聖路加国際病院

St Luke's International Hospital

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前立腺がんの治療

前立腺がんの診断がつくと、がんの広がり、およびがんの悪性度をもとに、根治を目指した治療、進行を遅らせる治療、PSA監視療法など、それぞれの状態で治療方法のオプション(方法)が異なります。前立腺がんは一般には進行が遅いとされていますが、状況に応じてきちんと治療選択をすることが重要です。

ここでは、①治療方法の種類②治療方法選択の目安③転移のある前立腺がんの治療、について概略を説明します。

① 治療方法の種類

前立腺がんの治療方法には大きく分けて次の3つの治療方法を単独、もしくは組み合わせて行います

  1. 前立腺全摘除術
  2. 放射線療法
  3. ホルモン療法(男性ホルモン抑制療法)

が最も代表的な治療方法となります。その他条件があえば、PSA監視療法、進行した場合は抗がん剤療法が行われることがあります(別に説明いたします)

代表的な治療方法についてさらに説明します。

Ⅰ:前立腺全摘除術

手術により、前立腺と精嚢(精液を貯留する袋)を一緒に切除します。がんの転移の可能性が一定程度予想される状況では骨盤リンパ節の摘出も一緒に行います。

メリット:病理組織検査によりもっとも正確にがんの広がり、状況がわかります。それを元に追加治療が必要かどうか判断が行いやすくなります。摘出後はPSA値が低くなるため、再発状況がわかりやすくなります。

デメリット:失禁、勃起機能不全が代表的な合併症です。がんの状況に応じて切除範囲が異なりますので、失禁や、勃起機能への影響は異なります。

※ロボット支援前立腺全摘除術

開腹手術の時代は出血が多く平均で1000mL出血があり、自己血輸血(自分の血をあらかじめためておく)が必要で、それでも輸血が5%程度行われていました。そのため、負担が大きい手術でした。

腹腔鏡手術が導入されましたが、膀胱尿道を縫合する手技が難しく、完全な普及には至りませんでした。それぞれの利点を補って、侵襲の低い手術を実現したのがロボット支援手術です。

当院では2012年に導入されましたが、現在では前立腺がん手術のほぼ100%をこの方法で行っており、安定した治療経過が得られています。詳しくはロボット支援センターのホームページもご覧下さい。

Ⅱ:放射線療法

手術療法と並んで、転移のない、もしくは転移の少ない前立腺がんに対しては放射線療法も有効な方法です。おもに外から照射を行う外照射、前立腺の内部に放射線を出す物質を埋め込む内照射(小線源療法)が代表的な方法です。

メリット:
開腹をせずに治療が可能で、負担が比較的少ないです。

デメリット:
治療期間がやや長期になります。長期的には血尿、頻尿が持続すること、時間が経過してから発生することがあります。再発時の手術は難しくなることが多いです。多くの場合、ホルモン療法の併用が一定程度必要になります。

外照射療法:少量の線量を回数を重ねて、副作用を減らしながら行う方法です。通院で行うことが可能です。通常は1-2か月程度の通院で行います。一回の副作用は非常に軽微です。

内照射療法(小線源療法):前立腺に放射線を出すカプセルを全体に埋め込む治療です。前立腺を超音波で観察しながら留置することで高い線量の投与を合併症が少なく行うことができます(※当院では以前行っておりましたが、現在は行っておりません)。

その他、重粒子線療法、陽子線療法などがありますが、おもな治療のイメージは同様です。

※金マーカーと直腸保護ハイドロゲル注入

正確な前立腺への照射と位置確認の迅速化のために、金マーカーの留置および、直腸出血の低減のために直腸と前立腺の間に、吸収性のハイドロゲル(SpaceOAR®)注入をおこなっています。当院では、積極的に行っており、これにより安定した放射線療法が可能になっております。

Ⅲ:ホルモン療法

前立腺細胞は、男性ホルモン(アンドロゲン、テストステロン)に依存して増殖、組織の維持を行う性質があります。前立腺がんにもその性質が引き継がれ、男性ホルモンを押さえることで前立腺がん細胞の増殖を抑制してがんのコントロールを図ります。

メリット:
通院でも可能。通常は体調不良、脱毛などなく高齢者でも容易に治療が可能。他の治療、特に放射線療法との相性がよく、併用して行われる。

デメリット:
食欲が増加し、体重が増加しやすい。とくに、糖尿病や、脂質異常症などいわゆるメタボリック症候群のある方の場合悪化しやすい。長期にわたる場合は骨粗鬆症になりやすい。のぼせといった、更年期症状がおこることがある。治療薬剤によってはかなり高額な治療となる。

男性ホルモンは精巣からと副腎からの分泌があり、それぞれの由来の男性ホルモンを抑制します。

精巣由来の男性ホルモンの抑制:両側精巣摘除術、もしくは注射(LHRH アゴニスト、アンタゴニスト)

副腎由来の男性ホルモンの抑制:アンチアンドロゲン剤の内服アンチアンドロゲン剤の内服

近年では強力なアンチアンドロゲン剤が発売され、治療効果が以前より高いことが示されています。病状や年齢などに応じて薬剤を変更したり追加したりします。

② 治療方法の目安

転移のない前立腺がんへの治療方法は主に以下の分類に基づいて、大まかに判断します。

PSA、グリソンスコア(がんの悪性度の度合い)、前立腺の広がりの3つの指標を元に、将来の転移、再発のしやすさに応じて高リスク、中間リスク、低リスクに分類します。

  • 高リスク:
    PSA 20以上、グリソンスコア8以上、局所進行状態:手術(リンパ節郭清あり)、放射線(長期ホルモン療法併用)、ホルモン療法の組み合わせ
  • 中間リスク:
    PSA20未満、グリソンスコア7、限局状態:手術(リンパ節郭清あり)、放射線(短期ホルモン療法併用)、(ホルモン療法)単独もしくは一部組み合わせ
  • 低リスク:
    PSA10未満、グリソンスコア6以下、限局状態:手術(郭清なし)、放射線(単独)、(ホルモン療法)、さらに生検陽性本数が少ない場合はPSA監視療法(当面治療せず、定期的にPSA検査前立腺生検を行い、悪化した所見があれば治療)

※PSA監視療法

悪性度の低い前立腺がんが少量検出された場合、グリソンスコアが7でも検出量が少量で高齢・合併症の多い場合などは、当面治療は行わず、PSAの定期的なチェックと、定期的な前立腺生検を繰り返すことで、悪化した場合に治療を行うPSA監視療法(待機療法)を行う場合があります。多くの人に適応になるわけではありませんが、過剰治療を避けるための重要な治療選択肢の一つです。完全に将来の無再発を保証するものではありませんので、よく治療の考え方を理解してもらう必要があります。

③ 転移がある前立腺がんへの治療

転移がある場合の治療の中心は、先に述べたホルモン療法です。全身に散らばった前立腺がんに対して効果を期待して治療を行います。

通常、精巣からのホルモン療法と内服のアンチアンドロゲン剤による治療が行われます。

2015年くらいから、徐々に強力なアンチアンドロゲン剤(アビラテロン®、イクスタンジ®、アーリーダ®、ニュベクオ®)が発売になり、徐々に従来の薬剤に比較して寿命延長する作用が認められており、治療が大きく変わりつつあります。これらの薬剤の投与はそれぞれに細かい適応が決められており、状況によって選択できる薬剤が異なります。

その後の治療として、前立腺がんは抗がん剤に奏効しづらいとされていますが、ドセタキセル、カバチタキセルといった抗がん剤が一定程度効果があることがわかっており、重要な治療方法となる場合があります。

ホルモン療法が効きづらくなった場合で、骨のみの転移が中心の方の場合には、全身の骨に放射線を出す物質を行き渡らせて、効果を示す薬剤(ゾーフィゴ®)の投与を行うことがあります。

さらに、非常に限られた方にしか適応されませんが、遺伝子を調べて、特定の遺伝子変異を認めた場合には、投与可能な薬剤が出現しつつあります。とくに乳がん、卵巣がん、膵臓がんに関連が深いBRCA1、BRCA2遺伝子の変異に対してはPARP阻害剤(リムパーザ®)の有効性が認められています。

これまで記載したような治療方法が代表的ですが、それぞれの治療方法はそれぞれの方にすべて当てはまるわけでもなく、がんの状況、持病、年齢などにより状況によってはできる治療、当てはまらない治療があります。

また、さまざまな特殊な治療はあります。その他の治療方法についてお聞きしたいことがあれば担当医とよくご相談下さい。

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