予防医療に関する指標
職員のインフルエンザワクチン予防接種率
病院職員のインフルエンザワクチン予防接種率は、「患者さんの安全」にかかわる問題です。医療機関を受診される方々では免疫力が低下していることが多く、病院職員がインフルエンザに罹れば、その職員から感染してしまう可能性が高いからです。病院職員がインフルエンザに罹った場合、5日間自宅療養することになります。職員の間でインフルエンザが大流行するようなことがあれば、病院は人員不足になり、患者さんの安全が脅かされることになります。 米国の病院職員でのインフルエンザ接種率(41.9%)と比較すると、当院の数値は大いに誇ってよく、2008年はさらに改善して、我が国の国立病院機構とほぼ同じ高率(81.9%)に達しました。その理由としては、2008年度から職員へのワクチン接種を無料(雇用形態によっては一部負担)としたことがあげられます。当院では、もともとインフルエンザ予防接種に力を入れ、接種期間・場所・方法を具体的に指定して人員を動員しているため、職員が接種しやすい環境が整っています。
職員の健診受診率
職域で実施される健康診断は労働安全衛生法によって定められており、職員の安全と健康を確保するために、対象となる全職員に実施することが義務付けられています。医療従事者は、各自の健康については自己管理を行うことが求められていて、特に、直接患者さんと接する機会の多い職種では、定期的に健康診断を受けることが重要です。交代勤務のある職種や時間の調整が難しい医師には連絡を密にし、受診可能な日数を増やすなどして受診を勧め、受診率向上の努力を続ける必要があります。2008年度は未受診者対策として、9月と12月に予約日に受診しなかった職員に対して、再度連絡を行ないました。また、複数年未受診の職員にも、衛生委員会から受診を呼びかけるようにしたことが受診率向上につながったと思われます。
職員の非喫煙率
2006年4月の都道府県別の報告によると、2004年度東京都の成人の喫煙率は男性が38.9%(非喫煙率61.1%)、女性が12.9%(非喫煙率87.1%)となっており、当院の数値は東京都の成人女性の非喫煙率とほぼ同じ水準にとどまっています。また、職員健診を実施している予防医療センターの受診者としての視点からみると、30歳以上の受診者が年間200人以上いる10団体の非喫煙率は、10団体全体では男性が67.1%、女性が89.7%となっています。これに対し、当院の非喫煙率は男性が85.2%、女性が94.1%と、10団体中では上位に位置しています。当院は2005年4月より、病院敷地内の禁煙を実施しています。まだ禁煙できずにいる職員のために、「あきらめずに行う禁煙指導」「やめたい人を手助けする禁煙支援」として、継続した情報提供と個別的なアプローチを検討する必要があると考えています。2007年度より、世界禁煙デーにあわせて5月に禁煙相談をおこない、2008年度には予防医療センターで行なっている「禁煙サポートプログラム」を職員にも提供しました。また、喫煙している職員への個別相談を健診受診時にもおこなったことなどが禁煙率が上昇する結果となったと考えます。
上部消化管内視鏡検査での胃上皮性腫瘍発見率
当予防医療センターでの人間ドック上部消化管内視鏡検診(1次スクリーニング)は、一般の対策型胃集団検診(地域検診,職域検診)と性格が異なり、主に任意型検診、個別検診です。受診される方の背景(年齢・性別・検診歴など)により、腫瘍性病変の発見率が左右されますので、腫瘍性病変の発見率が検査の精度そのものを表すとは限りません。この5年間、発見率が0.35%-0.45%で推移していることは、背景胃粘膜に慢性萎縮性胃炎を有する逐年受診者からの胃癌・胃腺腫の新規発見に、初回受診者を含め検診間隔が空いている受診者からの発見が加り、全体としての発見率が0.4%前後で推移していると考えられます。一般的には、初めて内視鏡検査を受ける受診者が多ければ、腫瘍病変が発見される確率は高く、逐年受診者が多いほど発見される確率は低くなると考えられます。
宿泊ドック利用者のリピート率
同じ医療施設を繰り返し患者さんに利用していただくということは、その施設に対する患者さんの満足度、信頼度を表します。2008年時点で、過去5年間のリピート率は、当院25.7%(224/871)、参考値36.3% (3851/10611)ですが、当院の分母は少なく、比較するのは困難です。ここでは、5年間でのリピート率を比較していますが、検診においては何年間分のデータでみればよいのか、結論は出ていません。また、当院の分母は宿泊ドックのみの受診者数です。当院では多くの利用者が宿泊ドックと日帰りドックを交互に利用されていますが、それらは統計上はリピートとして出てきません。同じ施設ですので、これらはリピートと考えるべきでしょう。将来、統計処理を統一化していく予定です。利用者に信頼、満足していただける検診を行うことが最も大切です。サービス向上、検診内容の充実、検診後のフォローアップ、その後の利用者の方々への密な連絡などが重要になります。今後、宿泊ドック、日帰りドック交互に利用される方々を調べ、統計処理をすれば、より真実に近いリピート率を知ることができるでしょう。
女性健診受診者での乳房検査受診率
現在、日本の女性が最も多くかかるがんは、乳がんです。40〜50歳代の女性では、がん死亡原因の第1位となっており、罹患率、死亡率ともに著しい上昇傾向にあります。欧米でも罹患率は上昇していて、乳房X線撮影(マンモグラフィ;MMG)による検診を普及させる努力がなされています。人間ドック受診者の乳がん検診受診率を上げることは、病気の早期発見につながるため、医療の質の向上を示しているといってよいでしょう。当院では、①適正な乳がん検診についての情報提供、受診動機付け、②当日オプション受付体制の強化、③超音波検査機器の増設などの、実施体制の整備によって、受診率の増加を達成することができました。