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鼻の病気と治療方法、入院期間
当院では鼻の手術に力を入れています。
特になるべく切開を加えずに、小さな傷口から内視鏡を挿入し治療する低侵襲の手術を心がけています。たとえば眼窩底骨折などは今までの様に歯ぐきを切らずに上顎洞に3つの穴を開けて内視鏡手術で治療しています。これは当院独自の方法です。
図1 3つのコントロールホールで行う眼窩底骨折整復術
a. 手術風景 b. 手術の模式図 c.上顎洞に落ち込んだ眼の脂肪組織の処置
発表論文
- 柳清:内視鏡下鼻副鼻腔手術における留意点とコツ 眼窩壁骨折、Johns:24,239-24.3,2008
- 柳清:眼窩疾患に対する経鼻的・経副鼻腔的アプローチ ―適応範囲と低侵襲手術の工夫ー:日鼻誌:47:38-39,2008
日帰り手術か?短期入院手術か?通常の入院手術か?
手術が必要な鼻の病気は様々です。また鼻の手術後は出血したり、痛みが出たり、熱が出たりします。最近日帰り手術や短期入院手術といったことを前面に掲げ手術を行っている施設がありますが、一概に全ての鼻の手術が日帰りや短期間の入院で治療できる訳ではないのです。当院では短期入院で済む場合は短期入院で、そうでない場合は必要最低限の入院期間で安全で確実な治療を行っております。
手術方法も様々でそれぞれの病気にあった手術方法を選択し、患者様の状態(年齢、持病(心臓病、肝臓病、糖尿病、喘息)の有無など)に合わせた入院期間を考えなければなりません。このような持病がある方は他科との連携が必要になります。心臓病のある方は血圧や出血傾向のコントロール、肝臓病のある方は肝機能の管理、糖尿病の方は血糖値の調節、喘息の方は喘息のコントロールが必要です。そのような意味で個人病院ではできない治療を提供し、総合病院としての利点を生かしています。次に代表的な鼻の病気の説明とおおよその入院期間を示します。
鼻疾患への取り組み
鼻の手術的治療は内視鏡などの光学機器の発達、手術器具の改良などにより、年々進歩しています。また当院で独創的な手術法も考案しています。常に新しい治療に取り組み、それを学会で発表し、論文を投稿しています。
次に今まで発表した様々な鼻の疾患に対する治療法の一部をご紹介いたします。
図2.鼻の手術風景
内視鏡に小型カメラを接続し、テレビモニターに拡大して手術野を映します。大きくて明るい視野で操作ができるので、とても安全で正確な手術操作が可能となりました。また手術をビデオに記録することで学会発表、若手医師への教育、患者様に対しての説明にも使っています。
図3.手術に使う鉗子
これは鼻の手術に使う鉗子の一部です。鼻の手術にはいろいろな鉗子が使われます。細いもの、太いもの、まっすぐなもの、曲がったものなど狭く複雑な鼻や副鼻腔の隅々まで処置するためにたくさんの道具が必要になります(図a.b.)。図cは曲がった鉗子を用いて前頭洞内の処置をしているところです。
図4.鼻・副鼻腔の構造(a.正面 b.縦断面)
鼻の中央には鼻中隔があります。そして上鼻甲介、中鼻甲介、下鼻甲介という3つの突起が左右にあります。それを囲むように前頭洞、篩骨洞、上顎洞、蝶形骨洞という4つの副鼻腔があります。これらの副鼻腔は正常では空気が存在しています。鼻の役割はにおいを嗅ぐ以外に吸った空気を温めたり、湿度を与えたり、ほこりを取り除いたりというフィルターの役割をしています。
図6.急性副鼻腔炎
左の上顎洞に膿が溜まっています。
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症状:
膿性鼻漏、鼻閉、後鼻漏、頬の痛み、発熱
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治療:
薬、上顎洞洗浄(外来で局所麻酔をして上顎洞に針を刺し、洗います)
薬や洗浄で治らない場合や、何度も急性の副鼻腔炎を繰り返す場合には手術をすることもあります。 -
入院期間:
約3日間
図7.アレルギー性鼻炎
両側の下鼻甲介が腫れて鼻の通路が狭くなっています。
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症状:
鼻閉、水性鼻漏、くしゃみ
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治療:
薬、特異的減感作療法
1年中症状がある人や薬が効かない人、薬を使えない人(妊婦や体質異常、胃の悪い人など)には手術をすることもあります。 -
入院期間:
レーザーなどによる下鼻甲介粘膜焼灼術(日帰り)
下鼻甲介粘膜切除術(3~4日間の入院)
発表論文
柳 清, 月舘利治, 飯田 誠, 森山 寛. 鼻腔内の粘膜病変に対するシェーバーの使用経験. 耳展 2000; 43: 106-110.
発表論文
- 柳 清, 今井 透, 千葉伸太郎, 森山 寛: アレルギー性鼻炎に対するハーモニック・スカルペルを用いた下甲介粘膜の処置 日本内視鏡外科学会雑誌1999 4; 425-429.
- 宇田川友克, 柳 清, 石井彩子, 今井 透: アレルギー性鼻炎に対するハーモニックスカルペルを用いた下鼻甲介粘膜手術の成績. 耳展2003; 43: 151-156.
- 大櫛哲史, 千葉 伸太郎, 柳 清, 吉川 衛, 太田 正治: 日帰り手術としてのアレルギー性鼻炎に対す超音波振動メスの有効性の検討. 耳展2000; 42: 119-126
図9.上顎洞粘膜嚢胞
上顎洞内の粘膜下に液体が貯まる病気です。
a.手術前
b.手術後:矢印の小さな穴から嚢胞を摘出しました
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症状:
頬の痛み、眼の奥の痛み、水性で黄色の鼻水が突然流れ出る。
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治療:
症状がなければ経過観察。症状が強ければ手術を行います。
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入院期間:
2日間
図10.Fenestration法による粘膜嚢胞の摘出術
上顎洞に2か所の穴をあけ、内視鏡とシェーバーメスを挿入し粘膜嚢胞を摘出しています(当院のみで行っている侵襲の少ない手術です)
a.実際の手術風景
b.c.d.内視鏡所見:嚢胞を取り除いている
発表論文
- 柳 清、 今井 透、飯村慈朗、宇田川友克: 上顎洞に発生する粘膜嚢胞(Mucosal cyst)に対する Minimum invasive surgery -Fenestration法による Shaver system の使用- 耳展 2001; 44:34-39.
- 稲葉岳也, 柳 清, 飯村慈朗, 今井透, 森山 寛: シェーバーを用いた上顎洞病変に対するFenestration法 -手術成績と問題点-耳展 2000; 43: 521-527.
図11.蝶形骨洞粘膜嚢胞
蝶形骨洞内の粘膜下に液体が貯まる病気です
a.手術前:左蝶形骨洞に粘膜嚢胞を認める
b.手術後:矢印の部分だけを開け、嚢胞を摘出した
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症状:
頭痛、眼の奥の痛み
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治療:
症状がなければ経過観察。症状が強ければ手術を行います。
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入院期間:
2-3日間(当院のみで行っている侵襲の少ない手術です)
図12.蝶形骨洞の粘膜嚢胞摘出術
蝶形骨洞に直接侵入し、他の副鼻腔には侵襲を加えない手術です。
a.b.手術の模式図:矢印の骨だけ開けて嚢胞を取り除く
c.1つ目の壁を開けているd.2つ目の壁を開けている
e.嚢胞を吸引している f.きれいになった蝶形骨洞
発表論文
澤田弘毅, 柳 清, 桜井 裕, 今井 透:頭痛を伴う蝶形骨洞粘膜嚢胞(Retention cyst)の3症例. 耳展2005; 48: 174-181.
発表論文
- 柳 清, 大西俊郎: 5.鼻中隔疾患,CLIENT21, 12鼻、東京: 中山書店2000:245-258.
- 柳 清:鼻中隔前方の切除範囲.イラスト手術手技のコツ.耳鼻咽喉科・頭頚部外科.村上泰監修:東京:東京医学社2003:269.
図15.上顎洞真菌症
左の上顎洞が真菌で埋まっています。
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症状:
鼻閉、悪臭鼻漏、鼻出血、後鼻漏、頬部痛
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治療:
薬、上顎洞洗浄で治療を行いますが、完治せず手術が必要になることが多いです。
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入院期間:
約4日間
発表論文
- 柳 清, 鴻 信義, 深見雅也, 森山 寛: 上顎洞真菌症に対する内視鏡下鼻内手術の評価. 耳展 1992; 35: 371-379.
- 柳 清: 副鼻腔真菌症. 今日の耳鼻咽喉科頭頚部外科治療指針. 森山寛編集:東京:医学書院2003:251-253.
発表論文
飯村慈朗, 柳 清, 稲葉岳也, 今井 透: 鼻前庭嚢胞及び顔裂嚢胞に対する内視鏡下鼻内手術法の検討. 耳展2001; 44: 113-119.
図18.上顎洞嚢胞
a. 術前所見:左側に3つの嚢胞が確認できます
b. 術後所見:開放された嚢胞
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症状:
頬の腫れや痛み、眼の痛み、眼の突出、歯の異常感
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治療:
薬の治療や注射で膿を抜くこともありますが、再発するので手術をして根治的治療を行います。
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入院期間:
2-3日間
発表論文
- 柳 清, 鴻 信義, 深見雅也, 森山 寛: 術後性上顎嚢胞に対する内視鏡下鼻内手術. 耳展 1992; 35: 425-433.
- 飯塚雄志, 深見雅也, 柳 清, 浅井和康, 鴻 信義, 森山 寛: 術後性上顎嚢胞に対する内視鏡下鼻内手術. 耳鼻臨床 1996; 89: 587-592.
- 宇田川友克, 柳 清, 石井彩子, 今井 透:多房性術後性上顎嚢胞に対する内視鏡下鼻内手術(ESS)の適応と限界. 耳展2005; 48: 160-166.
発表論文
- 月舘利治, 柳 清, 飯田 誠, 内田 豊, 森山 寛: 前頭洞嚢胞に対する手術法の検討とその予後 -嚢胞交通路の開存率を中心に- 耳展 1998; 41: 609-614.
- 柳 清:前頭洞自然口の開放.イラスト手術手技のコツ.耳鼻咽喉科・頭頚部外科.村上泰監修:東京:東京医学社2003:403-405.
- 鴻 信義, 柳 清, 深見雅也, 浅井和康, 飯田 誠, 森山 寛. 内視鏡下鼻内手術後の前頭洞入口部開存度について. 日耳鼻 1996; 99: 653-660.
発表論文
柳 清: 2.嚢胞性疾患、耳鼻咽喉科外来シリーズ11鼻副鼻腔外来、メディカルビュー社:186-195、1999.
図21.慢性副鼻腔炎
a. 手術前:両側の篩骨洞、上顎洞が膿で埋まっています。
b. 手術後:手術前の陰影が消えています。
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症状:
鼻閉、鼻漏、後鼻漏、嗅覚障害、頭痛
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治療:
薬、上顎洞洗浄
薬や洗浄で治らない人や何度も繰り返す人は手術が必要です。 -
入院期間:
5-7日間(重症度によります)
発表論文
- 柳 清: 慢性副鼻腔炎に対する内視鏡下鼻内手術後の予後に関する研究 上顎洞粘膜の組織像と内視鏡所見から-. 耳展 1998;41:15-37.
- Moriyama H, Yanagi K, Ohtori N, Asai K, Fukami M. Healing process of sinus mucosa after endoscopic sinus surgery. Am J Rhinol 1996 ; 10 : 61-66.
- 柳 清, 森山 寛, 深見雅也, 春名眞一, 浅井和康, 飯田 誠, 吉川 衛,月舘利治. 内視鏡下鼻内手術における上顎洞粘膜の処置と治癒過程. 日鼻誌 1997; 36: 155-161.
- 柳 清:篩骨洞・蝶形骨洞の解剖と内視鏡下鼻内手術概説.イラスト手術手技のコツ.耳鼻咽喉科・頭頚部外科.村上泰監修:東京:東京医学社2003:367-371.
- 柳 清:高橋式鼻腔整復術を基本術式とする中鼻甲介の処置.ENTNow耳鼻咽喉科処置・手術のControversy. 東京:Medical view:2003:147-153.
- 柳 清:副鼻腔手術における硬膜損傷・頭蓋内合併症の予防と対応JOHNS 2003; 19: 367-372.
- 柳 清:副鼻腔手術におけるインフォームドコンセント.MB ENTONI 2004.;37:46-52.
- 柳 清:鼻副鼻腔手術後の疼痛対策. JOHNS 2001 17: 1061-1065.
図23.喘息合併の慢性副鼻腔炎
a.最初は篩骨洞中心の陰影です。b.進行すると全ての副鼻腔に広がります。
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症状:
鼻閉、鼻漏、後鼻漏、嗅覚障害、頭痛、喘息
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治療:
薬や洗浄
重症な人は手術が必要です。しかし喘息を合併する人はそうでない人に比べ、再発しやすいです。再手術が必要になる割合は喘息を合併する患者さんのうちで約5%程度です。手術により喘息症状も軽くなります。 -
入院期間:
5~7日間(通常の副鼻腔炎より長めの入院が必要です)
発表論文
- 柳 清: 13.喘息合併症、耳鼻咽喉科外来シリーズ11鼻副鼻腔外来、メディカルビュー社:196-199、1999.
- 柳 清: 喘息を合併する慢性副鼻腔炎と鼻副鼻腔手術. JOHNS 2002 18: 1574-1578.
- 春名眞一, 鴻 信義, 柳 清, 森山 寛: 好酸球性副鼻腔炎(Eosinophilic Sinusitis). 耳展 2001; 44: 195-201.
- 飯村慈朗, 松脇由典, 柳 清, 鈴木高祐, 宇田川友克, 今井 透: Allergic Fungal Sinusitisの1症例. 耳展 2001; 41: 364-368.
図24.副鼻腔気管支症候群
慢性副鼻腔炎に気管支炎(慢性気管支炎、または管支拡張症、またはびまん性汎細気管支炎など)を合併した場合です。
a.手術前:鼻内の鼻茸と白色の篩骨洞
b.手術後:きれいになった鼻内と篩骨洞
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症状:
咳や痰、呼吸困難、鼻漏、鼻閉
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治療:
薬、洗浄薬や洗浄で改善しなければ手術を行います。鼻の手術をすると副鼻腔炎ばかりでなく、気管支炎も改善します。これは気管支炎の原因が後鼻漏(鼻水がのどにまわる症状)などによると考えられるためです。
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入院期間:
5日~7日間
発表論文
- 柳 清:副鼻腔気管支症候群、耳鼻咽喉科外来シリーズ1鼻副鼻腔外来、メディカルビュー社:174-177、1999.
- 柳 清:副鼻腔気管支症候群と鼻副鼻腔手術. JOHNS 2003 19: 864-868.
- 柳 清:副鼻腔気管支症候群. JOHNS 2004 20: 1840-1844.
- 柳 清、石井彩子、宇田川友克、春名眞一、森山寛.副鼻腔気管支症候群に対する内視鏡下鼻内副鼻腔手術の長期成績.日耳鼻 2003;106:1030-37.
発表論文
柳 清, 飯田 誠, 月舘利治, 内田 豊, 春名眞一, 深見雅也, 森山 寛. 上顎洞病変に対するマイクロデブリッダーシステム(ハマー)の応用. 耳展 1998; 41: 467-472.
発表論文
- 柳清:鼻副鼻腔炎内視鏡治療のコツと落し穴 -上顎洞病変の処置- Monthly Book ENTONI 2003; 22:23-31.
- 柳清:上顎洞血瘤腫、今日の耳鼻咽喉科頭頸部外科治療指針、276-277,2008
図28.悪性腫瘍
鼻や副鼻腔にはいろいろな悪性腫瘍もできます。写真はその一部です。
a.悪性黒色腫、b.悪性リンパ腫、c.上顎癌
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症状:
片側の鼻つまり、鼻血、鼻漏、涙、眼球突出、頬部腫脹など
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治療:
放射線治療、化学療法、手術(腫瘍の種類や大きさにより異なります)
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入院期間:
数週間
図29.眼窩底骨折
眼球を強くぶつけた時に発症する。 a.眼窩底の骨が折れて、眼の内容物が上顎洞に落ち込んでいる b.手術により眼窩内に戻された眼窩内容物
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症状:
複視、眼球陥凹、眼性疲労、眼球の痛み、鼻出血
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治療:
経過を観察し、症状が改善しなければ手術
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入院期間:
約1週間
発表論文
- 柳清:内視鏡下鼻副鼻腔手術における留意点とコツ 眼窩壁骨折、Johns:24,239-24.3,2008
- 柳清:眼窩疾患に対する経鼻的・経副鼻腔的アプローチ ―適応範囲と低侵襲手術の工夫ー:日鼻誌:47:38-39,2008
- 柳清:眼窩壁骨折、JOHNS:25:1289-1296,2009
- 柳清:眼窩下壁骨折の内視鏡所見による分類とその対処、耳展:52:205-211,2009
- 吉田 拓人、柳清:フェネストレーション法による眼窩下壁吹き抜け骨折整復術の治療成績, 日耳鼻113:450-455, 2010
図33.視神経管骨折
おでこの外側を強くぶつけることにより眼の奥の骨が折れ、視力障害が出現します。
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症状:
視力障害
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治療:
経過を観察し、症状が改善しなければ手術(視神経管開放術)
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入院期間:
約1週間
発表論文
- 柳 清, 森山 寛. ESSによる視神経管異常への対応. JOHNS 1995; 11 : 1885-1890.
- 柳 清, 視神経管開放術. 耳展53:160-165, 2010
図34.下鼻甲介後端肥大
下鼻甲介の後端が肥大し、そこから分泌物がのどに流れ落ちる病態。この病気はアレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎などの病気がないにもかかわらず後鼻漏が続く場合が多く、当院で最初に学会報告しました。まだ一般概念としては普及していません。鼻の病気がないにもかかわらず後鼻漏が続く方は当院にご相談下さい。
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症状:
後鼻漏、喀痰、咳嗽
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治療:
薬、洗浄、改善しなければ手術(鼻粘膜切除術)
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入院期間:
3-4日間
発表
Hypertrophic posterior edge of the inferior concha -Symptom, Diagnosis, Treatment, Result-. ISIAN 2003.Seoul