聖路加国際病院

St Luke's International Hospital

乳腺外科

手術の種類

手術は乳房と腋窩リンパ節に対して行われます。これらはがんの広がり、位置、乳房のサイズやバランス、リンパ節転移の有無など考慮して決定されます。

乳房の手術

乳房部分切除術

がんの広がりを厳密に評価して、乳腺を部分的に切除します。皮膚の切開線はがんの部位や大きさなどにより異なり、手術時に決定します。手術前に超音波検査やマンモグラフィを再度行い、がんの広がりと考えられる部位を同定し、皮膚の上にマジックで印をつける(マッピング)ことがあります。切除する範囲が広いほど温存した乳房の変形する度合いが強くなります。乳房はもと通りになるわけではなく、大きさが変わることもあります。術後にドレーン(排液管:貯留した体液を体外に排出するためのチューブ)を挿入することもあります。術後は温存した乳房へ放射線療法を行います。手術時、小さなチタン製の金属クリップを乳房内につけますが、これは放射線治療時の位置決めに重要なものです。クリップが入っていてもMRIへの影響はありません。治療終了後も取り除くことはありません。

乳房部分切除術

※病変は正常乳腺に包み込むように切除するため、手術時乳がんそのものをみることはできません。切除したものは後日病理検査で調べます。その結果、温存した乳房にがん細胞の取り残しがあると考えられる場合には、再度追加手術をお勧めすることがあります。取り残しの程度によって部分切除にするか、乳房切除術にした方がよいかを判断します。乳房切除術後でも追加切除が必要になる場合がまれにあります。

乳房切除術

胸筋を残し、皮膚を一部含めて乳腺を切除します。胸筋を切除する方法は現在ほとんど行われていません。術後は切除した部位にドレーンを挿入します。

乳房切除術

補整下着

乳房切除後は乳房の変形を補うための人工乳房やパッド、専用の下着などが市販されています。サイズ、かたち、材質、デザインなど、さまざまな種類があるので、自分にフィットするものを選び、利用されるのも良いでしょう。
パンフレットなども用意していますので看護師にお尋ねください。

補整下着

皮膚温存乳房切除術

皮膚をできるだけ残して乳頭乳輪および乳腺を切除します。がんの広がりに応じて切除範囲を決めます。術後はドレーンを挿入します。

【皮膚温存乳房切除術】

皮膚温存乳房切除術

乳頭乳輪温存乳房切除術

【乳頭乳輪温存乳房切除】

乳頭乳輪を残して乳腺を切除します。未だ安全性や長期成積の評価が不十分なので、適応は慎重に検討する必要があります。

乳頭乳輪温存乳房切除

腋窩リンパ節の手術

センチネルリンパ節生検

乳がん手術の合併症に患側上肢のしびれや腫脹、腋窩(わきの下)にリンパ液が貯留したりする場合があります。この多くは手術に際して腋窩リンパ節を郭清することに伴うものです。腋窩リンパ節を郭清することは、乳がん細胞が転移をしているかどうかを調べるために非常に重要です。病期を判断し、全身治療の方針を決める際に大きな影響を与えます。しかし、腫瘍が小さい場合などには、リンパ節を切除してもがん細胞がリンパ節に転移をしていない場合が多くあります。不要なリンパ節郭清をできるだけ防ぐために、触診や画像検査でリンパ節が腫れていない場合にセンチネルリンパ節生検を行います。センチネルリンパ節とは、乳がんからリンパが最初に流れ着くと想定されるリンパ節のことをいいます。センチネルリンパ節生検はこのセンチネルリンパ節のみを切除して、がん細胞の転移がないかを調べる検査手術です。センチネルリンパ節にがん細胞の転移がなければ、それ以外のリンパ節にはがん細胞の転移はないと考え、センチネルリンパ節以外のリンパ節の切除は行いません。センチネルリンパ節生検は95〜97%正確に転移を見つけることができます。

具体的な検査の方法は、手術前日の午後か当日の朝、核医学検査室で放射性同位元素(RI、アイソトープ)を乳房(乳輪近くの皮下)に注入し、確認のシンチグラフィを撮影します。その後は、通常通り手術室に入室し、麻酔後、RI注入と同じ部位から青い色素を注入します(術後しばらく青い尿が出ます)。RIの反応と色素の染まりを見てセンチネルリンパ節を同定し、摘出します。通常センチネルリンパ節は1〜数個あります。センチネルリンパ節に転移がみられた場合には腋窩郭清を行うことがあります。まれにセンチネルリンパ節を確認できないこともあり、その場合には腋窩郭清を行います。外来で局所麻酔下にて、乳房手術の前後にセンチネルリンパ節生検を行うこともあります。

腋窩郭清

手術前の検査で明らかな転移のあった方、センチネルリンパ節生検で転移の見つかった方が適応となります。腋窩のリンパ節は脂肪組織の中に埋もれています。これらを一塊にして決められた範囲まで切除することを郭清といいます。腋窩郭清後はリンパ液が貯留するためドレーンを挿入します。

乳房再建術

乳がんの手術によって失ってしまった乳房を、新たにつくりなおす手術です。人工乳房を筋肉の下に埋め込む方法(人工乳房再建)と背中やお腹の脂肪や筋肉の一部を胸に移植する方法(自家組織再建)の2種類があります。乳がん手術に引き続き行うこともできます(一次再建)し、数ヶ月〜数年後に改めて行うこともできます(二次再建)。

再建をお考えであれば、主治医および形成外科医に希望を伝え、よく話し合っておく必要があります。元の乳房と全く同じ状態になるわけではないことをご理解ください。

1.適応

ステージ0〜II期、大胸筋が温存されている(人工乳房の場合)ことです。

※上記以外でも、状態、希望により合併症を説明のうえ施行する場合があります。

2.再建時期

  • 一次再建:乳房切除術と同時
  • 二次再建:乳房切除術後、時期をおいて行う(術後何年経過しても施行可能)

3.再建方法での相違点

人工乳房(インプラント法) 自家組織
手術侵襲 小さい 大きい
入院期間 日帰り〜数日 2週間程度
手術跡 乳房切除の傷 乳房切除と皮弁採取部位

人工乳房を用いる方法(人工乳房再建)

人工乳房を覆うだけ健康な大胸筋と十分な皮膚がある場合に行うことができます。乳房切除術、または乳頭乳輪温存乳房切除術に引き続き、通常はエキスパンダーと呼ばれるバッグを大胸筋の下に埋め込みます。これを一次再建といいます。乳房切除を行って時間が経ってからエキスパンダーを挿入する方法を二次再建といいます。術後傷の状態が落ち着いてから、バッグの中に定期的に生理食塩水を注入して徐々に皮膚を伸展していきます。数ヶ月を経た後に、形成外科医によりバッグを取り出し人工乳房(シリコンインプラント)を挿入します。乳頭乳輪を切除している場合は、その後に乳頭乳輪再建を行います。
乳房切除後の検査でリンパ節転移の個数が多かった場合には放射線治療の追加が勧められています。放射線照射後の人工乳房再建は合併症の頻度が増えるので適応や経過を慎重に判断します。
人工乳房再建術後の晩期合併症として、ブレストインプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)が知られてきております。まれな疾患ですが早期発見が重要となりますので、自己検診と医療機関での定期検診の継続が必要です。

人工乳房再建

自家組織を用いる方法(自家組織再建)

広背筋皮弁

【広背筋皮弁】

背中の皮膚・脂肪・筋肉の一部を胸部に移動します。ボリュームが小さいため乳房の大きな方には向きません。

腹直筋皮弁

【腹直筋皮弁】

腹部の皮膚・脂肪・筋肉の一部を胸部に移動します。大きなボリュームを移植することができます。

遊離皮弁

【遊離皮弁(血管吻合を伴う)】

腹部の皮膚・脂肪を胸部に移動します。筋肉を残すため、腹部の合併症は少なくなります。微少血管を吻合するため、高度な技術を必要とします。

●自家組織再建で遊離皮弁(血管吻合を伴う)を行った場合の例

<手術前日>

  • 持続点滴を始めます。手術中、血が固まりやすくなるのを防ぐ目的です。

<手術当日>

  • 手術は全身麻酔で行います。手術時間は6〜10時間程度です(術中所見により異なります)。

<手術の翌日から>

  • 手術の翌日から1週間程度はベッド上にて安静となります。吻合した血管の血流を安定させるためです。その後1週間で歩行などのリハビリを行い退院となります。
  • 手術前に用意していただいた腹帯を手術後から使用していただきます。胸帯は必要ありません。
  • ブラジャーは退院時にはワイヤーのないタイプから、手術後3、4週目より通常のものをつけます。腹帯は1〜2ヶ月、その後は補強下着などで固定を行います。3ヶ月くらいはある程度の固定が必要です。運動は術後1ヶ月目から、軽いものより始めます。

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