聖路加国際病院

St Luke's International Hospital

整形外科

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肩関節疾患に対する専門的治療

スポーツ障害、外傷と肩関節鏡手術

肩関節は腰、膝に続く愁訴の多い関節です。当科では2006年より肩関節疾患に対して関節鏡手術を開始し、肩関節疾患への最先端の診療を提供すべく積極的に取り組んでおります。

肩関節とスポーツ障害、外傷


写真1 関節鏡手術後2週目 創部

肩関節は人体で最も可動範囲が大きい、複雑な機能を司る関節である反面、多くの筋肉や靭帯、複雑な骨形態によって支持されている関節でもあります。肩関節鏡手術は正常な組織への損傷を最小限にしながら病変に対して直接的に手術をする事が可能であることから、正確な病変の手術修復により早期の回復が期待できます。 この様な診療は診断と手術手技の十分な習熟が必要であり、当院では都内でもいち早く肩関節鏡視下手術を導入して、成果を上げております。

反復性肩関節脱臼の診断と治療

肩関節と鏡視下手術


図2 単純 X線像 左肩脱臼

腕を後方に強く捻られたり、肩を横から強くぶつけるといったスポーツ外傷により上腕骨頭が関節から前方に脱臼(外れる)や亜脱臼(外れかけて自分で戻る)を生じた病態です。完全に脱臼すれば上腕骨頭が関節内に戻るには病院で医師により整復する必要がありますが、自然に関節内に自然に整復される場合や痛みだけの場合もあります。安定化させる関節包靭帯や関節唇といった構造が損傷することが原因であり、さらに関節周縁に骨折が生じてさらに強い痛みが生じることもあります。その後脱臼しやすくなり、脱臼を繰り返す可能性があります。

診断


図3 左肩MRI 矢印部分で関節包靭帯が断裂している

完全に外れる脱臼では、病院で整復をした後に2、3週間は強い痛みが残存します。自分で脱臼が整復される亜脱臼も1週間程度は痛みが続きます。脱臼時はX線診断で確認します。しかし亜脱臼の場合はすでに脱臼は整復されているため、問診や身体所見で診断します。肩関節の脱臼を誘発するような肢位を取ると脱臼しかかる(脱臼不安感)症状が誘発される所見が診断の手がかりになります。病態としては、肩関節前方にある関節包靭帯の損傷が起こるため、通常の日常動作でも脱臼を生じ安くなる、反復性脱臼に移行する可能性が高いです。MRIで関節包靭帯の損傷や上腕骨の陥没骨折(Hill Sachs病変)を認めたり、CT検査で関節辺縁の裂離骨折(関節包靭帯付着部)を認めることで明確な診断に至ります。

治療

以前から言われている筋力トレーニングやリハビリによる症状改善効果は実際には乏しく、損傷した関節包靭帯を修復しなければ根治は得られません。10歳、20歳代で受傷された患者さんは再脱臼率が80%程度とかなり高く、脱臼を繰り返すことにより他の正常組織まで損傷を受ける可能性が高くなります。

関節鏡手術

同じスポーツ外傷であっても、ラグビーやアメリカンフットボール、ラクロス、アイスホッケー、格闘技のアスリートは、上肢の巧緻性と酷使に耐えうる関節の再構築が必要です。また、野球、テニス、バトミントン、バレーボール、水泳といったオーバーヘッドスポーツは肩関節のしなやかな機能を残存させながら適切に構造を修復する必要があります。サッカー、バスケットボールも激しい衝突を繰り返すため、競技パフォーマンス向上のために肩関節外傷は適切に治療する必要があります。全ての競技において、十分な経験を得ているスポーツ外傷専門施設での適切なアセスメントは競技者にとって有益と考えます。
 手術方法は関節鏡視手術下に行われます(Bankart修復術)。3か所の穿刺孔を用いて行われ、専用の器具、人工骨と糸の複合体(スーチャーアンカー)を用いて破綻した靭帯や関節包を修復します。て1時間前後の手術時間で、翌日には退院可能です。当院での根治率は95%以上です。

 


図4 Bankart修復術

1) 関節包靭帯に特殊な鉗子で針を通します。

2) 通した青いナイロン糸を用いて、関節面辺縁に打ち込んだスーチャーアンカーの糸(紫色)を関節包靭帯に通します。

3) 糸を縫合することにより、断裂した関節包靭帯は関節面に修復され、上腕骨頭は前方へ脱臼しなくなります。

4) 術後


図5Bankart Bristow法 術後X線像

ラグビーやアメリカンフットボール、格闘技など、治療後も非常に強い負荷が肩関節にかかる競技をしている方は、関節鏡下のBankart修復術(靭帯の修復術のみ)では一般に再脱臼率は30%と高いため、安心して競技復帰してもらうために当院では関節鏡下Bankart修復術に加えて烏口突起を関節前面に移行する手術(Bristow法)を行っています。この関節鏡下Bankart修復術Bristow手術併用法の手術時間は2-2.5時間程度であり、再脱臼率は極めて低下します。
この手術を正確、安全に行うには手術手技の習熟が必要ですが、当院では2008年より行い現在まで全てのアスリートが元の競技に復帰できています。国内有数の症例数を経て国内外に良好な成績を報告しています。


図6 Bankat Bristow法 術後CT画像


図7 鏡視補助下Bristow法  矢印が移行した烏口突起骨片

2015年からはBristow法もさらに低侵襲かつ正確に行うため、内視鏡補助下に用いて行います。


図8 関節唇ガングリオン
左MRI画像(貯留したガングリオンは白く見える;白矢印)
右関節鏡所見 損傷した関節唇(黒矢印)の間には手術器具が容易に入り込む。

また、オーバーヘッドスポーツ選手は、関節面の縁を形成する関節唇の損傷が生じやすく、そこにガングリオンという粘液の貯留が生じることがあります。疼痛や筋力低下を引き起こすことがあり、関節鏡手術により軽快が得られます。

手術に伴う危険、合併症と予防策

手術は常に合併症という避けられない出来事が生じ得ます。100%の回避は困難であるため、できる限りの予防や注意を払って治療を行い、生じた場合はできるだけ早く診断して治療に取りかかることが必要です。予期できない合併症が生じることがあるため全ての合併症を説明することはできませんが、主な症状は以下の通りです。

感染:手術はたとえ関節鏡を用いても、とはいえ手術後感染が生じる場合があります。手術前後には予防的抗菌薬を用い、術後1週間はできる限り自宅安静として発汗や体力の喪失を避けるよう指導しています。しかし術後1週間程度から明確となる創部の発赤や疼痛の再燃、発熱が生じれば感染に対する抗菌薬治療、創部洗浄手術が治療のため必要になります。
神経損傷:手術中の操作により神経を牽引することでしびれや筋力低下が生じることがあります。ほとんどの場合一時的でありますが、慎重に経過を診て参ります。

術後出血:手術中の出血により創部の腫脹が強く、疼痛も強く感じることがあります。安静期間をより長くとってもらい、二次的な感染が生じないよう慎重に拝見します。

静脈血栓症:比較的稀ですが、肩周囲を通過する大きな静脈のつまりにより腕から手への腫脹や疼痛が生じる可能性があります

術後のリハビリテーション

術後は適切な安静期間による修復部位の治癒と、それに続く関節機能の改善を目的としたリハビリテーションがスポーツ復帰に大切です。術後約3週間は装具を用いて肩をできるだけ安静に保ち、創部や修復部の治癒を待ちます。
  約3週間の安静期間の後に、術後2、3ヶ月は慎重に関節可動域訓練を行い、柔軟性の再獲得を図ります。3ヶ月を経過して関節可動域が回復したら筋力トレーニングや競技特性に応じた運動機能改善を図ります。手術後4−6ヶ月で競技に戻ることが目標になりますが、その時期は手術の経過に応じて決定していきます。
   医師の診断は2−4週間に1回の頻度です。リハビリテーションは週1回程度の通院で良いと考えますが、経過によっては2,3回行ってもらうこともあります。当院でもリハビリテーションを行えますが、遠方の方はお近くのリハビリテーション専門施設に紹介差し上げることもあります。

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