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メディカルレチナ外来(黄斑外来)
主に加齢黄斑変性、糖尿病黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症、近視性脈絡膜新生血管などの各種網膜疾患に対し、薬物療法の抗血管内皮増殖因子療法(抗VEGF療法=抗VEGF製剤の硝子体内注射:下記参照)を中心にレーザー治療などを組み合わせて治療を行っています。抗VEGF療法が日本に導入されたのは2008年であり、当初よりこの治療に携わってきた経験豊富な医師が担当します。
いずれの疾患も視力低下や歪視(線が波打って見える)、中心が見づらい、中心がグレイから黒っぽく見える、などの症状をきたします。早期発見・早期治療が特に重要です。
眼底の構造と機能
目はカメラに例えられ光はレンズに当たる角膜や水晶体を通過しフィルムに当たる網膜に投影されます。網膜の中心は黄斑と呼ばれ、視力を決める重要な部分です。したがって、黄斑は小さな部分ですが、黄斑が障害されると、視力に直結し視力が著しく低下します。網膜の下には網膜色素上皮という一層の細胞があり、その下に脈絡膜という血管に富んだ組織があります(下図)。網膜が健全に働いてよい視機能を保つには網膜の下にある網膜色素上皮や、さらにその下にある脈絡膜が健全である事が重要です。
バイエル社提供 https://www.eylea.jp/static/pdf/support/download/wamd2_EYL161023.pdf
代表的な対象疾患
1. 加齢黄斑変性 (age-related macular degeneration; AMD)
1-1. 加齢黄斑変性とは
加齢黄斑変性の、特に滲出型では血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)というタンパク質が過剰に産生される事により、網膜の下の層の脈絡膜から、異常な血管(脈絡膜新生血管)が発生します。下の模式図はその状態を示します(下図)。
ノバルティスファーマ社提供 https://quick-watch.jp/minerva/opt_library/index.html
この異常な血管は、正常な血管(左下図)と異なり構造的にもろい血管なので、血液成分が漏出し網膜の下に液体が溜まったり、血管が破れて出血を起こしたりして、黄斑部の網膜が障害される結果、視力が低下してしまいます(右下図)。放っておくと黄斑部の網膜のダメージが恒久的になり、失明する可能性があります。早期に発見して早期に治療することが重要です。
下のカラー写真は眼底写真、その下の白黒画像は網膜の中心すなわち黄斑の断面図である光干渉断層計(optical coherence tomography; OCT)の画像です。
バイエル社提供 https://www.eylea.jp/static/pdf/support/download/wamd2_EYL161023.pdf
1-2. 加齢黄斑変性の治療
加齢黄斑変性の治療にはいくつかの方法があります。治療の目的は脈絡膜新生血管の拡大を抑え退縮を促すことと、新生血管からの血液成分が漏れる滲出性変化(出血を含む)を抑えることです。視力を維持あるいは改善することが目標です。
1-2-1. 加齢黄斑変性に対する薬物治療 (抗VEGF療法)
加齢黄斑変性の原因物質である血管内皮増殖因子(VEGF)を阻害することにより脈絡膜新生血管の増殖や滲出性変化を抑制するための治療法です(下図)。治療のスケジュールは病状により異なります。効き目が出て病状が安定するまで継続して通院する必要があります。治療効果には個人差があり、OCT画像などを用いて病状を確認しながら投与スケジュールを決めます。
【抗VEGF療法 (硝子体内注射) のイメージ図】
注射により、図の中に赤く示した新生血管の増殖や、オレンジ色に示した滲出性変化を抑制します。青で示した部分が、視機能に重要な黄斑部(その中心を中心窩といいます)の網膜です。左が治療前、右が治療後のイメージ図です。
ノバルティスファーマ社提供 https://quick-watch.jp/minerva/opt_library/index.html
抗VEGF療法 (硝子体内注射)前のOCT画像です(下図)。
加齢黄斑変性のために、網膜の中心である黄斑の下に滲出性変化があります。
抗VEGF療法(硝子体内注射)後のOCT画像です(下図)。
黄斑の下に滲出性変化がほぼ消失しました。
1-2-2. 加齢黄斑変性に対する光線力学的療法 (photodynamic therapy:PDT, 下図)
ビスダインという新生血管に集まりやすい光感受性物質を静脈内投与し、薬剤を新生血管に取り込ませ、一定時間後に弱いレーザーを照射することで、新生血管を退縮させる治療です。注射する薬はそのままでは作用しませんが、レーザーが当たるとその部分で選択的に効果を発揮します。
治療前に造影検査を行い、脈絡膜新生血管をはじめとする病変を確認して、病変の大きさに合わせてレーザー照射の範囲を決定します。治療後48時間以内に強い光に当たると光過敏症などの合併症が起こることがあるので注意が必要です。2004年に日本での治療が開始されました。 治療はPDT研究会が定めた資格を満たす認定医に限られており、当院にはその認定医が4人おります。
抗VEGF療法と組み合わせて治療を行うこともあります。
【光線力学的療法(PDT) のイメージ図】
緑で示したところが、点滴で全身投与した薬剤が集積した新生血管で、弱いレーザーを当てた後にその部分の薬が活性化したため(左図)、赤で示した新生血管が退縮したところ(右図)を示したイメージ図です。
ノバルティスファーマ社提供 https://quick-watch.jp/minerva/opt_library/index.html
光線力学的療法(PDT)前のOCT画像です(下図)。
加齢黄斑変性のために、網膜の中心である黄斑の下に滲出性変化(滲出液)があります。
PDTによる治療後のOCT画像(下図)です。
滲出性変化が消失しました。
2. 網膜静脈閉塞症
2-1. 網膜静脈閉塞症とは
網膜の静脈がつまってせき止められた血液が出血となり、網膜の中心である黄斑部に滲出液が貯留すると黄斑浮腫をきたします。黄斑浮腫が長期間続くと黄斑の神経細胞の機能が低下し、恒久的に視力が下がってしまうので早めに浮腫を引かせる必要があります。
また、頻度は高くありませんが、網膜静脈閉塞症では、根底に血流不全があるので時間がたってから新生血管が形成されて硝子体出血や血管新生緑内障などの重篤な併発症をきたすことがあり、合わせて経過を見る必要があります。
網膜静脈分枝閉塞症の眼底写真です。静脈に沿って出血し、網膜の中心である黄斑に出血がかかっています(下図)。黄色い丸で示したところが黄斑です。
2-2. 網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫の治療
浮腫には、加齢黄斑変性と同様、血管内皮増殖因子(VEGF)が関与することが知られています。そこで、抗VEGF療法(硝子体内注射)をはじめとし、必要に応じてレーザー治療やステロイド局所療法、場合によっては硝子体手術を行います。当院のレーザー治療では、PASCAL®、マイクロパルスレーザーまたはマルチカラーレーザーを用い、低侵襲で痛みの少ない治療を行います。
網膜中心静脈閉塞症による黄斑浮腫があることが、網膜黄斑部の断面図であるOCT画像でわかります。治療前です(下図)。
抗VEGF療法(加齢黄斑変性の項にある硝子体内注射と同じものです)を行われた後です(下図)。
浮腫はほぼ消失しました。
3. 糖尿病黄斑浮腫
3-1. 糖尿病黄斑浮腫とは
糖尿病による慢性的な高血糖のため、血管が弱くなり、血液成分が漏出して黄斑浮腫をきたします。糖尿病網膜症の段階が軽くても生じる可能性があり、視力に直接影響しうるものです。長期間継続すると恒久的な視力低下となります。
3-2. 糖尿病黄斑浮腫の治療
加齢黄斑変性と同様、血管内皮増殖因子(VEGF)が影響することが知られています。そこで、抗VEGF療法(硝子体内注射)をはじめとし、必要に応じてステロイド局所注射やレーザー治療、場合によっては硝子体手術を行います。組み合わせて治療することもあります。当院のレーザー治療はPASCAL®、マイクロパルスレーザーまたはマルチカラーレーザーを用い、低侵襲で痛みの少ない治療を行うことが可能です。
4. 近視性脈絡膜新生血管
4-1. 近視性脈絡膜新生血管とは
近視性脈絡膜新生血管は、強度近視のために眼軸長(眼の奥行)が長くなり脈絡膜が伸展することで生じる機械的ストレスなどのために新生血管が生じる病気です。脆い新生血管が生じるために出血などを引き起こし、放置すると恒久的な視力低下となります。
高度近視の眼底写真(下図)
4-2. 近視性脈絡膜新生血管の治療
近視性脈絡膜新生血管の活動性には加齢黄斑変性同様、血管内皮増殖因子(VEGF)の関与があります。強度近視であると、若年者でも生じます。治療の第一選択は抗VEGF療法であり、近視性脈絡膜新生血管が確認されたらできるだけ早く治療することが推奨されます。
尚、高度近視では、新生血管が無くても単純出血を起こすことがあります。その際は治療は不要ですが、見分けるためには眼底造影などの精密検査が必要で、なるべく早く受診していただくことが重要です。
近視性脈絡膜新生血管のある眼の網膜(黄斑)の断面図です(下図)。
新生血管があります(白い塊部分)。
抗VEGF療法(硝子体内注射、加齢黄斑変性の項参照)を行われた後です(下図)。
新生血管が縮小しました。
5. その他の網膜疾患
網膜色素変性
遺伝子変異による網膜色素変性では周辺から視野が欠けていくのが特徴です。
最近では治験やiPS研究などの情報があります。
網膜色素変性とは視細胞や、視細胞に密着している網膜色素上皮細胞で働いている遺伝子の異常によって両眼に起こる、進行性の病気です。特徴的な症状は、夜盲(暗いところでものが見えにくい)、視野狭窄(視野が狭い)、視力低下の3つで、視野や視力の変化を経時的に記録していくことは重要です。網膜色素変性に対しては、現在のところ残念ながら根本的な治療法がありませんが、治療法の開発に向けて、網膜神経保護、遺伝子治療、網膜幹細胞移植、人工網膜などの研究が全世界で盛んに行われています。
また、網膜色素変性だけでなく、錐体杆体ジストロフィー、コロイデレミア、クリスタリン網膜症、先天低在性病夜盲、黄斑ジストロフィー(Stargardt病、卵黄状黄斑ジストロフィー、オカルト黄斑ジストロフィーなど)はじめ、多くの網膜変性疾患があります。未だに確立された治療法はありませんが、専門医師による正しい診断のもと、適切な病状説明、情報提供をし、ロービジョン外来の紹介や生活支援を行っております。
網膜色素変性の眼底写真です(下図)。