聖路加国際病院でのお産
出産は本来、自然の営みの中で起きる現象です。とはいえ、「人の命を産みだす」ことは時に命がけの大変な仕事です。医療の介入なく無事に出産を終えられることが大半ですが、中には「薬剤を使う」「帝王切開をする」「麻酔をする」などの医療の介入を要することが生じてきます。一方で、このような処置をすればそれに伴う合併症や副作用も増えることになります。わたし達は、母子にとって安全なお産にするためには、医療の介入が必要か否か、必要な場合にはどのタイミングでどのような方法で行うのが良いのかを考えながらチームで取り組んでいます。
当院でお引き受けできる妊婦さんは、当院での分娩を予定している方に限ります。この場合、当院での継続した妊婦健診、あるいは提携しているクリニックで妊婦健診を受けていただきます。ご自宅が遠方で里帰り出産をご希望の方は、近隣のクリニックで妊婦健診をお受けいただき、34週ごろからは当院を受診していただくことになります(ただし、この里帰りの場合も初期に受診して分娩予約をしていただくことが必要です)。
なお、妊娠・出産に関しては時間的な要素も大事な因子になるため、遠方からの通院・出産はお勧めしません。
医療機関で妊娠の診断を受けたら妊娠8週以降にご予約ください。実際の診察は、連絡をいただいた日から少し先になります。なお、分娩予約数がいっぱいの場合はお断りすることがございます。早めのご予約をお勧めします。
また、東京都の地域周産期母子医療センターに指定されており、ハイリスク妊婦については病状により適宜お受けしております。今おかかりの医療施設から当院の医療連携室を通してご相談ください。合併症・既往症の内容によっては当院ではお引き受けできないことがあります。外来受診していただいた後にお断りする場合もありますのでご了承ください。
妊娠中の生活
妊婦健診
※ 外来担当医制から、曜日制に変わります。
業務体制の見直しに伴い妊婦健診の診療体制の変更を行います。
2024年1月から、曜日制に変更になります。その曜日に妊婦健診を担当している医師のうち、いずれかが診察を担当させていただきます。医師の指定はできません。
ご理解、ご協力の程よろしくお願い申し上げます。
助産師外来
医師と共同で健診を行いながら、妊娠中の相談や生活指導を行います。産前・産後の体づくりと不安を解消します。
周産期のクラス
当院では次のクラスをご用意しています。
- ・週数に応じた説明を行う「ママクラス」(当院独自の母親学級)
- ・多胎の妊婦さんのための「マルチキッズクラス」
- ・立ち合い出産希望のための「両親学級」
上記クラス以外でも、SNSで必要な情報をタイムリーにお届けしています。
RSウイルスワクチン(妊婦ワクチン外来)
RSウイルス感染症
生後1歳までに50%がかかり、2歳までにほぼ100%が初感染するRSウイルスが原因の感染症です。
症状は、感冒症状、上気道症状、下気道症状など様々な症状が出ます。
成人は軽度で済むことがほとんどですが生後6か月以内では重症化しやすく、その後の気管支喘息との関連も指摘されています。有効な治療薬はなく対処療法が基本です。
RSウイルスワクチン
妊婦さんがRSウイルスワクチンを接種することにより、母体で作られた抗体が胎盤を通して胎児に移行することで、赤ちゃんが重症化しやすい期間の、児の感染予防・重症化予防ができます。
製剤名:アブリスボ(ファイザー製薬)
- 接種時期:妊娠28週から36週
- *製剤は24 週から投与可能ですが効果を考慮して原則28 週以降で接種します
- *妊娠中1回のみ接種
- *接種後14日以内に出生した児には抗体の移行が十分ではない可能性があります
妊婦ワクチン外来
RSウイルスワクチンの接種を希望するかたは「妊婦ワクチン外来」の予約をお取りください
外来診察日:毎週火曜日 11:00-13:50
予約方法 :予約センターに電話いただくか、妊婦健診時にお申し出ください
予約センター 03-5550-7120(受付時間 平日8:30-17:00)
!ご注意ください!
*費用(税込み34,650 円)は自費です
*妊婦健診との同日に接種できません
*接種後30分は院内で待機が必要となります
*妊婦ワクチン外来で接種できるのはRS ウイルスワクチンのみです
RSVワクチン Q&A
RSウイルス感染症(respiratory syncytial virus infection)は、RSウイルスの感染による呼吸器の感染症です。RSウイルスは日本を含め世界中に分布しています。何度も感染と発病を繰り返しますが、生後1歳までに半数以上が、2歳までにほぼ100%の児がRSウイルスに少なくとも1度は感染するとされています。
症状としては、発熱、鼻汁などの軽い風邪様の症状から重い肺炎まで様々です。RSウイルスの初回感染時には、より重症化しやすいといわれています。特に生後6ヶ月以内にRSウイルスに感染した場合には、細気管支炎、肺炎など重症化する場合があります。
通常RSウイルスに感染してから2~8日、典型的には4~6日間の潜伏期間を経て発熱、鼻汁などの症状が数日続きます。多くは軽症で自然軽快しますがが、重くなる場合には、その後咳がひどくなる、喘鳴が出る、呼吸困難となるなどの症状が出現し、場合によっては、細気管支炎、肺炎へと進展していきます。初感染乳幼児の約7割は、鼻汁などの上気道炎症状のみで数日のうちに軽快しますが、約3割では咳が悪化し、喘鳴、呼吸困難などが出現します。重篤な合併症として注意すべきものには、無呼吸発作、急性脳症等があります。生後1か月未満の児がRSウイルスに感染した場合は、非定型的な症状を呈するために診断が困難な場合があり、また突然死に繋がる無呼吸発作を起こすことがあります。
RSウイルス感染症には特効薬はありません。治療は基本的には対症療法(酸素投与、点滴、呼吸管理など症状を和らげる治療)を行います。
日本では、毎年約12万~14万人の2歳未満の乳幼児がRSウイルス感染症と診断され、約4分の1(約3万人)が入院を必要とすると推定されています。RSウイルス感染による乳児の入院は、基礎疾患を持たない場合も多く(基礎疾患のない正期産児等)、また、月齢別の入院発生数は、生後1~2か月時点でピークとなっています。
赤ちゃんの入院には24時間の付き添いを求められることが少なくありません。
赤ちゃんに接種できるワクチンはありません。早産で生まれたり、生まれつきの心臓の病気や免疫が弱い病気を持っていたりするお子さんには、遺伝子組換え技術を用いて作成されたモノクローナル抗体製剤であるパリビズマブ(Palivizumab)をRSウイルス感染症の流行初期に投与し始めて、流行期も引き続き1か月毎に筋肉注射することにより、重篤な下気道炎症状の発症の抑制が期待できます。
赤ちゃんがRSウイルスに感染した場合に特効薬がなく、また感染を予防するワクチンもないために、妊婦さんにワクチンを接種することによって赤ちゃんを守ろうとするものです。妊婦さんに接種することにより母体のRSウイルスに対する中和抗体価を高め、胎盤を通じて母体から胎児へ中和抗体が移行することで、乳児におけるRSウイルスを原因とする下気道疾患を予防します。妊婦さん自身のRSウイルス感染の予防にもなります。
発売前の臨床試験の日本人では、接種後7日間に接種部位の疼痛(7%)・腫脹(6%)・疼痛(38%)認められましたが、発熱・倦怠感・頭痛などは、ワクチン群とプラセボ群と有意な差は認めませんでした。
インフルエンザワクチン、コロナワクチン、百日咳ワクチンなどの不活化ワクチンとは同時接種も可能で、間を空ける必要はありません(ただし聖路加国際病院では、システム上の都合で同時接種はできません)。生ワクチンを接種した場合には間を空ける必要がありますが、妊婦さんに生ワクチンは禁忌なので間隔を気にする必要はありません。ただ、ワクチンによっては倦怠感などが生じることもあるため、数日の間を空ける方が体調的には楽かもしれません。
参考
厚生労働省 RSウイルス感染症Q&A (令和6年5月31日改訂)
日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会 「RSウイルス母子免疫ワクチンに関する考え方」
T Otsuki et al. Vaccine 42 (2024)
胎児超音波外来
お腹の中の赤ちゃんの状態をできるだけ正確に把握するために、ご希望の方にはスクリーニング超音波検査を行います。赤ちゃんが生まれる前、あるいは生まれてすぐの治療を必要とする病気がないかどうかをみることを目的としています。妊婦健診時の一般超音波検査で、より詳しい検査が必要とされた場合にも、受診をお勧めすることがあります。
出生前検査
遺伝診療センターと提携し、カウンセリングを含めたトータルケアを行います。 詳しくはこちら
検査によって、受けられる週数に制限があります。出生前検査をご検討されている方は、早めにご相談ください。
妊娠16週を過ぎると対応が難しくなることがあります。
入院中の生活
当院での分娩管理
当院は産科医療補償制度に加入しています。
自然分娩を基本とし、年間1,500件前後の分娩を行っています。LDR(分娩室)を完備し、陣痛開始から出産そして産後まで同一のお部屋で過ごしていただくので、移動する必要がありません。快適で納得のいくお産をしていただけますよう目指しています。
妊娠分娩中に異常が起きた時にも迅速に対応できるような設備と医療技術を備えています。東京都の地域周産期母子医療センターに指定されており、ハイリスクの方も積極的にお受けし、最新の医療による安全確実なケアに力を入れております。
当院の帝王切開率は30~35%程度です。自然分娩をめざしていても経過によって帝王切開や麻酔が必要になることがあります。分娩が近づいたら、すべての妊婦さんに産科麻酔外来の受診をお願いしています。ご希望の方には硬膜外麻酔による無痛分娩を取り入れております。
病棟のお部屋
2種類のタイプをご用意しております。
全室個室で、トイレ・シャワー付きです。ライフスタイルに合わせ24時間面会可能です。
※ただしご家族の方のご宿泊はご遠慮させていただきます。
入院中のケア
当院は、基本的に産後早期から退院まで、終日母子同室をおこなっています。
全室個室のため、プライバシーが守られた環境で赤ちゃんとの生活に慣れていくことができます。
助産師による母乳育児の指導、赤ちゃんとのゆっくりした時間を過ごすための母子同室、退院前の沐浴指導など、産科医・新生児科医・助産師によるきめ細かなケアを行います。また、自然分娩(経腟分娩)の方は産後2日目に疲労回復のために助産師によるアロママッサージなどのケアも取り入れております。
チャプレン(病院に常駐する牧師)による「誕生の礼拝」を週に2回、病棟で開催しているので、ご希望の方は参加可能です。
退院後の生活
産褥健診
退院から約1ヶ月後にお母さんの産後健診を行います。産後の体調や育児の不安を外来担当医または助産師と相談します。必要に応じて他科との連携もしています。
母乳相談
妊娠・産褥を通じて、母乳育児に関する相談を助産師がお受けし、長期にわたりきめ細かく行っています。断乳・卒乳の相談もお引き受けします。
産褥ショートステイ
身体の疲労が取れない、産後養生の仕方がわからない、母乳で育てたいと思っているけれどうまくいかない、沐浴など赤ちゃんのお世話に不安がある・・・等の悩みに、入院生活の中で医師と助産師が専門的支援を行います。 詳しくはこちら
乳幼児健診
当院でご出生されたお子さんは、Well Baby Clinic(ウェルベビークリニック)にて3歳まで継続的な健診を行います。詳しくは小児科HPをご覧ください。 詳しくはこちら
よくあるご質問
初診について
紹介状をお持ちの場合でも約1ヶ月程度お待たせしてしまっております。前回の健診から4週間以上空いてしまう場合には、現在おかかりのところで再度の健診を受けてください。初診時には、必ず紹介状をご持参ください。
分娩予約数がいっぱいの場合はお断りすることがございます。また、当院での妊婦健診は当院で出産する方を対象にしています。妊娠や分娩の管理には病院からの距離も大事ですので,分娩予約数に余裕がある場合でも、遠方からの通院はお断りすることがあります。
2024年1月より曜日ごとのチームが担当する「曜日制」に変更となります。診察を担当する医師は指定できません。また、分娩時や緊急時、予約外での受診時などは、外来で担当しているチーム以外の産婦人科医師が担当することがあります。
2024年1月より「担当医制」から「曜日制」への変更に伴い、妊婦健診において診察を担当する医師の指定が原則お受けできません。合併症がある場合など、一部の患者さんに関してはその限りではありませんので診察時に医師にご相談ください。
2024年1月より「担当医制」から「曜日制」への変更に伴い、女性医師の指定はできません。
分娩予定日が確定したら、妊娠8週以降に予約センターにご連絡ください。また、妊娠14週までに初診を受けられるように予約をお取りください。ただし、分娩予約数がいっぱいの場合はお断りすることがございます。
原則妊娠14週までは転院可能です。妊娠14週以降でも特別な事情で当院へ転院を希望する場合は医療連携室にご相談ください。
当院は、東京都の地域周産期母子医療センターとして認定され、妊娠中の合併症やハイリスク妊娠に対しても安全かつ迅速な対応を目指しております。内科的疾患や悪性腫瘍の合併の場合なども可能な限りお受けしております。ご不明な点は医療連携室にご相談ください。
遺伝カウンセリングを受けていただいた上で検査を受けるかどうかを決めていただきます。検査によっては、当院での分娩予定の方しか受けられないものもあります。検査を受けたい、あるいはどのような内容か知りたいという方はご自身で遺伝診療センターの予約をお取りください。
残念ながら待ち時間が生じる場面が多くなっております。その日の診療内容によって、待ち時間は異なりますので、お待ちいただく時間をお知らせするなどしながら待ち時間短縮に努めております。お待たせしており申し訳ございません。
入院について
ご自身の端末でご使用いただけます。病室内にWifi設定のご案内を用意しておりますのでご利用ください。
パートナーの方のみが入室できます。帝王切開の場合はどなたの立ち合いも出来ません。感染対策のため、変更となる可能性がございます。最新の情報に関してはこちらの「面会時のお願い」をご参照ください。
妊産婦さんのお食事は母乳のことも考慮した特別和食をご用意しております。
特別な事情がない限り、泊まることはできません。
ご希望される方には無痛分娩が可能です。無痛分娩のための計画分娩は行っておらず、麻酔科医が24時間体制で対応します。
ただし、妊婦さんや赤ちゃんの状態によって医師が必要と判断した場合に計画無痛分娩を行うことがあります。また、ほかの緊急手術などへの対応のため麻酔科スタッフがすぐに対応できず、お待たせする場合がまれにあります。
無痛分娩をご希望・ご検討の方はこちらの資料(無痛分娩 - 聖路加国際病院の分娩時の鎮痛について-)もご参照ください。
もちろん、ご希望があれば母乳育児へのサポートをいたします。お母さんと赤ちゃんにとってより良いケアを目指して、お二人の状態や希望に応じて母乳やミルク(人工乳)を選んでいます。
退院後も母乳外来で助産師がフォローしております。
病院を退院した後に、聖路加助産院 マタニティケアホームでのショートステイ(産後ケア)を行っております。お住まいの地域によっては補助金が出るところもあります。詳しくはお住いの市区町村にお尋ねください。
95万円~120万円程度となります。無痛分娩をご希望の方は、別途18万円をいただいております。
処置内容や時間帯によって費用が変わるからです。