聖路加国際病院

St Luke's International Hospital

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女性のヘルニア

受診方法

女性の鼠径部のヘルニアはなぜ起きるのですか?

ヘルニアとは臓器などが本来あるべき位置から脱出または突出した状態を意味します。
腹部のヘルニアの発症を防いでいるのは胴体の筋肉の裏についている筋膜・腱膜の働きです。
その筋膜・腱膜の代謝に異常が起こることによって筋肉・腱膜が弱くなり、弱くなった部分がヘルニアになります。
鼠経ヘルニア手術をうける生涯リスクは男性で27.2%、女性で2.6%といわれています。
女性の鼠径ヘルニアは男性と比べて少ないものの本邦では年間でおよそ2万人の女性が鼠径ヘルニア手術を受けています。
また鼠径ヘルニアと似たような症状を呈する大腿ヘルニアは逆に男性よりも女性に多く、さらに緊急手術になる事が多いため早めの治療が勧められます。

女性の鼠径部ヘルニアの特徴

女性の鼠径部ヘルニアの特徴は、男性と比べて鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアの2つが同時に起きやすいこと、大腿ヘルニアが多いこと、緊急手術になりやすいこと、ヘルニアと似たような症状を示す以下の病態があることが特徴です。病態によって治療方法はことなります。

ヌック管嚢腫・ヌック管水腫(Nuck's Cyst)

若年女性に比較的多く見られるヘルニア類似疾患にヌック管嚢腫があります。胎生期の体が出来上がる過程で鼠径管内に入り込んだヌック管の内部に液体が貯留した状態です。通常は鼠径部~外陰部にしこりとして触れ、おさえても体の中に入らないことが多いです。ヌック管嚢腫の約半数に子宮内膜症を伴っていることが知られています。中には痛みを伴ったり、非常に稀ですが悪性化することがあります。

外性子宮内膜症

鼠径ヘルニアの中や子宮を支える靭帯にそって発生するものとヌック管嚢腫内に発生するものなどがあります。鼠径ヘルニアやヌック管嚢胞の症状に加えて、生理周期に一致して痛みを伴ったりすることも有ります。

子宮円靭帯静脈瘤(子宮円索静脈瘤)

子宮円靭帯(子宮円索とも呼ばれます)は子宮と大陰唇の結合組織にいたる靭帯です。妊娠に伴い鼠径ヘルニアと同じように鼠径部が膨らむ症状を呈します。ときに内部の血液が固まると痛みを伴う事があります。通常は出産後に自然軽快することが多く、手術による治療はまれです。

妊娠による膨隆

妊娠中に発生する鼠径ヘルニアの頻度は2000例に1例程度です。妊娠中期~後期では子宮の増大でヘルニア門が覆われるため、嵌頓(かんとん)ヘルニアなど緊急の状態になることはまれです。お腹が大きくなることにより鼠径部ヘルニアとは別に臍ヘルニアになったり、腹直筋の間が離れて下腹部がでっぱる腹直筋離開(ふくちょくきんりかい)になる方もいます。

自然に治ったりすることはありますか?

成人のヘルニアは自然に治ることはありません。
手術以外に治す方法はありません。

治療しないでいるとどうなりますか?

成人女性のヘルニアで手術をせずに様子を見た研究はこれまで報告されていません。このため治療しないでいるとどうなるかは実はよくわかっていません。
しかし男性と比べ女性は緊急手術になりやすいことがわかっています。
鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアの存在を手術前に完全に診断することは時に難しく、男性と比べ女性では緊急手術になりやすい大腿ヘルニアの頻度が多いことから、女性の鼠径部ヘルニアは原則手術をおすすめしています。

どのような治療方法がありますか?

女性の鼠径部ヘルニアでは、男性と比べて鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアの2つが同時に起きやすいことから、その両者を治す治療がすすめられます。

【1.自身の組織を利用して治療する方法】

自分自身の組織を利用し、弱くなった部分を縫いよせる治療方法です。
利点は自分自身の組織を使用するために人工膜(メッシュ)と比較して感染に強いことです。
欠点は弱くなった周辺の組織を利用するために、再発が多く、手術後の痛みが強く長く続くことです。
現在はきわめて特殊な状況でのみ行われており、古典的な方法です。

【2.人工物(メッシュ)を利用して治療する方法】

人体に埋め込んでも問題がないとされている素材で作られた人工膜(メッシュ)を使い、弱くなった部分を補強する治療方法です。
利点は再発が少ないことと、手術直後の痛みが軽いことです。
欠点は自身の組織を利用する方法と比べて感染に弱いことや、術後長期にわたって痛みが続く場合がまれにあることです。
現在は人工膜(メッシュ)を用いた治療方法が主流で、ほぼ全例でこの方法で行われています。
人工膜(メッシュ)を用いた治療方法には、大きく分けて鼠径部切開と腹腔鏡の2種類の方法があります。

ヘルニアの膨らみの上を切開し治療する鼠径部切開法

切開部位から人工膜(メッシュ)を使って直します。
ヘルニアを体の外側から治す方法です

ヘルニアから離れたところを切開し治療する腹腔鏡法

おなかを3か所切開し特殊な器械を使用して治療します

特殊な器械を経由して人工膜(メッシュ)を使って直します

ヘルニアを体の内側から治す方法です

ヘルニアから離れたところを切開し手術支援ロボットを用いて治療するロボット支援法

おなかを3か所切開し特殊な医療用ロボットの支援をうけて治療します

患者さんと執刀医の間に手術支援ロボット(ダビンチ、da Vinci)を介在させて手術します

腹腔鏡では特に技術力が必要とされる縫合が容易になります

より細かい操作をロボットが支援し繊細な操作が可能となります

ロボット支援下鼠径部ヘルニア修復術についてはこちら

ロボット支援下鼠径部ヘルニア修復術は、聖路加国際病院 臨床倫理委員会(承認番号18-011)、高難度新規医療技術部(承認番号18-007)の承認を得て実施しています。

どちらの治療方法がおすすめですか?

どちらの手術がよいかは患者さんの健康状態やこれまで受けてきた他の病気などの状況によって異なります。
ヘルニア治療のスペシャリストが個々の患者さんの状況に応じて適切な治療方法を提示します。

一般的な治療方法は日本ヘルニア学会 鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2015の75ページの「成人ー特定な患者への治療ー女性(妊娠中を含む)」をご覧ください。

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