 病床利用率、平均在院日数
- 2. 紹介率・逆紹介率
- 3. 職員の非喫煙率
- 4. 医業利益率
- 5. 意見箱投書中に占める感謝と苦情の割合
- 6. 患者満足度
- 7. 死亡退院患者率
第4章 報告・記録
- 8. 2週間以内の退院サマリー完成率、48時間以内の手術記録完成率
- 9. 放射線科医による読影レポート作成に24時間以上かかった件数の割合
- 10. ICUでの1患者1入院日あたりの平均ポータブルX線検査数
- 11. 消化管生検検査の報告書が48時間以内に作成された割合
- 12. 24時間以内にアセスメントされている割合
- 13. 検体検査の報告に要した平均時間
第5章 教育
- 14. 研修医1人あたりの指導医数、研修医1人あたりの専門研修医数
- 15. 卒後臨床研修マッチング1位希望者の募集人数に対する割合
- 16. 看護師100人あたりの専門看護師数、看護師100人あたりの認定看護師数
- 17. 看護師の教育歴
- 18. 剖検率
第6章 看護
- 19. 瘡発生率
- 20. 褥瘡発生リスクの高い人に対する体圧分散寝具の使用率(処置実施率)
- 21. 口腔ケア実施率
- 22. 高齢者(せん妄ハイリスク患者)におけるせん妄評価率・発症率
- 23. 転倒・転落発生率、転倒・転落による損傷発生率
- 24. 転倒・転落リスクアセスメント実施率、転倒・転落予防対策立案率、転倒・転落予防対策説明書発行率、転倒・転落リスク再アセスメント実施率
第7章 薬剤
- 25. ステロイド服薬患者の骨粗鬆症予防率
- 26. 入院患者のうち薬剤管理指導を受けた者の割合、薬剤管理指導を受けた者のうち回避された障害レベルが3以上の割合
第8章 手術・処置
- 27. 中心静脈カテーテル挿入術の重篤合併症発生率
- 28. 非心臓手術における術後24時間以内に予防的抗菌薬投与が停止された割合
心臓手術における術後48時間以内に予防的抗菌薬投与が停止された割合 - 29. ガイドラインに準拠して予防的抗菌薬が投与されている患者の割合
- 30. 心臓手術患者における術後血糖値のコントロール
- 31. 執刀開始1時間以内に予防的抗菌薬投与を開始した割合
- 32. 手術患者における静脈血栓塞栓症の予防行為実施率
- 33. 予防行為が行われなかった入院患者の静脈血栓塞栓症の発生率
予防可能であった可能性のある静脈血栓塞栓症の割合 - 34. 回復室長期滞在率
- 35. 術中体温管理がされている手術患者の割合
第9章 生活習慣
- 36. 糖尿病患者の血糖コントロール(HbA1c)
- 37. 降圧薬服用患者の血圧コントロール
- 38. LDLコレステロールのコントロール
- 39. 高血圧患者の血圧測定率
第10章 脳・神経
- 40. 前方循環系主幹動脈閉塞による急性期脳梗塞に対する早期血管内治療の割合
- 41. 虚血性脳卒中患者における抗血小板薬退院時処方率
- 42. 心房細動・心房粗動を伴う虚血性脳卒中患者における抗凝固薬退院時処方率
- 43. 脳卒中患者におけるリハビリテーション実施率
第11章 心血管
- 44. 心大血管リハビリテーション外来継続率
- 45. 急性心筋梗塞の患者で病院到着からPCIまでの所要時間が90分以内の患者の割合
- 46. 左室機能が悪い急性心筋梗塞患者へのACEI/ARB退院時処方率
- 47. 急性心筋梗塞患者における病院到着前後24時間以内のアスピリン処方率
急性心筋梗塞患者における病院到着後24時間以内のβ-遮断薬処方率 - 48. 左室機能が悪い心不全入院患者へのACEI/ARB処方率
左室機能が悪い心不全入院患者へのβ-遮断薬処方率 - 49. 心不全入院患者における左室機能評価
- 50. 心不全入院患者における退院後予約割合
- 51. PCI後24時間以内の院内死亡率
- 52. 急性心筋梗塞患者における退院時処方率(アスピリン、β-遮断薬、ACEI/ARB、スタチン)
- 53. 心不全患者における退院後の治療計画記載率
第12章 慢性腎臓病
- 54. 慢性腎臓病患者でのRAS阻害薬処方率
- 55. 維持透析患者の貧血コントロール
- 56. 維持血液透析の適正透析、維持腹膜透析の適正透析
第13章 眼・耳鼻咽喉
- 57. 急性外耳炎患者における全身抗菌薬療法を施行しなかった割合
- 58. 網膜剥離術後28日以内の予定外再入院率
第14章 救急
- 59. 小児頭部外傷患者の「頭部外傷テンプレート」記入率、小児頭部外傷患者のCT検査実施率
- 60. 救急車受入台数、救急車・ホットラインの応需率
第15章 腫瘍
- 61. 乳癌手術後にアロマターゼ阻害剤を服用している患者の骨密度チェック率
- 62. 初診から放射線治療開始までの所要日数が基準日を超えた患者の割合
- 63. Stage IIIの大腸癌患者における補助化学療法実施率
- 64. Stage II, IIIの胃癌患者における術後S-1療法実施率
- 65. 筋層非浸潤性膀胱癌に対する2nd TURBT(re-TURBT)の施行率
第16章 感染管理
- 66. 中心ライン関連血流感染(CLABSI)発生率
- 67. 膀胱留置カテーテル関連尿路感染(CAUTI)発生率
- 68. 人工呼吸関連イベント(VAE)発生率
- 69. メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)菌血症発生率
- 70. クロストリジウム・ディフィシルトキシン陽性患者発生率
- 71. 手指衛生実施率
- 72. 手術部位感染(SSI)発生率
筋層非浸潤性膀胱癌に対する2nd TURBT(re-TURBT)の施行率
執筆者:遠藤 文康(泌尿器科医長)
臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか
膀胱癌に対する初回経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)では、悪性度がhigh gradeかつTa(筋層非浸潤)で22~72%、T1(筋層非浸潤)では20~78%の残存癌があるとされ1)、さらにT2(筋層浸潤)へのupstageが2~28%ほどあると報告されています2)3)4)。これを踏まえ、初回TURBTに続き2nd TURBTを行うことで、再発や進行のリスクを低下させることが証明されています5)。
最新の『膀胱癌診療ガイドライン 2015年版』6)でもすべての筋層非浸潤high grade膀胱癌に対し、2nd TURBTを行うことが推奨されるようになりましたが、手術直後の再手術に対する抵抗感や高齢であることなどの理由から、主治医判断で施行されないことも多く見られます。
そのため、初回TURBTでhigh gradeかつ筋層非浸潤性膀胱癌であった患者に対し、2nd TURBTの実施率向上を図ることは、医療の質の向上につながると考えられます。
考察
かつての膀胱癌取扱い規約では悪性度のgradeが1~3の3段階で評価されており、grade 3が2nd TURBTの対象であると認識されていました。しかし最近、gradeがhigh とlowの2段階に分かれ、従来gradeと併記されることになっているため、grade 2かつhigh gradeのような記載が存在することになり、主治医の判断が混乱するケースもありました。判断基準を最新のものに統一し、全症例を泌尿器科のカンファレンスで振り返ることで、実施率の向上を図っていく予定です。
初回TURBTの術前説明で、2nd TURBTの可能性があることと意義を前もって説明することで、スムーズな同意を得られる可能性が高まると考えています。
<参考文献>
1) Schwaibold HE, Sivalingam S, May F, et al.:The value of a second transurethral resection for T1 bladder cancer. BJU Int. 2006;97(6):1199-1201.
2) Sivalingam S, Probert JL, Schwaibold H. The role of repeat transurethral resection in the management of high-risk superficial transitional cell bladder cancer. BJU Int. 2005;96(6): 759-762.
3)Jakse G, Algaba F, Malmström PU, et al.:A second-look TUR in T1 transitional cell carcinoma:why?. Eur Urol. 2004;45(5):539-546.
4)Miladi M, Peyromaure M, Zerbib M, et al.:The value of a second transurethral resection in evaluating patients with bladder tumours. Eur Urol.2003;43(3):241-245.
5)Herr HW:The value of a second transurethral resection in evaluating patients with bladder tumors. J Urol. 1999;162(1):74-76.
6)日本泌尿器科学会編集:膀胱癌診療ガイドライン2015年版.医学図書出版, 2015.
7)Impact of routine second transurethral resection on the long-term outcome of patients with newly diagnosed pT1 urothelial carcinoma with respect to recurrence, progression rate, and disease-specific survival: a Prospective randomised clinical trial.Eur Urol. 2010;58(2): 185-190.
QI指標の詳細・測定結果は『Quality Indicator 2020 医療の質を測り改善する』として出版しています。
St.Luke's Quality and Healthcare Report 2006