聖路加国際病院

St Luke's International Hospital

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鼠経ヘルニア

受診方法

成人の鼠経ヘルニアはなぜ起きるのですか?

ヘルニアとは臓器などが本来あるべき位置から脱出または突出した状態を意味します。
腹部ヘルニアの発症を防いでいるのは胴体の筋肉の裏についている筋膜・腱膜の働きです。
その筋膜・腱膜の代謝に異常が起こることによって筋肉・腱膜が弱くなり、弱くなった部分が原因でヘルニアになります。
代謝異常の原因はまだよくわかっていませんが、加齢とともに増えます。
また代謝異常は体の左右対称に起こるので、鼠径ヘルニアが両側に起こったり、片側だったヘルニアがしばらくたってから反対側にも出ることがあります。
鼠経ヘルニア手術をうける生涯リスクは男性で27.2%、女性で2.6%といわれています。

自然に治ったりすることはありますか?

成人の鼠経ヘルニアは自然に治ることはありません。
手術以外に治す方法はありません。

治療しないでいるとどうなりますか?

ヘルニアのふくらみは、多くの場合、おなかの力を抜いたりすることで自然に元にもどります。立ったりおなかに力を入れるとふくらみます。
でっぱったまま元にもどらなくなることもあり、その状態を嵌頓(かんとん)と呼びます。嵌頓は危険な状態で、通常緊急手術が必要です。腸管の血流障害や壊死を伴った場合、命に係わることがあります。
緊急手術になった場合には予定手術の10倍の合併症リスクとなるばかりでなく、予定手術と同様の手術が実施できないことがあります。

男性の場合

手術を受けないと決めたあとおよそ10年のあいだに約7割の患者さんが以下の様な様々な理由で手術を受けるといわれています。

  • 痛みを伴うようになった
  • でっぱる大きさが大きくなった
  • 生活に影響するようになった
  • 手術を受けたくなった
  • 緊急手術が必要になった

緊急手術を受ける割合はおよそ2~5%といわれています。

女性の場合

未治療で長期間経過を観察した報告がないため治療しないでいるとどうなるかについてはよくわかっていません。ただ緊急手術が必要になることが男性に比べて多いことはわかっており、原則的には手術をお勧めしています。

どのような治療方法がありますか?

代謝異常はヘルニアの手術後も起こり続けるので、昔の手術で行われていたようにまわりの部分を縫いよせて修復しても、術後しばらくすると縫いよせた組織が弱くなります。このため人工膜(メッシュ)を用いた修復が必要になります。

【1.自身の組織を利用して治療する方法】

自分自身の組織を利用し、弱くなった部分を縫いよせる治療方法です。
利点は自分自身の組織を使用するために人工膜(メッシュ)と比較して感染に強いことです。
欠点は弱くなった周辺の組織を利用するために、再発が多く、手術後の痛みが強く長く続くことです。
現在はきわめて特殊な状況でのみ行われており、古典的な方法です。

【2.人工物(メッシュ)を利用して治療する方法】

人体に埋め込んでも問題がないとされている素材で作られた人工膜(メッシュ)を使い、弱くなった部分を補強する治療方法です。
利点は再発が少ないことと、手術直後の痛みが軽いことです。
欠点は自身の組織を利用する方法と比べて感染に弱いことや、術後長期にわたって痛みが続く場合がまれにあることです。
現在は人工膜(メッシュ)を用いた治療方法が主流で、ほぼ全例でこの方法で行われています。
人工膜(メッシュ)を用いた治療方法には、大きく分けて鼠径部切開と腹腔鏡とロボット支援の3種類の方法があります。

ヘルニアの膨らみの上を切開し治療する鼠径部切開法

切開部位から人工膜(メッシュ)を使って直します。
ヘルニアを体の外側から治す方法です

ヘルニアから離れたところを切開し治療する腹腔鏡法

おなかを3か所切開し特殊な器械を使用して治療します

特殊な器械を経由して人工膜(メッシュ)を使って直します

ヘルニアを体の内側から治す方法です

ヘルニアから離れたところを切開し手術支援ロボットを用いて治療するロボット支援法

おなかを3か所切開し特殊な医療用ロボットの支援をうけて治療します

患者さんと執刀医の間に手術支援ロボット(ダビンチ、da Vinci)を介在させて手術します

腹腔鏡では特に技術力が必要とされる縫合が容易になります

より細かい操作をロボットが支援し繊細な操作が可能となります

ロボット支援下鼠径部ヘルニア修復術についてはこちら

ロボット支援下鼠径部ヘルニア修復術は、聖路加国際病院 臨床倫理委員会(承認番号18-011)、高難度新規医療技術部(承認番号18-007)の承認を得て実施しています。

どの治療方法がおすすめですか?

どの手術がよいかは患者さんの健康状態やこれまで受けてきた他の病気などの状況によって異なります。
ヘルニア治療のスペシャリストが個々の患者さんの状況に応じて適切な治療方法を提示します。

一般的な治療方法は日本ヘルニア学会 鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2015をご覧ください。

診療実績

鼠径部切開法、腹腔鏡法、ロボット支援法のいずれも行っています。
2011年から2021年までに2542病変の手術を実施し、術後鼠径ヘルニア再発は3例(0.11%)です。
2013年からは腹腔鏡を用いた手術も行っており、2021年までに1397病変の手術を実施し術後鼠径ヘルニア再発は0例、術後腸閉塞1例(0.07%)、精管損傷2例(0.14%)、膀胱損傷1例(0.07%)です。

部位 手術方法 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年
鼠径 切開法 103 71 48 63 45 27
腹腔鏡 161 236 246 206 165 155
ロボット 2 27 41 30
併用 3 1 2 2 7 4

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