聖路加国際病院

St Luke's International Hospital

整形外科

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関節軟骨損傷の診断と治療

関節軟骨は、関節の相対する骨端の表面にある厚さ2~4 mmの組織(硝子軟骨)です。豊富な細胞外基質(軟骨基質)と軟骨細胞(<5%)から構成されており、血管、神経、リンパ管に乏しいという組織学的特徴があります。成人の関節軟骨は、表層、中間層、深層、石灰化層の4層構造を形成し、最深層の石灰化層の下には軟骨下骨と呼ばれる骨組織があり骨と連続しています。関節軟骨は荷重時の応力や運動時の剪断力を吸収するという重要な役割を担う組織ですが、血行に乏しいため一度損傷すると硝子軟骨により自然再生せず、その後の経過により損傷が拡大すると変形性関節症へと進行していきます。

関節鏡でみた膝関節軟骨の所見

(A)健常軟骨:白く光沢のある軟骨
(B)軟骨損傷:軟骨組織が欠損し軟骨下骨が露出している
(C)変形性関節症:大腿骨・脛骨とも軟骨が広範囲にわたって欠損している

症状

関節軟骨損傷は、関節内骨折や脱臼、靭帯損傷などの外傷やスポーツ活動での過度な負荷により生じることがあります。また成長期には離断性骨軟骨炎という軟骨が剥がれてしまう障害により発生することもあります。関節軟骨損傷では、部位、大きさ、剥離(損傷)の程度、遊離軟骨片の有無などにより症状の程度や現れ方も様々です。

  • 軟骨の剥離が進み損傷が拡大してくると痛みを生じます。
  • 損傷の部位や剥離の程度により関節の曲げ伸ばしでひっかかり感や関節がずれるような感覚を生じることがあります。
  • 剥がれた軟骨片(関節ねずみ)が関節に挟まるといわゆる「ロッキング」という現象を生じ、曲げ伸ばしが急にできなくなることがあります。
  • 関節に水が溜まることもあります(関節水腫)。
  • 小さな損傷では、安静時には症状がなく、動作時の軽い痛みや違和感程度のこともあり、時間とともに症状が消失することもあります。

診断

膝関節軟骨損傷のMRI画像

関節軟骨損傷では自覚症状が様々であり、医師の診察時に所見(症状)がなかったり、半月板損傷と似た所見を示すこともあるため、MRI(エム・アール・アイ:核磁気共鳴画像)などの画像検査や関節鏡検査で診断します。
MRIは軟骨損傷の形態および質的評価に有用で、損傷部位や大きさ、損傷部の骨髄変化(浮腫性、嚢腫、変形など)をとらえることができます。高精度MRIにより多くの軟骨損傷が診断できるようになりましたが、関節軟骨の厚さは薄いため、小さな関節では診断が難しく、さらには小さな軟骨損傷や部分損傷(関節軟骨層の部分欠損)ではMRIで診断できないこともあります。

軟骨損傷の関節鏡画像

治療

保存治療

体重があまりかからない部位の小さな軟骨損傷や症状が軽い場合には、局所の安静、装具療法、ヒアルロン酸の関節内注射などの保存治療を行います。成長期の離断性骨軟骨炎では、関節水腫や機械的症状がなく、画像検査で安定型の場合は、初期治療として保存治療を選択します。

手術治療

手術適応は症状と損傷の程度で決定します。外傷などで大きく剥がれた軟骨や骨軟骨片は急性期であれば吸収ピンや骨釘で再接着できることもありますが、多くの場合は、以下のような再生・再建手技を行います。手術をしても良くならない場合も少なくないため、手術適応と手術方法の選択は慎重に決定します。

(1)関節鏡下骨髄刺激法(マイクロフラクチャー法)

軟骨損傷部の母床の軟骨下骨に小さな孔をあけることで損傷部に血液と骨髄液の流出を促し、骨髄に含まれる間葉系幹細胞を誘導して損傷部を修復させる治療法です。比較的小さな軟骨損傷(<2 cm2)が良い適応とされています。

  • 手術は、関節鏡(内視鏡)を用いて行います。
  • 関節鏡(内視鏡)と手術器械を入れるための2~3ヶの小さな切開(0.5~1cm)のみで手術を行います。
  • 損傷部(欠損部分)の遊離軟骨を切除し、アイスピックのような専用の器具(microfracture awl)で小さな孔を複数(3-4ヶ/cm2)開け、骨髄から未分化の間葉系細胞を欠損部に誘導し自己修復を促します。
  • 手術に要する時間は対象部位により異なりますが30分~1時間です。
(2)自家骨軟骨柱移植術(モザイクプラスティ術)

機能障害を生じにくい非荷重部から専用の器具を用いて正常軟骨と軟骨下骨を一塊にして円柱状に採取し、軟骨損傷部に移植する治療法です。様々な部位や大きさに適用できますが、軟骨損傷の大きさに合わせ正常軟骨も採取するという採取部位の問題もあり損傷が4cm2未満の場合に適応となります。

  • 手術は、関節鏡(内視鏡)あるいは小切開で行います。小さな損傷では関節鏡のみで手術を行うこともできますが、大きな損傷や部位によっては、3~5cmの切開が必要となります。
  • 関節鏡(内視鏡)と手術器械を入れるための2~3ヶの小さな切開(0.5~1cm)から、軟骨損傷個所を確認し、移植に必要な骨軟骨柱のサイズと数を決定します。
  • 専用の器具で関節内の機能障害を起こしにくい部位より正常な骨軟骨を採取し、損傷部に移植します。
  • 手術に要する時間は1~1.5時間です。
(3)自家培養軟骨移植術

少量の正常軟骨を採取し、軟骨細胞を体外で培養して軟骨組織を作成し、2回目の手術で損傷部に移植する治療法です。膝関節における外傷性軟骨欠損症または離断性骨軟骨炎が対象で、かつ軟骨欠損面積が4cm2以上の場合に手術適応となります。

  • 自家培養軟骨移植術では、軟骨採取(1回目)と培養軟骨移植術(2回目)の2回の手術が必要です。
  • 軟骨採取は関節鏡(内視鏡)で行います。大腿骨内顆・外顆非荷重部の機能障害を生じない部位より少量の正常軟骨組織(0.4g~)を採取します。
  • 採取した軟骨細胞を専用施設で培養し軟骨組織を作成します(約4週間)。
  • 培養軟骨移植では、軟骨損傷部近傍に約5~10㎝の切開を加え、損傷部に培養軟骨を移植し自家骨膜で覆います。
  • 軟骨採取(1回目の手術)に要する時間は30分程度、培養軟骨移植術(2回目の手術)に要する時間は1~2時間です。
(4)高位脛骨骨切り術

脛骨近位部の傾斜を変化させ大腿骨と脛骨の軸を変えることで膝関節の障害部分(損傷部)への負担を軽減する治療法です。膝関節の広範囲の軟骨欠損や損傷部の相対する軟骨にも損傷がある場合、アライメント(骨の並び具合)異常などにより治療後も損傷部に過度な負荷がかかることが予想される場合に行います。軟骨再生・再建法と併用して行うこともあります。

  • 手術においては、まず関節鏡(内視鏡)を用いて関節内を評価します。膝前面に2~3ヶの小さな切開(0.5~1cm)を加え、膝関節内を十分に観察しながら損傷した軟骨と半月板の処置をします。
  • 次いで、膝前内側に約7cm切開したうえで、手術前の計画に沿って特殊器械を用いて骨切りを行い、金属製プレートにて固定します。骨切りの矯正角度、固定具によっては骨移植を要することがあります。
  • 手術に要する時間は1~2時間です。
(5)その他

関節軟骨の障害に対する治療は国内外において重要な医学的課題と捉えられており、保存治療から手術治療まで様々な治療法が研究されています。特に再生医療は注目を浴びており、上記(3)自家培養軟骨移植術に代表される組織工学的術を応用した軟骨再生治療の研究も進んでいます。国内でも幾つもの新たな技術が開発され臨床治験(ヒトにおける有効性や安全性を調べるために行う試験)も行われています(当院も治験参加施設です)。

術後のリハビリテーション

軟骨再生・再建手術後のリハビリテーションは、軟骨損傷の部位と大きさ、選択した手術の種類により大きく異なります。そのため、リハビリテーションのメニューは個別に評価し決定する必要があります。

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